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ダボス会議2015年(2) 「ダボス会議の潮目が変わった 」

投稿日:2015/01/22更新日:2022/07/12

ダボス会議の潮目が変わった

ダボス会議2日目の朝。朝6時過ぎに起きて、寝ている間に溜まりに溜まった日本からのメールに返信をする。そして着替えてからエデルマンが主催するプライベートな朝食会へと向かった。まだ外は真っ暗だ。

会場となるホテルに到着した。ホテルのセキュリティが厳しすぎて長蛇の行列ができ、結局寒い中15分間も外で待たされることになった。今年はフランスでのテロがあったからか、例年に比べてセキュリティ・チェックが厳しい。

セキュリティで待たされた人が多いので、大幅に遅れてエデルマンの朝食会が始まった。 リチャード・エデルマン社長が信頼度調査の結果を報告し始めた(エデルマン社長は、2013年のG1グローバルの最後の全体会でも登壇してくれた)。

エデルマン社長のスピーチの骨子は、次の通りだ。

「クラウス・シュワブ氏が企業経営に必要なこととして次の4つを指摘した。1)社会の成長を促し、2)利益を生み出し、3)リスクをマネジメントし、4)社会から信頼されること、だ。そのうち4番目の“信頼されること”が一番重要である」

信頼されるための方法として、エデルマン氏はいくつかの方法を共有してくれた。
・政府と組むことが良い。Uberがボストン市と組んだのは良いことだ。
・税金を払うことが重要だ。アップルがアイルランドやオランダを使って税を回避しているのは、信頼度を落とす。下手な節税は不公平感を招き、不信感に繋がるので良くない。
・第一に、従業員へのコミュニケーションを行うべきだ。従業員が一番重要なステークホールダーだ。彼らに信頼されないと、社員から対外的に悪い評判が生まれる。
・信頼を得るためには、徹底的に「過激」なディスクロージャーをすることだ。
・そして、社会問題を解決し、個人と社会に便益を与えていることを示すことが重要だ。信頼度は言行一致によってもたらされる。言葉よりも行動が重要だ。

エデルマン社長の挨拶の後にパネルディスカッションが始まった。僕は過去参加した2回とも登壇する立場だったが、今回は初めて聴衆として参加することになった。じっくりと話が聞けて、興味深かった。

昨年までのダボスと今年の決定的な違いは、テクノロジーセクターへの批判がオープンに語られていることだ。Uberへの批判、さらにはアップルが税金逃れをしているのではとの疑義。暗号化されたコミュニケーションによる「ダークウェブ」の存在。ソニーへのサイバーアタックによる危険性。さらには、政府の統制が効かないことによる不透明感・不公平感等の不満だ。

ネットのドメインやプロトコルを決めているICANNのチェハデCEOは、強い危機意識を持って語り始めた。「今年9月の国連総会の主要アジェンダの一つがインターネットと社会だ。社会全体がネットに対して批判的になってきた。業界が主導して自主ルールを決めないと、世界の政府が規制に乗り出すことになるだろう」と。

過去に金融業界が批判された。人々にとって分かりにくいデリバティブやらヘッジファンドなどの新たな金融工学を駆使し、法外の報酬を得て、シャドーバンキングという暗闇が見え隠れしていたが、最後にバブルが崩壊し、信頼が地に堕ちて、規制の網がかけられた。今度は、テクノロジー業界が批判されるのだろうか。IT業界も人々にとってわかりにくいコードを書き、AIのエンジニアリングを駆使して法外の報酬を得て、「ダークウェブ」という暗闇を背負っている。そのうちITバブルが崩壊し、信頼度が地に堕ちるのだろうか。

エデルマン信頼度調査で面白かったのは、今年は全てのセクターが信頼度を落としているという事実だ。隣に座っていたケビン・ラッド元豪首相は、その点に関して次のように語った。

「当初は政府を信頼したが、不祥事が多くあったので政府は信頼を失った。そして市場を信頼し、ビジネスに期待がかかったが、格差が広がり、カネもうけ主義の批判が出て、NGOに期待が移った。だが、NGOも広がりが弱く、ディスクロージャーが不透明で、最終的にはテクノロジーに期待することになった。だが、ここに来て、テクノロジーセクターへの信頼度も堕ちた」

「つまり、人々の信頼は常に移り変わってきたが、今回は全てのセクターで信頼度が堕ち、失望感が広がった。一巡したので、今後は政府の信頼度が戻るのではないか」と。即座にICANNのCEOが反論した。「政府への信頼が戻るのではなくて、最終的には、マルチステークホールダーが集うプラットフォームへの信頼度が高まるのであろう」と。興味深い考察だ。確かに世界では、ダボス会議が力を持ち、日本ではG1サミットが日本を良い方向に動かし始めている。信頼度を失わないように努力をしたい。

いずれにせよ、今年はテクノロジーへの人々の見方が変わった年として記憶されることになるのであろう。

ホテルの会場を後にして、メイン会場へと向かった。会場の中で、懐かしい顔にいっぱい会うことができた。シンガポールの元外相、香港のヴィクター・チュー氏、BBCのニック・ガーウィング氏、インドネシアのリッポー社の社長、中国CEIBSの学長等だ。日本からは、三菱商事の小島会長、武田薬品工業の長谷川会長、リクルートの峰岸社長、サントリーの新浪社長などだ。

出会う度に立ち止まって挨拶をして、また歩き始めるとまた出会い、立ち止まって挨拶することの連続だ。そこらじゅうで、談笑が始まるのだ。一方で、折角の機会なので様々なセッションにも精力的に参加することにした。

先ずは、フィナンシャル・タイムズのマーティン・ウルフ氏との30分間の対談だ。ウルフ氏は、世界で最も影響力がある経済記者だ。僕は一番前に陣取った。

他に視聴・参加したセッションは、原則テクノロジー関係ばかりだ。過去8回は、政治、経済、金融、経営、リーダーシップなどのセッションに参加してきたが、今回のダボス会議では、最新の動向を把握するために、テクノロジー・セッションに集中して参加することにしていた。

セッションは「ロボットとAI」「デジタルとクリエイティビティの融合」さらには「DNAとAIチップ」の話などだ。イーロン・マスクやホーキングのAIへの脅威論がニュースになったこともあり、多くのリーダーが関心を示していた。

午後5時半を過ぎた時にメイン会場では、中国の首相のスピーチがされていた。だが、会場の関心はあまり高くない。イアン・ブレマー氏がツイートしていたが、「共産党のプロパガンダ的なスピーチ」だったようだ。

今日、印象に残ったのは、「ダボス会議に参加している政治、ビジネス、NGOのトップが合意しても、解決できない問題が数多く存在している」という事実だ。国家という概念での脅威よりも、国家を超越した組織やネットワークに脅威が移っているように感じた。それがISISであったり、テロリストであったり、アノニモスのようなハッカーであったりするのだ。

明日からのダボス会議では、更に多くのセッションに参加し多くの人と意見交換をして、見聞を広めていきたい。明日は下村大臣を招いた朝食会があり、夜にはジャパンナイトそしてグロービス・ナイトがある。本日、グロービスのスタッフも、グロービス・ナイトに備えてチューリッヒに着いたようである。

僕も明日に備えて、早めに就寝することにする。Good Night!

2015年1月21日
ダボスにて
堀義人

(Photo:Gil C / Shutterstock.com)

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2011年2月3日 ダボス会議2011~(7) マスコミの課題と新たな発信
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2004年1月27日 ダボス会議参加報告(その1)
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