土曜日の夜10時過ぎに、NYのホテルに着いた。そのホテルの常連でもあるので、セントラルークを見下ろす部屋にアップグレードしてくれた。LA、スノーボード、サミットと疲れていたので、早目に寝ることにした。
翌朝、デスクに座り、溜まりに溜まった仕事を片付ける。目の前には、セントラルパークの緑が広がり、その上に水色の空だ。久しぶりに一日のんびりしている。僕は、怠慢にするときには、思いっきり怠惰な生活を送ることにしている。中途半端な怠惰では、リフレッシュできない。思いっきり怠惰になるのだ。すると、リフレッシュでき、次へのパワーに繋がるのだ。その夜は、昔からの友人と食事を楽しんだ。
翌日、NYでの仕事開始だ。グロービスのベンチャー・キャピタル(VC)を、投資家として10年以上にわたって支持してくれた方々に、グロービス・キャピタル・パートナーズの仮屋薗と2人でファンドの状況を説明に行く。NYで二日間を、その活動に当てつつ、親しい方々と夕食をともにする予定だ。
あまり知られていないが、グロービスの400億円規模のファンドの80%以上が海外投資家による資金だ。なぜこれだけ多いのかと言うと、日本ではなかなか資金が集まらなかったので、海外に依存するしかなかったからだ。グロービスの日本でのベンチャー創造活動は、海外投資家により支えられている。グリー、ワークスは、海外資本のお陰でもある。
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日本の機関投資家には、国債を買うのではなく、VCに資金を投下して欲しいところだ。ベンチャーに資金がまわらないと、新たな価値やダイナミズムは生まれない。日本でVCが、育たない一番大きな理由は、資金が集まらないからだ。
グロービスの1号ファンドはたったの5億円強だったが、2号ファンドで200億円に拡大した。その理由は、海外から180億円以上集めたからだ。日本のみに固執していたら、20億円も集まらなかっただろう。だから、海外から集められないVCは、小さい規模になり、キャピタリストも育たないのだ。
海外の投資家は、会社ではなくて、人を見て判断する。海の向こうにいる、その当時37歳の僕を信じて、一社あたり数億円の資金を投資してくれたのだ。その投資家達に定期的に報告に行く。その期待に応えて良いリターンを生み出すと、喜んでくれる。今日、明日とNY近郊の投資家達とのミーティングだ。
米国のVCへの資金源の中で大きな比重を占めるのは、年金基金と大学基金。日本では、双方とも国債の運用が多い。大学基金がデリバティブで損を出した後に、文科省から通達が届いた。「可能な限り元本保証で、運用するように」、と。これでは、情けない。グロービス経営大学院の基金は、当然最低半分はVC投資に回す予定だ。
本日訪問した投資家から、次の二つの記事を紹介された。最近欧米では、日本見直し論が盛んだ。日本の株価は、これから上がると思う。
http://goo.gl/iLHOD Stop looking in the rear-view mirror at Japan
http://goo.gl/hSV0o A compelling case for investing in Japan
NY投資家訪問二日目は、プライベートジェットをチャーターして、ミシガンにある投資家訪問だ。朝6時15分にホテルを出て、NJに位置する小さな空港に向かう。朝7時過ぎにプライベートジェットに乗り込む。セキュリティ・チェックもチェックインも不要だ。パスポートを忘れたのに気づき、ホテルにわざわざ折り返したが、結局不要だった。朝7時10分にジェット機が離陸した。
マンハッタンの摩天楼を遠目に見ながら、右旋回して、一路ミシガンへ。7人乗りのジェット機に2人の乗客を乗せて、飛ぶ。僕にとって、プライベートジェットに搭乗するのは、2回目だ。 堀義人コラム 3週間の世界一周出張(その8-ミシガン編)
平坦な地形が続く。思わず眠くなり一寝入りする。目が覚めると白い平地の景色だ。右下に五大湖の一つのオンタリオ湖が白く凍っているのが見える。ジェット機は、高度を下げて、白い平地に吸い込まれるように着陸した。そのまま滑走路を歩いて、ハンガーを通り抜け、待機していた黒塗りの車に搭乗する。
予定より早く着いたので、ファミレスの「ビッグボーイ」でダブルデッカー・チーズバーガーを楽しむ。レストランの中は、中西部の田舎風の客層で埋まり、映画に出てきそうな雰囲気だ。朝10時前に投資家の事務所を訪問し、1時間半みっちり打ち合わせをして、黒塗りの車に再度搭乗する。
来た道を戻り、空港へ。会議がうまくいったので、気持ちが良い。空港に着き、すぐにジェット機に搭乗し、エンジンがスタートし、離陸した。青い空が広がり、眼下に白い平地が続く。こんなに中西部が平坦だとは知らなかった。地平線を遮るものが無い。スナックを取り出し、腹ごしらえをし、また機内で一休みだ。
目が覚めたら、自由の女神とマンハッタンの摩天楼が目に入った。ワールド・トレード・センターのツインタワーが存在しないのが、寂しい印象を与える。着陸後、パイロットに別れの挨拶をし、小型バスに乗り、滑走路を離れ外に出て、待機していたリムジンに乗り込む。待ち時間ゼロだ。ストレスも全くない。
一旦ホテルに戻り、15時に、グロービスのJ/Vパートナーだった、Apax Partnersの事務所を訪問した。懐かしい会話を楽しみ、ホテルに戻った。その日、コロンビア大学のジェラルド・カーティス先生と夕食を楽しんだ。
11日間の出張の最後の日の朝7時半からパワー・ブレックファーストを楽しみ、朝8時半にホテルを出て、JFK空港に向かった。その合間に自宅に電話した。子供達から嬉しい報告があった。三男(小3)「サッカーのコーチから金メダルもらったよ。リフティング145回できたから」。五男(5歳)「囲碁が31級に上がったよ」。もうそろそろ彼らに会える。
JFK空港のラウンジで、以下4ツイート、呟いた。
今JFKのラウンジだ。これから東京に帰る。全11日の日程を今、終えようとしている。LAから始まり、Vailのスノーボード。デンバーの経営者会議へと続き、NYの投資家訪問だ。とても、実りが多かったし、アメリカの底力や幅の広さを感じた旅でもあった。
昨晩の夜、ジェラルド・カーティス先生に質問を受けた。「日本の将来に希望を持っているか?」、僕の答えは、明快だった。「希望を持つ持たないの次元ではない。僕らが日本を良くする。そう覚悟を決めている。こんなにエクサイティングな時代は無い。この時代に生まれてラッキーだ」、と。
さあて次は、日本だ。4月末まで海外出張の予定がない。じっくりと腰を落ち着けて、様々な提案・行動を行うことにしよう。政治も今「創造的破壊」のプロセスを経ている。この混沌から、新しいフェニックス(不死鳥)の様なものが生まれてくるであろう。この変革に積極的に関与しない手は無い。
新たな坂本龍馬、藤田東湖、西郷隆盛、桂小五郎などが、この時代に生まれてこよう。「殻を自ら破ると鳥として羽ばたくが、外から破られると目玉焼きにされる」。日本の底力を見せる時が来ている。実に面白い時代に生まれたものだ。と呟いていたら搭乗時間が来た。続きは、日本からだ。
2011年3月3日
成田からの帰路にて加筆修正して完成
堀義人