あまり出張に出ることがない人は、仕事で世界中を飛び回るのはとても魅力的で優雅なことだというイメージを抱くことがあるようだが、現実はそうでもない。長時間のフライトと時差ボケがつきものの海外出張は、肉体的にかなり重い負担がかかる。
飛行機に乗って僕が経験した人生最悪の出来事は、1998年に起こった(当時36歳)。その年は6カ月にわたって出張続きで、アジア、米国、ヨーロッパを飛び回り、結局、大西洋、太平洋、ユーラシア大陸をそれぞれ6回ずつ横断することになった。
異常の兆候が最初に現れたのは、米国の東海岸で重要な投資家との会合に参加したときのことだ。急に鼻血が出て、止まらなくなった。肉体的苦痛はさておき、投資家候補の前で「赤いインク」を垂れ流すのは、サブリミナル効果としてはおそらく最悪だったはずである。
その年の後半、事態はさらに悪化した。
イスラエルのプライベート・エクイティ投資会社との交渉のために、現地に出張したときのことだ。最初の朝、起きると目が非常に乾いて充血し、いつものように開かない。幸いなことに、ホテルに僕を迎えに来た先方のパートナーは、イスラエル空軍(IAF)で戦闘機パイロットを経験した人物で、彼は目薬を買える薬局へ連れて行ってくれただけでなく、空の旅に関するアドバイスもしてくれた。以来、僕は今日までそのアドバイスに忠実に従っている。
まず、彼はこう強調した。飛行機の座席はビジネス・ラウンジのような居心地が再現され、航空会社は食事や映画で乗客の気を紛らわせようと最善を尽くしている。しかし実際のところ、客室内は極めて不自然な環境だ。その理由は5つある。
1. 湿度がゼロに近い
2. 気圧が異常に低い
3. 宇宙線の量が異常に多い
4. 異常に狭い空間に押し込まれる
5. 時差ボケのせいで体内時計が乱れる
そして彼は、5つの秘訣を伝授してくれた。
1. 乾燥対策として、顔に保湿ローションを塗り、目に目薬を差す。水を十分に飲み、体内に水分を補給する。マスクをして鼻と口の周りに湿気を閉じ込めることで、湿った空気を吸い込めるようにする。
2. 低気圧対策としては、アルコールを控えるのが得策。気圧が下がると血中の酸素濃度が下がり、その結果、疲労や吐き気、めまいといった症状が出る可能性がある。アルコールが体内にあると、そのような症状はさらに悪化してしまう。
3. 飛行機を降りた後は、シャワーを浴びるか、砂の上を裸足で歩いて自分を「アースする」ことによって、余分な電磁気を追い払う。運良く出張先がカンヌやリオデジャネイロならば、ビーチに行って泳ぐだけでいい。残念ながら、たいていのビジネス街ではビーチを探すのは至難の業だが…。
4. 狭い空間で長時間身動きが取れないことへの対策としては、適切なエクササイズを習慣にしよう。他の乗客の目を気にして恥ずかしがる必要はない(僕に言わせれば、彼らのほうこそエクササイズをしないことを恥じるべきなのだ)。僕はいつもドア付近のスペースに行き、イチローがしているようなストレッチ一式と腕立て伏せを15分かけて行うのを楽しみにしている。
5. 時差ボケ対策として、飛行機に乗ったらすぐに腕時計を目的地の時刻に設定し、それに応じて行動する。
もちろん1990年代以降、飛行機での移動に関連した問題に対する意識は大幅に向上した。航空会社は利用者に対し、水をたっぷり飲んで体内の水分量を保つことと、客室内を歩き回ってエコノミークラス症候群を防ぐことを積極的に呼びかけるようになった。
このように風潮が変化したとはいえ、イスラエルの友人直伝の「サバイバル・マニュアル」の中には、いまだに実行がきわめて困難な項目も存在する。例えばマスクは、日本ならどこのコンビニでも売っているが、欧米では手に入りにくい(しかも、欧米人はマスクをするのを敬遠しがちだ)。また、最近は機内への液体の持ち込み制限が厳しいため、目薬や保湿ローションを透明のビニール袋に入れなければ、手荷物検査を無事にパスできない場合もある。
IAF仕込みのビジネス・フライトの秘訣には、お手軽とは思えないものも混じっているかもしれない。それでも僕は、すべての秘訣を実行することをぜひともお勧めする。
結局のところ、空の旅をスマートに過ごさなければ、目的地での仕事をスマートにこなせるはずがないのだから。
※この記事は、2014年9月26日にLinkedInに寄稿した英文を和訳したものです。
(Cover photo: Pressmaster/ shutterstock)