ベンチャーキャピタルを経営するようになって今年で20年目に入る。新たなテクノロジーがビジネスモデルや組織のあり方、社会生活を変えていくなかで、経営者に求められる能力も変わってきていると感じる。
経営者に必要な能力は次の3つと言われていた。(1)経営に関する知識や理論(2)意思決定力(3)人間関係能力またはコミュニケーション能力――だ。今はインターネットでトラフィック(閲覧者や利用者)を生み出す方法や、ビッグデータを解析して新たなアルゴリズム(分析・計算手法)に従いマーケティングする力が求められている。ビジネスの中心テーマが「テクノロジーを使って従来と全く異なるビジネスモデルを構築していくこと」に進化しているのだ。
フリーマーケット(フリマ)をスマートフォン(スマホ)で展開しているスタートアップ、メルカリの事業は好例だ。
メルカリのアプリが登場するまでは、フリマの会場に行ってモノを売る必要があった。メルカリでは、スマホで写真を撮ってネットに上げることでバーチャルなフリマができる。買い手は売り手と会うことなく、商品を購入できる。
ニュースサイトのスマートニュースは、ツイッターでつぶやかれている膨大な量の情報を解析することで今最も重要なニュースが何かを抽出している。人工知能(AI)が文章を読み、政治や経済、テクノロジー、エンターテインメントなどの分野に分けて自動的にレイアウトしている。
2016年はテクノロジーの知見が豊富な起業家によるイノベーション創出が加速する「テクノベート」の時代に入るだろう。テクノベートはテクノロジーとイノベーションを組み合わせた造語だ。
ここで言うテクノロジーはビジネスモデルや組織自体を変える力を持っているものを指す。
ネットやAI、ロボットなどが具体例だ。ネットの進展に伴い米アマゾン・ドット・コムや楽天などのeコマース会社が生まれた。シェアリング(共有)エコノミーなど、新たなビジネスモデルもできあがっている。
ロボットについても今までは人間がリーダーシップを発揮すればよかった。これからは人間とロボットを組み合わせて組織を構築していく時代が来る。すでに製造工程ではそうなっている。それ以外の分野でも、例えばタクシーや運送業は自動運転技術で大きく変貌するだろう。
AIも組織やビジネスそのものを変える可能性を秘めている。僕はAIが取締役会に座って意思決定に関与する時代が来ると思っている。経営者がボードメンバー(役員)とAIの双方の判断をもとに決断を下すことが起こり得る。
テクノベート時代の経営者は経営の知識・理論に加え、テクノロジーの定石に関する知識が必要になる。経営者が持つべき意思決定能力は、テクノロジーの変化を活用した判断能力に変わっている。コミュニケーションの相手は人間だけでなく、AIやロボットも含まれる。動画配信サービスやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを利用して発信する能力も求められる。
テクノロジーが世界をどう変えていくのか、テクノロジー関係で日本のベンチャー企業がどれだけ世界に進出するか、楽しみにしている。
※この記事は日経産業新聞で2016年1月1日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。