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2つの日本:無能なリーダーと勤勉な市民

投稿日:2014/05/28更新日:2019/09/20

寿司からソニーのウォークマンに至るまで、日本には有名なものがたくさんある。だが悲しいことに、効果的なリーダーシップはその中には含まれていない。

2006年後半から2012年後半の間に、日本の内閣総理大臣は6回も交代した。このように「首相が回転ドアのようにくるくると入れ替わる」せいで、外国の首脳たちは国際サミットで日本のリーダーと顔を合わせることにうんざりしていた。

2011年3月に東日本大震災が発生すると、日本のリーダーシップは改めて厳しい目にさらされた。福島第一原子力発電所が津波に襲われ、放射能漏れを起こし始めたとき、菅直人首相は国内外に向けて明確な情報伝達を行うことができなかった。菅首相は延々と会議を行ったが、具体的なアクションプランは何1つ生み出さなかった。議論の条件を形成するのではなく、世論に反応する形で即席の発言を繰り返した。そして結局、あらゆる人の信頼を失うことになったのである。

東日本大震災からちょうど1カ月後の2011年4月、グロービス経営大学院はエコノミスト誌との合同カンファレンスを開催した。そこである外国人CEOが言ったことを僕は決して忘れないだろう。彼は、「リーダーがこれほどお粗末で無能であるにもかかわらず、日本がどうやってここまで成功できたのかわからない」と言ったのだ。残念ながら、彼の意見は世界のコンセンサスそのものだった。僕には日本を擁護する言葉が見つからなかった。

被災地における一般の日本人のふるまいは、日本のリーダーのふるまいとは対照的だった。一般市民は家や仕事、場合によっては愛する人を失っていた。混み合った避難所で生活し、当初は明かりや暖房、十分な食料もなかった。彼らは暴動を起こしたり、略奪行為に及んだり、不満を訴えたりしただろうか。答えはノーだ。彼らは静かに自分たちの生活の再建に取り組み、隣人の生活の再建を手助けしたのである。これは、個人の立ち直る力と共同体精神が見事に発揮された例だった。

個人と同様、組織も見事なふるまいをした。勤勉な道路工事作業員たちは、ひび割れやゆがみの生じた高速道路を数日で補修し、緊急物資を輸送できるようにした。ガス、水道、電気はすぐに復旧した。工員たちは、損傷した組立ラインを速やかに再稼働させた。全体的に見て、他の自然災害のケースに比べて、被災地の規模を考慮すると、復旧のスピードは驚くほど速かった。

実のところ、日本には2つの側面がある。つまり、無能なリーダーという側面と、真摯で勤勉で協力し合う市民という側面だ。

しかし、日本人がそれほど有能であるならば、有能なリーダーが生まれるはずではないのか。残念ながら、答えはノーだ。そして、日本が有能なリーダーの不足にこれほど深刻に悩まされている背景には、ごく単純な理由が存在する。それは、有能なリーダーを生み出すメカニズムがないということだ。日本ではリーダーシップ教育がまったく行われていない。中学校と高校では、大学入試対策に重点が置かれる。大学に入ると、「スキル」よりも「知識」が重視される。僕の場合、生まれて初めてリーダーシップの授業を受けたのは、20代後半にハーバード・ビジネス・スクールに入学してからだった。

それこそが、僕がグロービスというビジネス・スクールを設立した動機である。グロービスは、「創造と変革の志士を育成すること」を使命に掲げている。僕たちはケース・メソッドによる授業を通じて、そのようなギャップを埋める新世代のリーダーを生み出すことを目指している。

グロービスは1992年に発足したが、既に成果を上げつつある。岩佐大輝氏を例に取ろう。

東京を拠点とするIT起業家の岩佐氏が、グロービス経営大学院に在学していたときのことである。東北にある彼の故郷の町が津波に襲われた。彼はすぐさま、がれきの撤去活動を手伝いに向かった。そして、荒れ果てた故郷を目の当たりにして涙を流した。美しい海辺は破壊され、両親や近所の人々が経営するイチゴ農園は跡形もなく流されていたのである。

数週間後、彼は気付いた。自分がビジネス・スクールで学んだノウハウを活用すれば、もっと力になることができる、と。彼は500万ドルの資金を調達し、2012年1月、コンピューター制御の巨大な温室3棟で大粒の甘い高級イチゴを栽培する会社を設立した。

岩佐氏の大胆な試みは、切望されていた雇用と税収を生み出すことで、彼の故郷の復興を後押しした。彼は、日本において特に保守的な業界の1つである農業に、新たなテクノロジーとマーケティングの概念を導入した。さらに、日本中の他の起業家に刺激を与えるロールモデルになった。

日本には岩佐大輝氏のような、刺激を与えてくれるリーダーがまだほとんどいない。だが、状況は変わりつつある。

誇りを持ってこう言える時が来ることを願おう。日本には、勤勉な市民だけでなく、彼らのために働く有能なリーダーもたくさんいる、と。

この記事は、2013年8月14日にLinkedInに寄稿した英文を和訳したものです。

  • 堀 義人

    グロービス経営大学院 学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー

    京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事を経て、1992年株式会社グロービス、1996年グロービス・キャピタル設立。2006年グロービス経営大学院を開学。2008年に「G1サミット」を創設。2011年には復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げる。2016年に茨城ロボッツ、2019年に茨城放送オーナー就任。2022年にLuckyFesを立ち上げ、現在総合プロデューサーを務める。2024年よりBARKSオーナー、世界最大のPR会社の米国エデルマン社 社外取締役。

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