1904年から1905年にかけての日露戦争は、中国東北部・遼東半島のポートアーサーに陣取っていたロシア艦隊を日本海軍が攻撃したことをきっかけに勃発した。
日本軍とロシア軍はなぜ第三国で交戦したのだろうか。それは、当時の中国は大部分が外国に侵略されていたからだ。
ロシア軍は1897年以来、ポートアーサーを掌握していた。ポートアーサーは戦略的に有利な場所に位置し、年間を通じて凍らないことから、ロシア太平洋艦隊の基地として絶好の港だったのだ。
僕は数年前、今では旅順と呼ばれるポートアーサーを訪れた。歴史ファンとして真っ先に見学に行った場所の1つは203高地、すなわちポートアーサーを見下ろす標高203メートルの丘だった。
203高地は日露戦争できわめて重要な役割を果たした。日本軍はこの丘を奪取するために、2か月半の時間と数千人の命を費やしている。だが、203高地は戦略的に非常に貴重な場所とみなされていた。
なぜだろうか。それは、203高地を掌握すればたちまち、港にいるロシア太平洋艦隊を意のままに爆撃し、ポートアーサーの支配権を1カ月足らずで手にすることができたからだ。
なぜ、僕は前置きとして戦史について語っているのか。それは、ある単純な主張を例証したいからである。その主張とは、戦いにおいては「管制高地」を掌握するのが勝利の秘訣であるということだ。
管制高地は、ビジネスで言えば競争優位、つまり勝ちやすい支配的な地位を確立することである。
僕は、ビジネスの競争優位は5つの要素から構成されていると考えている。
1つずつ見ていこう。
1. 規模の経済性
規模のメリットは明白だ。最大の企業は規模の力だけで勝利してしまう。DRAMメモリ製造分野におけるサムスン、受託生産分野におけるフォックスコン、MBAスクールとしてのハーバードはその例だろう。
2. 範囲の経済性
規模は重要だが、企業が成功するには範囲も必要だ。例えばサムスンはDRAMメモリのみならず、液晶ディスプレイ、スマートフォン、テレビ、パソコン、電池も製造している。ハーバードも然りで、基本的なMBA課程から出発し、エグゼクティブ教育や出版のような他分野にも進出した。
3. スピードの経済性
規模と範囲だけでも、成功を保証するには不十分だ。動きの遅すぎる大企業は、ライバルに追い越されてしまうだろう。日本の電機メーカーであるソニーとパナソニックはその例である。両社は規模と体力を備えていたが、それでもなお、よりスピーディなトップダウン寄りの経営スタイルを採用するサムスンに取って代わられた。僕のモットーはこうだ。企業にとって「適切な」スピードなど存在しない。唯一の適切なスピードは、「競合相手よりも速い」ことである(組織のスピードを向上させるための僕なりのアイデアについては、以前の記事で取り上げた「最速組織の作り方」)。
4. コミュニケーションの経済性
企業はまた、自社のブランドと価値観を顧客に対して効果的に伝える必要もある。ビジネスにおいては、黙っていては何も伝わらないというのが厳しい現実だ。メッセージを伝え、目に留めてもらう努力をしなければならない。誰にも知られていない会社や製品、サービスは、存在しないも同然なのだ(僕なりの効果的なコミュニケーションの4原則についても、以前の記事で取り上げた。「ブランド・プレゼンスを高める4つの秘訣」)。
5. グローバルであることの経済性
日本は1990年、世界のGDPの約10%を占めていた。その割合は今や、5%をわずかに上回る程度まで低下している。人口減少と高齢化にともない、今後も低下の一途をたどるだろう。同じような(ただし日本ほど顕著ではない)傾向は米国にも見られる。米国が世界のGDPに占める割合は1950年には27%を上回っていたが、今や20%を切るまでに縮小しているのである。ここで得られる教訓はこうだ。縮小する一方の国内市場だけを相手にする企業は、国内市場とともに縮小する運命にある。グローバル経済を活用しなければならない。ここでもまた、サムスンは格好の例だ。同社は2013年、総売上高の実に90%を地元韓国の国内市場以外で生み出しているのである。
僕が1992年に創設したビジネス・スクールのグロービスでは、この「5つの経済性」モデルに基づいて競争優位を構築することに努めてきた。
1992年に開校したグロービスは、今や日本の上位3大学のビジネス・スクールを合わせた以上の大きさにまで成長した(規模)。
そして、MBA課程による収益の2倍を法人向け研修およびエグゼクティブ向けプログラムによって生み出している(範囲)。
競合相手である大学は先行者として優位に立っていたが、グロービスは迅速な意思決定によってそれらの大学よりも素早く動くことができた(スピード)。
また、グロービスをあえて教育界の「異端児」として位置づけ、あらゆる形式のメディアや口コミを通じて常に自らを売り込んできた(コミュニケーション)。
英語MBAプログラムでは50カ国近くから学生を集め、法人部門は上海とシンガポールにも事務所を開設した(グローバルであること)。
「管制高地」を掌握できなければ、塹壕戦のシナリオに陥る羽目になるだろう。つまり、利益を生み出すために競合相手と長く苦しい戦いを続けることになるのである。
そういうわけで、僕にとって「5つの経済性」モデルは間違いなく、強固な競争優位を築くための非常に実際的なフレームワークになった。
あなたはどうだろうか。
ビジネスという戦いで管制高地を握るためのあなたの戦略は?
ぜひ意見を聞かせてほしい。
※この記事は、2014年11月25日にLinkedInに寄稿した英文を和訳したものです。
(Photo: Shutterstock / elwynn )