マーケティング1.0(Marketing1.0)
マーケティングの最も初期の段階の形。顧客に他の製品を選択する余地はほぼなく、あるニーズを満たす製品の開発とその製品を知らしめるプロモーションが活動の鍵となってくる。
マーケティング1.0の最も典型的な例とされるのが、ヘンリー・フォード率いるフォードモーターによって1907年から市場導入された「T型フォード」(「フォード・モデルT」)の生産、発売である。T型フォードの特徴としては、ほぼ20年間にわたる生産期間の間、基本的に単一の車種を売り続けたことにある。これが実現できた背景としては、製品の完成度に加え、特に初期の段階においては競合に対して圧倒的なコストパフォーマンスを誇り、多くのタイプの品揃えが必要なかったことにある。フォードにとってみれば、「つくれば売れる」という状況であり、彼らの関心はもっぱら生産の合理化、コストダウンと、サービス体制の拡充にあった。
フォードの「同じものでもつくればそれだけ売れる」という姿勢は、“youcanhaveanycolouryouwantaslongasit'sblack.”という言葉に色濃く表れている。T型フォードの色は黒のみであったが、これはもちろん他の色に対するニーズがなかったことを示すものではない。そうしたニーズにいちいち応えるまでもなく、消費者に対して圧倒的に優位な立場を築けていたことを意味する。
なお、マーケティング1.0は、主に20世紀前半の「売り手が強かった時代のマーケティング」を含意することが多いが、現代でもマーケティング1.0的なアプローチが機能する状況は十分に起こりうる。たとえば、HIVやマラリアに対する特効薬が登場すれば、それは「つくっただけ売れる」という状況を十分にもたらしうる。つまり、強いニーズがあり、他に有力な競合がいなければ、マーケティング1.0的なアプローチでもいまなお企業は十分に売上げや利益を上げうるのである。