モラル正当化(MoralCredential)
ある事柄について善いことをした人間が、別の事柄については、「別のところで善いことをしたのだから、このくらいは許されるだろう」と、モラルの高くない意思決定をしてしまうこと。
具体的な例としては、たとえば外で「小さな親切」をした後に家族にきつく当ってしまう、あるいは、寄付行為をした後に会社で強引な値引き要求をしてしまうなどが挙げられる。
この現象の面白いところは、実際に最近とった行動ではなく、昔とった善い行動を思いださせるだけでも、ある程度の効果があるという点である。したがって、これを交渉の場で活用することも可能だ。
たとえば、人事考課ミーティングを想定しよう。A課長は、彼の部下であるBさんを係長に昇格させたいと考えている。Bさんは、実績の面では同僚と横一線だが、A課長とは非常に仲の良い立場にある。ここでA課長は、彼の上司であるC部長に対して、以下のように言ったとする。
「あのとき、部長は、情実ではなく、とにかくコンプライアンス重視ということでDさんに自主退職を勧めました。立派な行動だったと思います。ところで・・・」
このように切り出されると、C部長の方も「確かにあのときはそうだった。まあ、あの時は自分なりに会社のために頑張ったから、今回はある程度適当でいいかな。A君の案に積極的に反対する理由もないし」などと考えてしまいがちとなる。
一方で人間には、一貫性の心理もある。これは、上記の人事考課ミーティングの例でいえば、「昔正論にこだわったのだから今回も正論にこだわる」というタイプだ。モラル正当化と一貫性の法則のどちらが強く働くかは、人によって、あるいは状況によって変わってくる。
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