ロンドン経由でジェッダに到着。現地時間、朝6時過ぎ。外は暗く、空気は生ぬるい。空港を出ると、地べたに寝転がっている人を見つける。ホテルに向かう路中には、放置されたような車が散見され、道端にはゴミが散らばる。貧富の差が激しいのであろう。
僕は、サウジに来ているのだ。今回のサウジアラビアの出張のきっかけとなったのが、前年に開催された、プライベート・エクイティ協会での、経済産業省産業資金課の清水氏の挨拶だ。彼が、日本の現況を憂え、「海外から資金を受け入れるミッションを創る」、と力説したときに、僕は参加することを決めた。僕は、基本的に気持ちで動かされる人間なのだ。
だが、「ミッション」と名がつく旅に、僕は過去に一度参加したことが無い。理由は、簡単だ。団体行動が苦手だからだ。今回のミッションも、行きも帰りもグループとは別である。更に、僕は、このミッションの成果には、当初より大きな期待を抱いていなかった。そもそも、本当の投資家はこのようなミッションの場には来ないと思っていたし、中東から投資を受けるのは、簡単ではないと思っていたからだ。
では、なぜ参加することにしたのかというと、(1)冒頭の通り、気持ちに応えたいという思いと、(2)サウジという国への好奇心が高かったことと、そして、(3)日程がダボス直後で、立ち寄るには好都合であったからだ。
どうせ行くならば、友人にも会いたいと思い、ジェッダにも行くことも決めた。ただ、前後のスケジュールが確定していたので、滞在期間が限られている。ロンドンからの夜行便で朝6時にジェッダに着き、翌日の夜の便で帰国する。2都市の合計滞在時間は、たった40時間強だ。
ジェッダ到着後、軽く仕事をして、仮眠をとり、朝10時に友人のオフィスに向かった。タクシーの運転手が要領を得ないので、30分ほど遅れて到着する。友人は、YPOという世界青年社長機構の世界代表を務めたことがある大物だ。オフィスに行くと、世界のリーダーとツーショットで写った写真が何枚か置いてあった。白いトーブを身に纏い、友人が登場した。エジプトの情勢、サウジの経済環境等を意見交換し、ジェッダで観るべき場所を聴取した。
ジェッダは、人口360万人のサウジアラビア第二の都市だ。紅海に面しており、イスラム教の三大聖地の二つ、メッカとメディナの玄関口でもある。メッカは、預言者モハメッドの生誕地でもあり、巡礼者が集うカーバ神殿がある。メディナは、モハメッドの死地であり、墓所の跡地にモスクがある。両都市ともイスラム教の信者以外は、訪問することができない。会合後の時間は、ジェッダ市内観光に割くことにした。
先ずは、旧市街(スーク)を歩く。ジェッダの日射しが、痛いほど強い。氷点下20度のダボスの雪山から、紅海に面する砂漠の都市へとワープした感覚だ。今やTシャツ姿だ。車が、ジェッタの街中を通過する。アラブ的喧騒を体感する。
黒いニカブで顔を隠し、アバーヤを纏った女性とすれ違う。男性は、対照的に白いトーブで体を包み、頭からグトラを流している。コーランの独唱が、鳴り響く。日射しが、容赦なく襲いかかってくる。そのサウジの装いが、機能的だと言う事に、その時に気が付く。
一週間前に降った大雨が、各地を水没させ、死者までだしたという。街中に、大きな水溜まりがあり、足止めをくう。気候変動の影響が、ジェッダにも及んでいる。街中には、放置された車が散見される。アラビアのロレンスの邸宅に向かう予定だったが、洪水のために向かえない。
車の中でサッカーの話題になる。「昨晩の決勝戦での日本は、良かった。サウジは0-5で負けた」、とかだ。日本人として誇りに思いながら、相手の心情を思い、「前大会でサウジに2-3で負けたけどね」、と紹介する。気持ちが、通じ合う瞬間だ。
軽く昼食を摂り、友人から紹介を受けたプライベート・ビーチ・クラブに向かう。水着に着替えて、紅海で一泳ぎだ。透明度が高い水の中で、ゴーグル越しに、熱帯魚が見える。浜辺と平行に30往復ぐらいする。カラフルな魚と一緒に泳いでいると、本当に魚になったような気分になる。
プライベート・ビーチ・クラブの浜辺で、若い男女が、水着姿で楽しそうに談笑していた。「こんなことが、許されるのか?」、と疑問に思い、公共の海水浴場に連れて行ってもらうことにした。案の定、子供以外の全ての女性は、アバーヤを着ていた。水着姿の女性など見当たらない。黒い女性が、海岸沿いにたむろしている姿は、非日常的感覚を僕に植え付けた。ガイドさんによると、「泳ぐときにも、アバーヤを脱いではいけないのだ」、と言う。
近くにモスクがあった。ガイドさんから、コーランの骨子、イスラム教の教義などを教わり、イスラム教の戒律を学ぶ。
海岸沿いを車が走る。早目にホテルに戻り、疲れを取り、ジェッダ空港に向かう。ジェッダ空港で次の通りツイッターで呟いた結果、予想もしない新たな出会いがリヤドで待っていたことは、この場では知る由も無かった。
「今ジェッダ空港。これからリヤドに向かう。朝着いたばかりなのに、夜には出発だ。明日早朝に、政府のミッションに合流する予定」
2011年2月6日
三番町の自宅にて執筆
堀義人
(次回に続く)