僕は2014年が、大規模公開オンライン講座(MOOCs: Massive Open Online Courses、ムーク)ではなく、小規模限定オンライン講座(SPOCs: Small Private Online Courses、スポック)の「元年」になると確信している。
現在、オンライン教育をめぐる議論が白熱している。特に、大規模公開オンライン講座(MOOCs)――一流大学がインターネットを通じて世界中の数百万人を対象に提供する無料講座――は多くの賛否両論を生み出している。
賛成派はこう主張する。MOOCsを利用すれば、より高度な教育を、より低コストで、より利用しやすい形で受けることができる、と。ニューヨーク・タイムズ紙のトム・フリードマンは、年間5万ドルの教育を誰もが無料で受けることを可能にするのがMOOCsだとまとめている。
だが、否定派が挙げることのできる欠点は山ほどある。ほとんどのMOOCsには講義ビデオと多項選択式のテストしか用意されていないため、学生は受け身かつ孤立した状態にある。顔を合わせて直接やりとりするという、教育プロセスの中で最も楽しく刺激的な部分はすっかり抜け落ちている。
数字がはっきりと示すように、学生の意欲を引き出すという点ではMOOCsの前途はまだ長い。登録者数は数百万人にのぼるが、学生の脱落率は現時点で90%を上回るのだ。
しかし最近、MOOCsが取るべき最善の道についてコンセンサスが生まれつつある。それは、いつでもどこからでも利用でき、オンラインでリアルタイムに双方向のやりとりができるというインターネットの利点と、オフラインの世界でやりとりすることによって得られる知的刺激や交友、周囲からの健康的な圧力とを合体させた、いわゆる「融合型」だ。
2014年4月から、東京に本校を置き僕が学長を務めるグロービス経営大学院では、日本語オンラインMBA講座の提供を開始する予定である。この講座は大規模な無料のMOOCではなく、オンラインとオフラインの良い点を巧みに融合させたSPOCである。グロービスでは、そのような小規模で限定的なオンライン講座こそ、最も効果的な遠隔教育の方法だと考えている。
他の機関が提供するオンライン講座について調査した際、調査対象者は口を揃えてこう述べた。タブレットやPCを眺めているだけでは結局は飽きてしまう、他人と物理的にやりとりする機会が設けられた講座があるといい、と。
そこで僕たちが目指したのは、オンラインの部分もインタラクティブ性が高い、小規模で限定的なMBA講座を作ることだった。グロービスでは常にケースメソッドという、ディスカッションに基づく教授法を利用してきた。現在では、ブロードバンドの普及と新たな通信テクノロジーのおかげで、そのようなグループ・ディスカッションをオンラインでも質を低下させることなく実施できるようになっている。
それどころか、オンラインでのディスカッションは、実際の教室でのディスカッションよりも質が高くなる可能性もある。なぜかと言うと、チャット・プログラムを利用すれば、そのとき画面上で発言している学生以外の学生も、サイドバーで質問や話題を提起することができる。そうすれば、面白そうな論点を特定し、ディスカッションを常に前進させることが容易になるからだ。
しかも、もしも学生が気分を変えたいと感じたときには、日本中の5つのキャンパス(東京、大阪、名古屋、仙台、福岡)のどこで実施される対面授業にも出席できるようにした。
全ての講座と単位については、オンライン講座とオフライン講座の間で入れ替えがきく「クリック・アンド・モルタル」方式を採用している。
オンライン講座を開設することは、従来のMBA講座の学生のためにもなる。学校の対面授業に出席できなかったときは、同じ授業をオンラインで受講することができるからだ。
僕が思うに、反MOOC/オンライン教育派には、この対立をゼロサム・ゲームと見なしている向きが多すぎる。彼らは、オンライン教育が得をすれば、オフライン教育が必ず損をすると思い込んでいるのだ。
僕の視点はそれとはまったく異なる。
僕は、オンライン教育によって教育のパイ全体が大きくなると考えている。グロービスの例で言えば、僕たちは従来のMBA講座からオンライン講座へ切り替える学生も多少はいるだろうと思っている。だが全体としては、オンラインMBA講座を開設することで、今までとは全く異なるタイプの学生、つまり、初めてMBA講座を利用できるようになった日本の遠隔地――北は北海道、南は沖縄、西は四国――に住む人々を引き寄せることができるものと見込んでいる。
デジタル・テクノロジーは、ニュース、出版、エンターテインメント、銀行など、あらゆる分野に革命をもたらしている。教育も例外ではない。教育には独特の社会的価値があるという理由だけで、教育を聖域として扱い、変化から遠ざけることは不可能だ。
僕たち教育者は、新たなテクノロジーを取り入れる必要がある。ただし、そのテクノロジーを利用する際は、全ての人にとってプラスになる方法で利用しなければならない。全ての人とはすなわち、教職員、既存の学生、そして何よりも、距離という単純な物理的理由のために今までは受けたい教育を受けることのできなかった新たな学生全体である。
オンラインとオフラインの利点を巧みに「融合」した小規模限定オンライン講座(SPOC)によって、大学は教育の質を全く犠牲にすることなく、これまでよりもはるかに多くの人々に教育を提供できるようになるだろう。これは非常に良いことだと僕は思う。
あなたはどうだろうか。オンライン教育についてのあなたの立場は? 支持派だろうか、懐疑派だろうか。あるいは僕のように、その中間派で、オンラインとオフラインの良い点を融合させる解決策を探っているだろうか。
あなたの意見と経験をぜひ聞かせてほしい。
いずれにしても、2014年はSPOCs元年になるだろう。そして、その新たな時代の幕開けの一翼を担うことを僕は楽しみにしている。
(Photo: Globis)
※この記事は、2013年12月10日にLinkedInに寄稿した英文を和訳したものです。
※この記事は、LinkedInのインフルエンサーが2014年を形作るビッグ・アイデアを1つずつ取り上げるというシリーズの一部である。