「女性脳と男性脳の論理」の執筆者であるグロービス経営大学院 教員 溜田信のお薦めは「硬」と「軟」の2冊。
『丹生都比売 梨木香歩作品集』
梨木香歩 著
2013年にお勧めした『家守綺譚』に続く、梨木さんの本である。標題の「丹生都比売(におつひめ)」と8つの短編集からなるこの本は、これからも何度も読み返すことになりそうな予感がする。「丹生都比売(におつひめ)」は、草壁皇子(くさかべのおうじ)の10歳のころの物語として描かれている。
“触れれば音がするのではないかと思われるほど、空気のぴいぃんと張りつめた秋の野を、おばあさまの葬式の列が音もなく通ります”で始まるこの小説は、主人公の母親(後の持統天皇)に対する想いと恐れを描き出しながら、最後の悲劇へと向かっていく秀逸な作品。他の短編とも合わさって、「ひとはみな、生への寂しみを引き受けて生きていく」(著者)作品集になっている。
今回は、なんとも不思議な感性にあふれた本。これも、忙しく厳しいビジネスの合間に、ふっと心を癒したい方にお薦めである。
『丹生都比売 梨木香歩作品集』、梨木香歩 著、新潮社 (2014/9/30発売)
『統計学が最強の学問である[実践編] データ分析のための思想と方法』
西内啓 著
昨年ヒットした「統計学が最強の学問である」の続編だが、その質は全く違っている。昨年読んだときは、人に薦める気がしなかったが、今回の[実践編]は、自信を持って薦める事が出来る。なぜか?前作は「この本を読んでも統計学が使えるようにならない」本であったのに対し、今作が“使える”本だからだ。それは、著者自身が「様々なビジネス領域で定量的な分析の実務経験を積んだ経営学者」として、ビジネスマンが使える統計学入門の本を書いたからである。
本文には、数式は出てこないが、本質が書かれている。例えば、「データ分析を因果関係の洞察、すなわち、コントロールしたい結果とそれに影響を与えうる原因の候補、という観点でとらえるのである」と書いてあるが、正にビジネスの要諦そのものである。逆に、補足には十分すぎる数式が記載されており、より深く理解したい読者には最適な内容になっている。「数字が苦手」な「ビジネスマン」は、必ず読むべし!一つだけ忠告しておくが、本質が書かれている本は、優しくはない。でも、必ず力になる。
『統計学が最強の学問である[実践編] データ分析のための思想と方法』、西内啓 著、ダイヤモンド社(2014/10/24発売)