朝食アポが珍しく入っていない。のんびりとした気持ちで、朝7時からメールで日本と連絡をとり、様々な意思決定をする。窓の外はうっすらと明るくなり、アルプスの白い山々が鎮座している様が見える。今日のダボスも晴れだ。本日は、セッションに参加することに重点を置く。
本日は、英国のキャメロン首相とドイツのメルケル首相の揃い踏みだ。この2人のスピーチの比較が、ヨーロッパの方向性を占う意味でもとても興味深い。昼食時には、ビル・ゲイツ氏、ラリー・サマーズ前ハーバード大学学長、フェイスブックの投資家で著名なピーター・ティール氏、トーマス・フリードマン氏やMIT学長が登壇するパネルがある。凄く贅沢だ。
他に楽しみな登壇者は、ヘンリー・キッシンジャー氏、ロシアのメドベージェブ首相、イタリアのマリオ・モンティ首相や、ノーベル経済学賞受賞学者のジョセフ・スティグリッツ氏だ。これは、楽しみだ。これらの話を聞けば、だいたい世界の動きがわかる。
そして、夜はジャパン・ナイトとグロービス・ナイトだ。
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ダボス会議では、昨年まで孤軍奮闘してきたが、今年は心強い助っ人が来ている。本日のグロービス・ナイトに向けて、東京から3名のスタッフ(日本人男、日本人女、欧州人)、そしてグロービスの社長室長だった仲間も、ベルギーから駆けつけてくれる予定だ。堀義人の登壇に続き、「グロービス」がデビューだ。
本日のグロービス・ナイトに合わせて、ジャパンタイムズに僕の記事が掲載された。<a href="http://t.co/JtLvf8Tk ">Aiming to take Japan’s best onto the global stage</a>
本日のWall Street Journalに、グロービスの広告が掲載された。とっくりとちょうしの写真が、日本っぽくて、いいですよね。(^^)
<img alt="2" title="2" src="http://blog.globis.co.jp/photos/uncategorized/2013/01/30/2.jpg?q=75&fm=webp" border="0" style="display: block; margin: auto;" />
メイン会場にて、キッシンジャー氏の話を聞く。「私が生きているアメリカはまだ己を信じている。政府が国民に自己犠牲を求める事が出来ているからだ」。
そして、英国のキャメロン首相のスピーチが始まった。7回連続のダボス登壇。過去3回は、首相としての登場だ。今年、G8を英国がホストする。英国キャメロン首相のエネルギーと気合が伝わってくる。「英国は、やるべきことやった。だが、ヨーロッパはちょっと遅れてしまった」。
英国キャメロン首相は、ダボスの場をうまく使い、英国のポジションを伝えている。またG8の議長としての立場をうまく活用している。「G8では、次の3つをテーマにする。1)自由貿易、2)公正な税金、3)トランスペアレンシー」。G20には、現時点では、殆ど言及していない。
「私は、税金下げることの信者だ。だから最高税率を下げた。所得の補足率を上げて税収を増やし、その分しっかりと税率を下げるのだ。英国は、最も税制的に世界で競争力がある。法人税は20%に近づいている。個人所得税の最高税率も下げた。最もビジネスがしやすいのが英国だ」
「我らのポリシーはヨーロッパに背を向ける為では無くヨーロッパでの地位を築く為の物だ。英国は、EUが中央集権的な政治手法に終始するなら、私も英国にとってもEUは不要になる」。
英国キャメロン首相のスピーチが終わった。キャメロン首相は、とても饒舌だ。演台から離れ、自由に質問を募った。「何でも答えますよ」という姿勢を示している。とても、情熱的に、明確にポイントをつく。隣のドイツ人が「オックスブリッジでは弁論能力を養っている。他の国にはこれが無い」と。
さて、次は「ユーロ圏の危機」のパネルだ。イタリアのマリオ・モンティ首相の登場だ。他パネリストは、オランダ、デンマーク、アイルランドの首相だ。贅沢なパネルだ。モンティ首相が英語で喋り始めた。恐らくこのパネルは、全て英語で実施されるのであろう。
デンマークは、46歳の女性首相だ。赤いジャケットにブロンドの髪が映える美人首相だ。英語で流暢に、政策を語っている。「緊縮財政、改革、ヨーロッパのコア価値の3つが重要だ。ユーロ圏とEU他国とのオープンな交流が必要だ」。
「EUの魅力は、自由貿易だ。これに米国、日本が加われば、GDPが更に成長する。不満があるのは、EU内でユーロ圏の危機ばかりを話し過ぎていることだ。EU内の非ユーロ圏がもっと協調すべきだ」オランダ首相。どんどんこのEU内のユーロ圏対非ユーロ圏のディバイド(分裂)が、顕在化している気がする。
ダボスのメイン会場からモロサニホテルに移動し、プライベートランチ・セッションに参加した。ラリー・サマーズ前ハーバード大学学長、ビル・ゲイツ氏、フェイスブックの投資家で著名なピーター・ティール氏、MITの学長などが、登壇するセッションだ。ダボスでは、プライベート・イベントの方が、面白いことが多い。
11歳のパキスタンの女性が登壇。トーマス・フリードマン氏がインタビューし始めた。スタンフォードの人工知能のオンラインコースを終了した天才少女だ。難しい物理等も含め、全てマスターした。英語で話し始めた。「将来は、物理学者になりたい。キチンと説明し、事例が豊富で、楽しいクラスが良い」。オンライン教育のポテンシャルを痛感した11歳の少女の友達は、イランとインドからだという。
そして、他のパネリストが登壇した。一人目は、Daphne Koller。Couseraの共同創業者兼スタンフォード大学コンピュータ科学の教授。既に200万人の学生が196カ国から学んでいる。
ちなみにこのセッションのテーマは、「オンライン教育が世界を変える」だ。MIT学長、「オンラインでできないのは、寮生活、社会性などだ」。ラリー・サマーズ「物事は思ったより遅く起こり、始まったら予想よりも早いスピードで変化する。例えばリーマンショックなど。大学の教育も思ったよりも早いスピードで変化するであろう」
「大学は、基本的に変わっていない。1970年代のMITと今とでは、殆ど変化がない。一方、例えばIBMはハード会社からサービス会社に変わった等の変化があった。大学教育も変化が始まると学期制、試験制度などを含めてドラスティックに変わるであろう」(ラリー・サマーズ 前ハーバード大学学長)。
「高等教育は、今バブルの状態だ。住宅バブルやITバブルと同じだ。こんなに高い学費は、維持できない。何かが間違っている。教育は、本来の学習の目的からキャリア上での保険や、戦い(トーナメント)へと歪められてきた。教育は、兵器商人の様に、戦争に勝つための道具になっている。これを本来の目的の学習に戻す必要がある」。(ピーター・ティール氏)
ここで、ビル・ゲイツが登壇し、少女が降壇した。そしてSebastian Thrun (UdacityのCEO)が話す番だ。「教育は、全ての基本だ。全ての資源の中で一番重要なのは、人的資源だ。人々が、教育を受ける機会を持つのは、基本的人権の一つだ」。
MIT学長「教授は、オンライン上で学生のメンターのようになっていくであろう」。ラリー・サマーズ「アメフトの試合を会場で見るのか、それとも快適な自宅で観るのとどっちがいいのか? そもそも、どっちに人がお金を払おうとするのか? 人と会い、交流することの価値を過小評価してはいけない」。
<写真1>「オンライン教育が、世界を変える」のパネル。右からCourseraの共同創業者、MIT教授、ビル・ゲイツ氏、トーマス・フリードマン氏、ラリー・サマーズ氏、ピーター・ティール氏、UdacityのCEO。
<a href="http://blog.globis.co.jp/.shared/image.html?/photos/uncategorized/2013/02/01/hori_davos_03_3.jpg?q=75&fm=webp" class="mb"><img alt="Hori_davos_03_3" title="Hori_davos_03_3" src="http://blog.globis.co.jp/hori/images/2013/02/01/hori_davos_03_3.jpg?q=75&fm=webp" width="650" height="151" border="0" style="display: block; margin: auto;" /></a>
昼食会場を出て、雪で固まった道を20分ほど歩き、メイン会場に戻ってきた。目の前に、SPで守られた背が高い女性がいるなぁと思って見ていたら、クリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事だった。目が合った時に声をかけようかと思ったけど、お互い急いでいたので、遠慮した。
メルケル首相のスピーチの会場に遅れて到着。印象は、疲れている感じだ。3年ほど続けてメルケル首相のスピーチを聞いてきたが、今回は力強さを感じないし、あまり準備してない感じだ。ユーロの問題の緊急性が無いからだろうか? 地方選挙に負けたからだろうか? 今から、シュワブ氏との対談だ。
「日本が為替を弱めていることを危惧している」。メルケル首相が、日本を名指ししたのは、ちょっと意外だった。中央銀行の独立性に関しても日本の名が上がった。日本が、これだけ話題に上がることは過去になかった。そういう意味では安倍政権は成功しているのだろう。一番よくないのが無視されることだから。
「ユーロ通貨は、EU加盟国皆の共通通貨にすることが共通認識で始まった。ユーロには、誰でも入りたい人が入れる。門戸は開いている」(メルケル首相)。英国キャメロン首相のスピーチを受けてのコメント。
メルケル首相のスピーチからよく出てくる言葉が、「投資家」だ。とても、投資家や市場を意識した政策を練っている。あれ、会場から質問を一つも受けないで、あっと言う間に終わってしまった。今回は、キャメロン首相に軍杯が上がった気がする。
メルケル首相のスピーチを終えて、「成長に向けた新しいビジョン」のセッションにいる。パネリストは、OECD事務総長、ダウケミカルのCEO、ウィプロのアジム・プレムジ氏、コスタリカとスウェーデンの大統領・首相と、東芝の西田会長だ。
東芝の西田会長。「成長には、次の3つが必要だ。1)不断のイノベーション、2)生産性の向上、3)リスクに対応する強靭さ。バリュー・イノベーションとプロセスイノベーションとは、別だ。前者は革新、後者が改善で前者が難しい」
今回のダボス会議では、日本人の登壇者が少ない。日本への関心が高まっているのに、良いスピーカーがいないわけではないのに、とても残念だ。
登壇者から、次のコメントがあったから、会場から質問してみた。「『生産性の向上が、世界の職を減らした』とのコメントがあったが、1)本当か? 2)もしそうならば、どうやったら職を増やせるのか?」。みなさんは、どう思いますか?
ホテルの部屋に一旦戻り、ジャパン・ナイトの会場に向かう。そして、夜9時からはグロービス・ナイトだ。どんな感じになるか、楽しみだ。
2013年1月30日
一番町の自宅にて執筆
堀義人