東日本大震災という未曽有の国難に直面して、既に4カ月余りが経過したものの、残念ながら政治家から国民ならびに国際社会に対し、復旧・復興に向けた、日本の明確なビジョンは殆ど明示されていない。
海外メディアは、その間「民度が高い国民が、無能なリーダーに率いられる」という表現をしていた。「民度が高い」と言うのは、整然と並び、治安を守り、しかも我慢強く生活する人々である。一方「無能なリーダー」とは、意思決定が遅く、危機対応ができず、コミュニケーション能力にも欠けているということだ。
このギャップ、つまり「民度が高い国民」と、「無能なリーダー」は、政治家の資質やリーダー教育の有無によって生じるものだと思われる。しっかりと、状況を判断し、迅速に意思決定し、適切に伝える教育がされて来ず、個人の根底に流れる哲学や使命感、志というものを醸成することなくリーダーになったからだと推察される。
リーダーに望まれることは、どんな状況でも以下の3点だ。
(1) ビジョンを描き、情報を集め、日本を良くするために意思決定し、実行に移し、その結果に責任を負う。
(2) 日本の内外を取り巻く関係者(国民、行政、地方自治体、外国政府、国際機関、世界に住む人々)に適切なコミュニケーションを行い、日本を好きになってもらい、日本ブランドを引き上げ、国益を確保する役割。
(3) 日本固有の良い価値観を基に、国民のロールモデルとして適切な言動を行い、時には日本のために国民に厳しいことを伝え世論を形作り、日本というコミュニティの良い組織文化を醸成する役割を果たす。
政治家には、今こそ、責任あるリーダーとして、国民の閉塞感・不安感・不信感を払拭すべく、(1)将来に向けた明るいビジョンを基に行動し、(2)国の内外に適切なコミュニケーションを行い、(3)良い日本を創る為に、以下のことを望みたい。
1.政治にビジョンを!
まずは、明るいビジョンを描こう。「こうなれば日本は良くなるのだ」というビジョンを提示して欲しい。今政治に欠けているのは、そのビジョンだ。どんな組織でも一番重要なのは、確たる理念によって創られたビジョンだ。ビジョンが明るければ、皆で閉塞感を打破して、行動に移るであろう。ビジョンを描き、語り、国民を良い方向に導くリーダーを望む。
2.国力の源泉である経済を強化せよ!
日本の国力を高めるのに何が一番重要かという視点を持ってほしい。経済が強くなければ産業は生まれないし、雇用も生まれない。経済が強くなければ、良い社会保障も実現できない。経済が強くなければ、税収が増えないし、財政破綻を回避できないのだ。明治維新後は、「富国強兵」というスローガンの下、日本は経済を優先してきた。これからは、「富国幸民」(堀の造語)という「経済を強化して、民を豊かにする」という視点が必要となろう。
3.優れた国際感覚を!
今、政治、経済、科学、文化等全ての面で、世界的視野で判断する力が必要とされる。内向きでは世界から取り残されるだけだ。外交や安全保障、更には食料、環境や資源・エネルギー分野などにおいて、日本の国益を確保するためには、常に主体的に国際社会に参画する必要がある。そのためには、優れた国際感覚と人的ネットワークを有する政治リーダーが、必要不可欠である。
尚、政治リーダーには重要な国際会議に出席することのみならず、日本を代表して国際社会に対し、オピニオンを積極的に発信することが求められる。
4.信念を持った行動を!
国家が適正なプロセスを経て意思決定し、実行に移すのは、容易なことではない。特に今の「ねじれ国会」なら尚更容易ではない。だからこそ、適宜与野党国会議員が叡智を結集し、国政を停滞させないための知恵の結集と行動が必要となる。大震災を経て、日本は崖っぷちに立たされることになった。最早、待ったなしだ。乱世の時代は、下剋上の時代でもある。確たる理念・ビジョンを基に、政治家同士が個人として意見交換し、必要に応じて離党し新たな党を創り、合従連衡する等の行動に移すことも必要となろう。組織は、停滞するよりも、個々の信念に従い動いている方が圧倒的に活力が生まれ、良いのだ。
行動の際には、党利党略を排除し、私利私欲を捨て去り、「国民の為に何が一番重要か?」の視点が必要となろう。国民は、政治家の全ての言動を冷静に観ている。誰が延命のために、国民を犠牲にしているのか。どの党が党利党略で動いているのか。誰が国民を置き去りにした議論をしているのか等だ。政治家には、是非強い信念を持ち、この停滞を打破する、知恵と行動を望みたい。
5.真のリーダーシップを備えた人材登用、育成、選出を!
ここ数年間、約1年毎に内閣総理大臣が相次いで交代する異常な状況が続いている。その結果、国民の政治への信頼が著しく低下するとともに、外交・安全保障政策においては、国益を大きく棄損している。
早急に、人材の登用、育成、選出のあり方を見直すことを望む。今後は、米国や韓国の様に、実際に組織を動かしたことがある人(例えば、知事、市長、会社の経営者等)を積極的に登用していくことが重要となろう。特に、経済に精通し、国際経験豊富な方を政治家に望みたい。決して、二世・三世、官僚出身者、秘書経験者、松下政経塾出身者が悪いわけではない。様々な経験を経た多様性がある政治家が多く輩出されることを望むのである。
そして、選挙活動ばかりでなく、徹底的に学び、自らの能力を高め、「無能なリーダー」と外国メディアに称されることが無いようにして欲しい。それが、国民が政治家に望むことである。