生存バイアス(SurvivorshipBias)
脱落あるいは淘汰されていったサンプルが存在することを忘れてしまい、一部の「成功者」のサンプルのみに着目して間違った判断をしてしまうというバイアス。
たとえば、プロスポーツ選手の平均年俸が高いことを理由に、子どもをプロスポーツ選手にしようと考えるケースがこれにあたる。高給を受け取るスター選手は、基本的に、厳しい生存競争を勝ち抜いた勝者ばかりである。数年たっても芽が出ず、無名のまま去る若者のほうが多いことは容易に想像がつく。
つまり、我々が目にしている選手は、それほどのスター選手でない場合でも、残っているというだけで、かなりのエリートなのだ。そのエリートの数字のみを見て、「平均的なプロスポーツ選手像」を描いてしまうのは、実態以上に物事を過大評価することにつながるのである。
生存バイアスは、様々なシーンで現れる。たとえば株式やFXの顧客の声やデータなどが典型的だ。証券会社やFX会社は、マーケティングのツールとして、たとえば3年以上利用している顧客の平均リターンの数字を示すかもしれない。その数字はおそらく、初心者には魅力的な数字と映るだろう。
しかし、3年以上投資をしているという段階で、そこに強いスクリーニングがかかっている。株式投資はまだしもプラスサムになりえるが、FXなどは基本的にゼロサム(手数料を引けばマイナスサム)の世界であるから、本来、期待リターンはマイナスのはずだ。しかし、早々に損をだしてFXを止めてしまった人のデータが抜け落ちてしまうため、長期顧客のデータだけ見るとプラスになってしまうのである。
企業分析やケーススタディなどを行う際にもこのバイアスには注意が必要だ。現在存在している企業だけを対象とすると、やはり生存バイアスの罠に落ちることになる。現在存在している企業は、基本的に生き残った企業であるから、その中からどれだけ「参考になる失敗例」を抜き出したところで、しょせん、「生き残った中での悪い例」にとどまってしまい、本質的に何が悪かったのかという点にまで到達しない可能性が高い(特にベンチャー企業のスタディではこの点は非常に重要)。
この他にも、成功者の伝記や、テレビの長寿番組の成功物語など、生存バイアスはそこかしこにあふれている。我々が見ている世界が、往々にして淘汰や競争を勝ち抜いたサンプルだけの世界であることを意識したい。
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グロービスの講師ならびにMBA卒業生など、幅広い分野から知を結集して執筆された、約700語の経営用語を擁する辞書サイト。意味の解説にとどまらず概念図や具体例も提示し、マーケティング、ファイナンスなどの分野別に索引できる。今後、検索機能ほかサイト機能の追加を行う一方、掲載用語を1000語程度まで拡充した上でサイト上でのご意見の収集ならびに監修の実施を通じた更なる精緻化を図り、グロービス編著のベストセラー書籍『MBAシリーズ』と併読いただける書籍として出版を予定している。