※この記事は日経産業新聞で2016年1月22日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。
今、ダボス会議に参加している。ダボス会議は世界経済フォーラムの年次総会の通称で、スイスのスキーリゾート地のダボスで開かれる。今回はダボス会議に関して書いてみたい。
僕が最初にダボス会議に参加したのは2004年だ。ダボス会議を主催する世界経済フォーラムに「ニュー・エイジアン・リーダー」というコミュニティーが新しくできて、その日本の代表として呼ばれたのがきっかけだ。
僕はダボス会議に参加して度肝を抜かれた。世界の重要テーマについて議論するため、政府要人、企業トップ、研究者など世界を動かすあまたのリーダーが一堂に会している。しかも彼らは非常にフランクで、全く気負いなく交流しているのだ。
ダボスのホテルから本会場に向かったときのことだった。僕のすぐ目の前をジョージ・ソロス氏がトボトボと1人で歩いているのだ。信じられるだろうか。あの米国の著名投資家だ。またすぐそこには米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏がいる。国連事務総長を務めていたコフィ・アナン氏もいる。
当時、英国の首相だったトニー・ブレア氏をはじめとする欧州各国の首脳も参加していた。世界銀行のトップや世界の有力企業「フォーチュン500」のトップたちも勢ぞろいだ。世界的ロックバンド「U2」のボーカル、ボノ氏までいた。とにかく、著名人という著名人は皆ここに来ているという感じだった。
特に印象深かったのが、そうした人たちが壇上で意見交換するときの知的レベルやコミュニケーション能力、情熱、醸し出される人間力などの高さだ。話を聞いていると「この人はすごい」という感覚が肌にひしひしと伝わってくる。
反対に「知名度はあるけど、それほどすごさを感じないな」などと思うこともある。僕にとってダボス会議はまさに「リーダーの品評会」だった。
今まで世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの国際機関のトップ、G7の首脳、中央銀行のトップ、ノーベル賞を受賞した学者、ビリオネア経営者、宗教界のトップ、NPO(非営利組織)の設立者など、ありとあらゆるリーダーたちが発する存在感や風格にじかに触れるチャンスをダボス会議で得てきた。
「この人はなぜこんなにすごいのだろう?」と目の前にいるリーダーたちを自分なりの尺度で測ってみた。そうすることで僕には何が足りないのかを見極められる。
足りないものを認識して、その足りない能力を高めるために何をすべきかをリストアップする。そして次のダボス会議に出るまでに、できるだけ差を埋められるよう努力してくる。その繰り返しを経てダボス会議への参加は今年で9回目になる。
それらの努力を通して、ダボス会議の3回目からは毎回セッションに登壇できるようになった。4回目からはグローバル・グロース・カンパニーズ(GGC=売上高が500億円規模の成長企業)というコミュニティーのボードメンバーに選ばれた。
5回目からはグローバル・アジェンダ・カウンシル(世界の問題点を解決するために設立された評議会)の一員に選ばれて、リーダーシップの新しいモデルに関して討議した。6回目からはグロービスが主催する夜の会合である「グロービス・ナイト」を始めた。7回目にはGGCの共同議長を務めた。8回目にはプライベートミーティングに数多く招待されるようになった。そして今年で9回目になる。
今年はどのようなリーダーに会えて、どのような課題を自らが認識できるのかが楽しみだ。ダボス会議は「リーダーの品評会」であるとともに、彼我の力の差を認識する最高の機会でもある。自らの足りなさを大いに認識してきたい。