最終日の朝、バタバタと会議に参加する用意をする。会議のドレスコートは、徹底的にカジュアルである。ここが、スーツが基本のダボス会議と対比をなすところ。更には、子供達がいることも、大きく違っていた。
昨晩は、子供達はプールサイドでのディナー・パーティだった。波が出るプールで、5人の子供達は、ずっと遊んでいたという。そこで出会った男友達を、また長男が部屋に連れて帰って来ていたようだ。子供達も、夜更かしをしているようだった。だからか、朝も遅くなる。僕も、同様に朝が遅くなる。
でも、朝8時からのセッションに間に合うように、ジーンズを履き、Tシャツの上に黒のパーカーを着込む。移動時は寒いが、コートをいちいち脱ぐのが面倒なので、コートは部屋に置きっぱなしだ。靴だけは、ダボスでのと同じ黒のスノーシューズだ。そして、G1の名札を頭からかけて、部屋を出る。
-----
G1最終日のセッションが始まった。僕は、先ずは社会福祉セッションに入った。「日本の“第三の道”~強い社会保障と経済成長の両立は可能か~」、だ。パネリストは、直前まで副官房長官の任にあった古川元久さん、権丈善一氏(慶應教授)、山本雄士氏(科学技術振興機構フェロー)。そしてモデレーターが、黒川清氏だ。
僕は、セッションを聞きながら、ツイッターに印象に残った言葉を呟き続けた。(筆者注記:多少わかりやすく加筆修正しています)。
最初から衝撃的な数字のオンパレードだ。「2009年の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は、39兆円の赤字。消費税で言えば、15.6%分だ。政府の目標は、2020年までに基礎的財政収支の黒字化だ。だが、先進国は、『基礎的財政収支』ではなく、『財政収支』の黒字化が目標。つまり、諸外国では、財政関係費用を含めた『財政収支』が、計算根拠の常識なのだ」。(権丈教授)
「トロントのG20では、2016年迄に財政収支を黒字化することが目標として設定されて、日本だけ無理だろうから除外されることになった」(権丈氏)
「これから少子化がさらに進展する。日本は、低負担・低福祉や、高負担・高福祉は、不可能。高負担中福祉か、中負担・低福祉しかない。何故ならば、財政が既に悪化しているのと、少子高齢化が進んでいるからだ」(権丈氏)
次に、東大医学部卒、ハーバードMBA卒のパワーエリートの山本氏だ。「こんな機会は無い。ありがたい。学生の頃、教授として鎮座されていた黒川清先生に大胆にもラブレターを書いて、会ってもらったことがあった。雲の上にいる黒川さんと同じ壇にいる。今朝、黒川先生から、おまえ過激に行けよ、と言われた」。
30代若手の山本氏「医療は、既にコストではなくて、投資に見合う時代になってきた」。今年のG1は、30代の若手の活発な意見が多く面白い。G1では、30代から50代前半がメイン。一方では、先輩世代の意識が高いリーダー(武田薬品工業・長谷川閑史氏、三菱ケミカルホールディングス・小林喜光氏など)も多い。
「スウェーデンの成功の背景には、市場経済を徹底させ、生産性が低い企業を倒産させ、生産性が高い企業・業種を振興したことにある。労働者は、失業させ、その失業者に対するセーフティ・ネットを創っている。資本家の資金はゼロになる。とても厳しい、競争社会だ」(権丈氏)
「セーフティ・ネットを張れば、チャレンジャーが増える、という人がいるが、そもそもリスク・テーカーは、セーフティ・ネットなど考えない。(つまり、別の政策が必要だ)」(権丈氏)
モデレーターのはずの黒川清先生が、発言したくなり、熱く語り始めた。これもこれで、面白い。質問者からの質問を遮って、黒川さんが熱く語り始めた。これが許されてしまうのは、黒川さんの人格だろう。G1の良さは、フロアと一体となった議論だ。
他の分科会は、「日本の発信力を高める」と、田坂広志さんのセッション「『リーダーの言霊力』とは何か」だ。ここで、他のセッションにも、表敬参加してこよう。おっとここで、國領二郎先生が、会場から質問。う~~ん、まだ残りたいし中継したい。この続きの報告、更には他の分科会の報告は、GLOBIS.JPに掲載する予定なので、譲ることにする。
G1サミットには、180人の参加者に加えて、ツイッターを通して数万人の参加者がいる。その数多くの参加者に、僕は、一生懸命に語りかけているのだ。これから避けて通れない、大規模改革を進めるには、みんなの力が必要だからだ。
最後の分科会が始まる。「地域から始まる日本の改革」、だ。今注目の若手改革派の知事として、3知事が登壇するセッションだ。尾崎正直高知県知事、古川康佐賀県知事、湯崎英彦広島県知事だ。「地域からしか始まれない改革」が本来のタイトルだ、と冒頭に上山信一モデレーター。
質問:「なぜ知事になったのか?」尾崎知事:「2つの出来事があった。1つ目、国全体の有効求人倍率1.0を超えた時に、ふるさとの高知県の数値が0.42だった。この時のことを今も覚えている。もう1つが、橋本大二郎前知事が不出馬を決めた後に、多くの出馬要請を受け、男冥利に尽きたからだ」。
「地方は、今典型的な縮みスパイラルに入ってきている。有効求人倍率が上がらない。人口減少、少子高齢化が進み、経済規模が縮む。そして、求人が無くなる。高齢者の孤立化が進んでいる。こういう地方では、官から民だけではうまくいかない」(尾崎知事)
「こういう状態では、民による資本の蓄積が生まれない。課題が多いからこそ、高地県を成功事例にしたい。食料とエネルギーの供給源となりたい。キーワードは、官民一体だ」(尾崎知事)
「前提無しで語られる場合は、東京の事。地域のことを話す時は、G1サミットでもそうだが、わざわざセッションを作っている。日本をどうしようか、と議論する時には、3千万人の東京ばかりでなく、地域を念頭に入れて欲しい」(古川知事)
「16年ぶりに新たな知事になった。選挙戦の対抗馬は、美人の県議。盛り上がるかと思っていたら、投票率がたったの33%だった。残念ながら関心が低かった」(尾崎知事) 投票に行こう!(堀)
この様に呟いている間に、ツイッターの「#G1summit」に数多くの書き込みがあった。僕は、その一つの呟きを、リツイートした(つまり、僕のフォロワーに見える形にした)。
「G1summitのハッシュタグが面白い。いつも思うのは国政レベルで将来を憂うなら当事者である若者が選挙に行くことしかレバーがないんだよね。僕は選挙に行くこと(日本再生)と、息子を海外でも働けるように教育すること(日本脱出)、の二方向を実践しています」 @dkobaさんの書き込みだ。
その対話を通して、一つのアイディアを思いつき、早速ツイッターに書き込むことにした。
「もうそろそろG1サミットが、クロージングを迎えます。そこで、皆さんに質問です。ズバリ、『G1に何を期待したいか』を、教えてください。可能ならば、クロージングで紹介したいので。『何も期待しない』とか批判的なことは、御遠慮ください。『批判より提案を』」、と。
つまり、クロージングで、皆さんの呟きを紹介しようという考えなのだ。そして、僕は、「志が高い知事が多いのは、心強い。素晴しい」、と引き続き呟き続けた。
そして、次に訪問した分科会が、「うつ病と組織の健康~組織のトップが知っておくべきこと~」。スピーカーが、冨高辰一郎氏パナソニック健康保険組合予防医療部部長医学博士で、インタビューアーが、お医者さんでもある湯本優氏だ。本日の朝には、「インナーマッスルを鍛えよう」というセッションを、井上英明さんと一緒に朝6時半から実施した。20名近くも参加されたと言う。G1は、夜も遅いが、朝も早い。
もう一つのセッションも凄い。「日本の文化政策~美という文化資本の継承~」。パネリストは、近藤誠一氏(文化庁長官)、松岡正剛氏(編集工学研究所所長)、蓑豊氏(兵庫県立美術館館長)で、モデレーターは、松井孝治氏(参議院議員)だ。
次のセッションは、僕がモデレートする全体会だ。G1サミット2011の最後のセッションだ。登壇者が、素晴らしい。野中郁次郎氏、松岡正剛氏、そして、田坂広志氏だ。テーマは、統一テーマと同じ、「次代に引き継ぎ、変革し、新たに創るもの」、だ。
野中郁次郎氏、松岡正剛氏、そして、田坂広志氏が、それぞれ20分ずつの登壇をされた。言葉が宙を駆け巡り、頭脳が刺激され、会場が知に包まれていくのがわかる(詳細は、GLOBIS.JPの報告に譲ることにする)。
僕が、モデレーターとして壇上に上がった。壇上には、知の巨人3人と実践者の僕。僕は、一つだけ質問して、会場との対話に入る段取りにした。質問は、「これから変革を担うリーダー達に何を望むのか。言葉をお願いします」、だ。
会場は、知のパワーに圧倒され、フィナーレへと向かった。クロージング・セッションでは、G1サミットのアドバイザリーボードメンバーが全員壇上に上がり、僕が司会進行して、進められた。
会場からは、イェスパー・コール氏、アレン・マイナー氏、そしてロバート・フェルドマン氏から、それぞれコメントをもらった。フェルドマン氏の言葉が印象的だった。「日本は、今眠っているだけだ。眠れる森の美女を起こす王子様が必要なだけなのだ。その王子様達がここにいる、ということを確信できた」、と。
僕が、10分ほど時間をもらい、以下3つのことを申し上げた。
1)G1サミットは、手作りで行っている。資金も無い、人手も無い。是非このG1を、みんなの力で盛り上げていってほしい。
2)今回ツイッター・ブログを解禁した。多くの共感を数万人と共有できたのが、大きい。これからの変革には、仲間づくりが不可欠だ。
3)イニシアティブ・行動を。今回ワークショップを行った。是非明日から、日本、そして世界を良くする行動を起こそう。
そして、ツイッターから募った「G1に期待するもの」を読み上げた。
□変革の意識場が生まれ、そのたゆまない活動が日本のリーダーたる方々のネットワークに不可欠な存在になっていただきたい。
□G1サミットへの提案 1)可能な範囲で公開いただくこと 2)頑張っているNPOの表彰など、現場で頑張っている人を顕彰する仕組みをつくること 3)与野党若手で共通の政策提案をまとめること。
□知を結集するのだから、成果物として国へのrequirementをまとめ、提出するところまで。そして、意見や異論のある若者の参加機会も!
□知の伝播と参加者各々の実行。そして次世代の育成。
□G1に参加される方々がなにを想いそしてどう行動しているかを示し、われわれがそれにどう関わっていけるかを教えていただきたい。
□G1サミットから放たれる日本発世界へ、の積極的な発信、発言を期待します。世界からも注目されるメンバーが揃っているので、国内だけにとどめておくのはもったいない。
などだ。全て強く印象に残るものばかりであった。ツイッターがかなり良質で有効な媒体であることが証明されている気がする。
そして、最後に協力してくれた方々にお礼を申し上げた。登壇者、参加者、サントリーさん、協賛者、星野リゾートを紹介した後に、僕のわがままで、最後にお礼をしたのが、G1のスタッフ、つまりグロービスの社員だ。G1には専任スタッフは、殆ど置いていない。本業に従事しながら、サポートしてくれたのだ。
彼らの緻密且つ献身的なサポートが無ければ、この規模のコンファレンスは、スムーズには、進行しない。会場から、大きな拍手が鳴り響いた。来年もG1サミットで会いましょう、と告げた後に、壇上を下りて、先ずはパソコンに向かい、以下呟いた。
「今、G1サミットの全てのセッションを終えた。ツイッターから頂いた数多くの意見を、最後に紹介させてもらいました。数万人あるいはそれ以上の皆さんとともに、日本を良い方向にもっていきたいと思います。後で、まとめて感想等をアップします。今から参加者にお礼してきます」。
そして、昼食会で参加者に謝意を示し、別れを告げた。駆け足で、部屋に戻り、パッキングをして、会場に戻り、パソコンを仕舞いに行った。その時に以下の通り、数万人の仲間達に呟いた。
「今までの雪が嘘だったかのように、晴れ渡る空。まるで、G1のこれからの進化を祝しているかのように感じられる。多くのG1参加者をお見送りした。今から家族7人で昼食だ。スタッフの奮闘をねぎらい、星野リゾートに感謝をして、夕方に東京に戻る予定だ。それまでは、暫しお待ちください」。
そして、車の中で、携帯から以下の通り、呟いた。
「東京に戻る車の中。雲一つ無い快晴。八ヶ岳そして、富士山が見える。子供達とともに、富士山の美しさに、感動する」。
2011年2月14日
三番町の自宅にてツイッターをもとに執筆
堀義人