ここに、3つの会社がある。福島産の米を使ってライスバーガーを作るA社、海藻から石けんを作るB社、身体障碍者を雇用して病人や高齢者に食事を宅配するC社だ。
この3社の共通点がわかるだろうか?
これらはすべて、3.11の東日本大震災の地震と津波による被災後に、東北で社会起業家たちが立ち上げたソーシャルビジネス・スタートアップである。
このようなソーシャルビジネスの主目的は、利益ではない。雇用創出、不利な境遇にある人々のエンパワメント、空洞化したコミュニティの活性化など、ポジティブな社会的インパクトを生みだすことを目指している。
東北では、災害から約5年が過ぎた今もなお、活気を取り戻せていない中小都市が多い。物理的なインフラ(家、工場、漁場、農地)の倒壊と再建の遅れが、若者の大都市への移住を加速させ、コミュニティの空洞化が深刻になっている。
日本にソーシャルビジネスの恩恵を必要とする地域があるならば、それは東北だろう。
しかし、残念ながらソーシャルビジネスには課題が多い。
何より、安定とは程遠い。なぜなら、(a)規模が小さい、(b)労働力をボランティアに依存している、(c)運転資金を寄付に頼っている。とてもではないが、これは長期的な持続のレシピとは言い難い。
もちろん、実行可能かつスケーラブルなビジネスモデルを持つソーシャルビジネスも、少ないながら存在する。しかし、そんな彼らとて、事業を拡大し勢いを保つには、資本が必要になる。
では、ソーシャルビジネスが資本を得るにはどこに行けばいいのだろうか? ベンチャーキャピタル? いや、それは難しい。経験上、ベンチャーキャピタルのお金は、バイオテックやAI、ロボティクス、インターネットなど、ハイリスクをハイリターンで補える分野に流れるものだ。
その対極にあるのが、ミドルからローリスクでローリターン、場合によってはノーリターンの社会的投資だ。
社会的投資の目的は、資本利益率ではなく、社会的利益である。すなわち、公益――最終的に私たち全員に恩恵があるもの――に貢献することを目指している。
社会的利益という概念が生まれたのは、先ごろの金融危機による悲惨な結果がきっかけだ。利己的な行動で危機を引き起こした資本家が、その富と知を世の中を良くするために使っていたらどうなっていただろう? 資本市場が、リスクとリターンに次ぐ第3の次元としてポジティブな社会的インパクトを追加することで、2次元的なアプローチを広げていたら?
英国のデービッド・キャメロン首相は、2013年のG8サミットで、社会的インパクト投資タスクフォースを創設し、このような価値観の変化に対応した。タスクフォースのミッションは、「インパクト投資の国際市場の成長を促す」ことである。
タスクフォースの委員長はロナルド・コーエン卿。英国の先駆的なベンチャーキャピタリストだ。コーエン卿は2015年5月、世界的な普及活動の一環で東京を訪問し、社会的インパクト投資(SII)についての講演を行った。僕は、コーエン卿と話す機会を得た(彼とは1999年に共同でベンチャーキャピタルのファンドを設立しているので、すでに友達だった)。彼は僕にこう言った。「日本初のSIIファンドを設立したらどうだい?」
これについては、少しさかのぼる必要がある。僕は2011年に、東北再建に資金を提供するKIBOW(希望とRainbowを組み合わせた造語)基金を設立している。KIBOWはこれまでに1億円以上を集め、100を超える社会起業家に、10万円から1500万円の資金を提供してきた。
コーエン卿がスピーチで強調していたように、社会的投資は、社会起業家の理想主義とベンチャーキャピタリズムの実践的なノウハウが融合して、初めて効果を発揮する。
つまり、KIBOWの寄付にベンチャーキャピタルのファンディングを重ねることで、東北にポジティブなインパクトを持つ、実行可能かつ大規模なビジネスを創るチャンスが飛躍的に広がるのだ。
そこで僕は2015年9月、総額5億円のファンドを設立した。このファンドは、1000万円から5000万円の出資を行う。出資対象は、「従来のVCが関心を示さないものすべて」とシンプルだ。
冒頭で紹介した3社――ライスバーガーメーカー、海藻石けんメーカー、食事宅配事業者――は、このファンドがすでに出資しているか、あるいは出資を検討している会社である。
日本の誰もがそうであるように、僕は、傷ついた東北の復興に、できるかぎりのことをしたい。
その呼称からもわかるように、社会的インパクト投資は、真のインパクトを与えることができる。1銭も得られないかもしれないが、何にも代えられない「心の配当」をもたらしてくれるのだ。社会への善行は、すべての人に見返りを与える。そして、マスターカードのCMではないが、その価値は「プライスレス」だ。
(訳:堀込泰三)