スタンダード・オイル社を設立したジョン・ロックフェラーと、ハーバード大学の基礎を築いたジョン・ハーバード――あなたはどちらを尊敬するだろうか。質問をもう少しわかりやすくしてみよう。巨万の富を生み出す帝国を築き上げた人物と、一流の教育機関を創り出した人物。どちらを高く評価するだろうか。
答えを出すのは簡単ではない。僕も以前、この問題を改めて考えさせられたことがあった。それは、1992年にハーバード・ビジネス・スクール(HBS)を卒業し、自分の会社であるグロービスを立ち上げた後のことだった。事業のコンセプト自体は単純なものだった。僕は日本で、ケースメソッドを駆使し、明確なビジョンを持つリーダーを育成する、HBSのような教育機関を立ち上げたかったのだ。
グロービスは当初、営利を目的としてスタートした。最初の10年間は毎年、正味30%から50%という成長率を達成することができた。さらに拠点を東京だけでなく大阪、名古屋にも広げ、年間1,000万米ドル以上の利益を上げていた。しかし僕らは最終的に、どのような方向を目指すのかを選択する必要に迫られた。つまり、グロービスを公開企業にして、成功の勢いはそのままに突き進むべきか、あるいは非営利の道に転換し、数百年にわたって伝統を築き上げられるような大学を創設することを目指すべきか。その二者択一を迫られたのである。
前者を選べば、膨大な個人資産が得られることはわかっていた。後者を選択すれば、配当やキャピタル・ゲインは期待できないけれども、何か有意義なことができる可能性がある。一年半の間、僕たちはどうすべきかじっくりと考えた。僕はこの間、一人の人間として、さまざまなことを冷静に自問した。人生の目的は何だろうか。自分の人生を何のために使いたいのか。自分は何を最も重視するのか。最終的には、沈思黙考して欲から身を遠ざけ、金銭や権力、名声に対するこだわりを捨てるよう努力した。そうするうちに、自分自身の真の姿、そして自分が人生やビジネスにおいて何を成し遂げたかったのかが、はっきりと見えてきたのだ。
最終的にグロービスは、非営利の学校法人を設立し、15年以上にわたり学校事業とビジネスで得た資金を学校法人に寄付することにした。そして、大学の設置認可も取ることができた。以降、グロービスは日本において、規模の面でも(最大の経営大学院)、学生満足度の面でも(日経新聞のランキングで複数回にわたり首位を獲得)、No.1のビジネス・スクールとしての地位を不動のものにした。今ではアジアでNo.1となる目的も見据えて邁進している。
今振り返っても、僕は自分の決断を後悔していない。友人の何人かは巨万の富を築いている。大富豪になるのも悪くはない。だが、教えること、リーダーを育てること、新しい事業を創り出すこと、僕はこうしたことが大好きなのだ。だからこそ、ジョン・ロックフェラーではなく、ジョン・ハーバードの背中を追いかけることにしたのだと思っている。
ハーバードとロックフェラー、あなたなら、どうするだろうか。この質問を自分に投げかければ、将来の目標について考える際の手がかりになるはずだ。
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※この記事は、2013年6月30日にLinkedInに寄稿した英文を和訳したものです。