AIが取締役会で発言する未来

※この記事は日経産業新聞で2016年3月4日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

いよいよ人工知能(AI)と囲碁のトップ棋士との頂上決戦が開催される。3月9日、AIと世界トップ棋士との5番勝負の口火が切られる。勝敗予想は真っ二つに割れている。世界のAI学者はAIが、囲碁ファンはプロ棋士が勝つと予想している。

AIは様々なボードゲームで人間のプロを打ち破ってきた。AI進化の転機となったのは1997年。米IBMの「ディープ・ブルー」がチェスの世界王者を破った出来事だ。その後、将棋でもコンピューターがプロ棋士を負かした。そして2015年10月、囲碁でも米グーグルの子会社が開発したAI「AlphaGo(アルファ碁)」が欧州チャンピオンのプロ棋士に完勝した。

「AIが囲碁のプロ棋士に勝つまでには10年かかるだろう」。つい最近までこのように言われていた。囲碁の碁盤は19×19とチェスや将棋より広く、選択肢は一手ごとに飛躍的に拡大する。アルファ碁を開発したデミス・ハサビス氏によると、囲碁は「宇宙にある原子の数以上の選択肢がある」。途方もない数だ。

チェスの場合、コンピューターは局面ごとに考え得る選択肢をあげ、その中から勝てる可能性が高いものを選んでいる。実際、この方法で勝てた。だが、囲碁では、選択肢が多すぎてこのやり方では勝てなかった。

アルファ碁は「ディープラーニング(深層学習)」という基本思考をとる。過去の対局棋譜というビッグデータを読み込み、自ら模擬対戦を繰り返すことにより、パターン認識能力と戦闘能力を格段に高めることができた。

これはAIが大局観を持てるようになったことを意味する。大局観にシミュレーションを組み合わせ、序盤の布石から中盤の闘い、そして終盤のヨセの精度を磨き上げたのだ。10年かかるとされたプロ棋士との差を、瞬時に埋めてしまったのだ。疲れを知らずに学び続け、意思決定が早く、読みを間違えないAIと人類との勝負。いずれはAIが勝つだろう。このことの意味は大きい。もしAIが囲碁で人類を打ち負かすことができれば、AIが人類に代わって経営をすることができることを意味するからだ。

囲碁と経営は非常に類似性が高い。僕は「経営の複雑性を排除すると、そこには囲碁盤が存在する」という表現をよく使う。

囲碁にはない経営の複雑性は3つのみだ。(1)囲碁は一対一だが、経営では複数のプレーヤーが戦う(2)囲碁では石が勝手に働いてくれるが、経営では多様性に富む人間に働いてもらう必要がある(3)囲碁では外部環境は変わらないが、経営では災害や経済ショック、金融政策、新興国の台頭など外部環境が影響する――。

AIがビッグデータなどを駆使してこれら3つの複雑性を取り込むことができれば、AIが経営の意思決定に関わる日が来るだろう。すると、優秀なAIを抱えた企業が経営というゲームに勝つ確率が高まることを意味する。

AIが人類を負かす時代に何が起こるのか。チェスや将棋の世界では、すでにAIと相談し、AIから学びながらゲームを楽しむことを覚え始めた。僕もコンピューターと囲碁をするときに、画面上でヒントボタンを押して、AIだったらどう打つかを教えてもらっている。

経営の意思決定も飛躍的に進化するであろう。すでにAIは市場分析やマーケティングに活用されている。遠くない未来に、取締役会にAIが座り、まるで外部コンサルタントに見解を求めるように、AIに見解を求めることになるだろう。あるいは、AIが最高経営責任者(CEO)になる時が来るのかもしれない。

今後、人類はAIとともに進化していくことになるだろう。そんな未知の世界の到来を予感させるきっかけになる、AIと人類とのガチンコ勝負。一手一手にワクワクしながらネット中継で観戦することにしよう。

RELATED CONTENTS