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第20回(最終回) 『フロー体験 喜びの現象学』ほか

投稿日:2009/02/09更新日:2019/04/09

1万冊読破を目標に掲げるグロービス経営大学院副研究科長・田久保善彦による「タクボ文庫」第20回。最終回となる今回は、とっておきの一冊を含め、一挙に16冊を紹介する。

欲張らない読書術

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いままでタクボ文庫をご愛読くださいまして、ありがとうございました。今回、第20回(全75冊)を区切りにこのコーナーを終了することになりました。この間には、マネジメントに関する本、心理学の本、社会学の本、物語など様々な分野の本を紹介してきました。

気にいっていただけた本、そうでなかった本、いろいろあると思いますが、自分自身が優れた本だと思える本に出会うのは、本当に素晴らしいことだと思います。

この連載を書いている間に色々な方から質問を頂いたことがありましたので、連載を始めた頃に書いたことと重複する部分もありますが、それに少しお答えをしたいと思います。

■どうやって本を選ぶのか?

色々なパターンがありますが、まずは信頼できる人から紹介された本は必ず読むようにしています。それから、これはと思う本が引用している原著。加えて、講演会などで実際に話を伺う機会があった方の書かれた本などもよく読みます。あとは、ネット書店全盛の時代ですが、週に一度は書店に行き、そこで自然に手に取ったことを買うこともあります。

■どうやると早く本を読むことができるのか?

私は速読法などを学んだり、練習したことはありません。学生時代にかなり集中的に本を読んだおかげで少しは読むのが早くなったかもしれませんが、特別なテクニックを使うことはありません。ただ、特定の情報が欲しくて読んでいる本などは、該当部分しか目を通さない本もあったり、読み始めて、「今の自分には合わないな」と感じた本は、「せっかく買ったのに」とは思わず、読むのをやめます。結果だけを見ると数多くの本に目を通してはいますが、必ずしも全てを精読しているわけではありません。

■目的意識を持って本を読むか?

モノによりますが、あまり目的意識を持って本を読むということはしません。本は発想を広げたり、好奇心を満たしたりするために読むことが多いので、目的を置いてしまうと、その目的に合わないことを見落としたりする気がするからです。もちろん、明確な目的を置いて、読書をすることのメリットもあると思いますが、個人のスタンスを聞かれれば、こう答えます。

■本を読む上で大切にしていることは?

欲張らないこと。つまり、「一言でも、一行でも学びにつながることがあれば、それで十分」という考えで、本と向き合うことだと思います。どんなものでもそうですが、全てが面白い、素晴らしいということは極めてまれなことです。

それでは最終回のお勧め本です。

『フロー体験 喜びの現象学』 M.チクセントミハイ・著 今村浩明・訳 世界思想社・刊

20代の後半にこの本を初めて読んだときには、「ふむふむなるほど」という程度の感想しかありませんでした。数年前、グロービスインターナショナルMBAの責任者である中村知哉氏と話をしていたときに、この本の話になり、もう一度読み直してみて、全く違う読後感を持ちえました。その後、チクセントミハイの本で翻訳されているものは全部読んだでしょうか。(原書でももちろんよいのですが、英語が非常に難しく読むのに時間がかかるので、日本語に逃げています^^)

チクセントミハイは米の心理学者で、「楽しみ」や「幸福」を研究してきたことで知られています。重要な概念の一つに、「フロー」があります。彼はフローという状態を次のように定義しています。「一つの活動に深く没入しているので他の何ものも問題とならなくなる状態、その経験それ自体が非常に楽しいので、純粋にそれをするということのために多くの時間や労力を費やすような状態」。

再読したとき、1日の大半の時間をビジネスに費やす1人として、どれぐらいの時間をこのように過ごすことができているのか、一緒に働いてくれている仲間に、こんな時間を味わうことができる機会をどの程度提供できているのか、という自戒の念を強く感じました。生き方論、リーダーシップ論として読んでみていただきたい一冊です。(私自身にとってとても大切な本なので、最終回でご紹介することは最初から決めて今まで温存していました)

内容は、必ずしも分かりやすいものではないかもしれませんし、いつものようにフレーズを抜粋して掲載するようなものでもありません。この「フロー」という概念をしっかり理解し、自分自身のことを考える一助とするためには、ちょっと我慢して通読していただくしかないと思います。

チクセントミハイのその他の著書も合わせて読むと、理解の助けとなると思います。

・『楽しみの社会学』 (新思索社)

・『フロー体験とグッドビジネス―仕事と生きがい』(世界思想社)

・『スポーツを楽しむ―フロー理論からのアプローチ』(世界思想社)

『挑戦 我がロマン』 鈴木敏文・著 日本経済新聞出版社・刊

セブン&アイ・ホールディングス会長、鈴木敏文氏の著作。日本経済新聞の「私の履歴書」の内容をまとめたものです。この「私の履歴書」が大好きで毎日欠かさず読むようにしていますが、この本は、新聞に掲載された中身+アルファとなっているので更に読み応えがあります(^^)

鈴木氏がどのような人生を歩まれ、どのようなチャレンジを続けられてきたが本当によく分かります(常識を常識とせず、かかんにイノベーションを実現し続けてきた企業であることが本当によく分かります)。鈴木氏の考え方について書かれた本は沢山ありますが、ご自身の言葉で書かれた本はあまりないので、非常に貴重な本ですね。

鈴木氏の有名な言葉に、「我々の競争相手は競合他社ではなく,真の競争相手はめまぐるしく変化する顧客ニーズそのものである」というのがありますが、本当に心に響きます。同じものを見るのでも、視点を変えてみることでまったく違う景色が目の前に広がります。読み終えたあと、不思議と勇気が湧いてきます。是非、お読みください。

『失われた場を探して-ロストジェネレーションの社会学』 メアリー・C・ブリントン・著 池村千秋・訳 エヌティティ出版・刊

学校やハローワークなどの協力を得て収集された圧倒的なデータと緻密な分析。そして関係者への丹念なインタビューに裏づけされた現代日本の若者論です。日本という社会の持つ特性を、見事にえぐり出しているすごい本です。

70~80年代の日本や外国の状況と現代日本を比較することから、なぜニート、フリーターになる若者が増えているのかという点について、アメリカ人の著者が精緻な分析をしています。最初は「なぜアメリカ人研究者が?」と思いましたが、逆に、日本人でないがゆえに冷静に見ることができたのかもしれません。いずれにしても、ありきたりの「べき論」や「対策」などを振りかざすのではなく、現実的かつ、ある意味やさしい、心のこもった提言がなされています。「日本の若者研究、そして労働研究に関心を持つ人々にとって必読の、古典となることが確実な名著である。」という本の紹介文も決して大げさでないように思います。

ちなみに、この本には日本を代表する学者である山岸俊男氏、苅谷剛彦氏からも次のような書評が寄せられています。

山岸俊男氏

ニート、フリーター、ひきこもり ―─ 日本人の「まじめさ」を支えてきた場の崩壊を乗り越えて、若者たちはどう生きるべきか。ブリントン教授は緻密な調査研究の成果と豊富な実地体験をもとに、私たち日本人が常識とする若者像を見事に打ち砕いてくれる。

苅谷剛彦氏

日本の若者たちに何が起きているのか。ロストジェネレーションを生み出した原因はどこにあったのか。長年日本社会を研究してきたアメリカ人社会学者が、日本人には気づきにくい問題点を鋭くえぐる現代日本のゆがみを見事に描き出した好著です。

タクボ書棚から一挙13冊紹介!

最後に、これまで紹介しきれなかった本を13冊取り上げます。

1. 『建築家 安藤忠雄』(新潮社)

日本を、いや世界を代表する建築家である安藤氏の自伝です。安藤氏の講演会に2度ほど行ったことがあるのですが、「とてつもないエネルギーをお持ちの方だなぁ」というのが素直な感想です。安藤氏がどんな人生を送り、どんなことを考え、どう建築と向き合ってきたのか。理解が深まる一冊です。

2. 『吉田松陰 (山岡荘八歴史文庫)』(講談社)

松下村塾で幕末の志士を育てた吉田松陰の生涯を描いた時代小説。学ぶということ、志を立てるということ、覚悟を決めるということ、色々なことを学ぶことができる一冊です。「山岡壮八歴史文庫」はどれも大変面白いですが、長いものも多く手が出しにくい人もいるかもしれません。吉田松陰は全二巻なのでそういう意味でもお勧めです。是非一度は山岡ワールドを。

3. 『吉田松陰一日一言―魂を鼓舞する感奮語録』(到知出版社)

これは、吉田松陰の言葉を365個厳選してまとめたものです。上記の時代小説とあわせて読んでいただけるとより深く理解が進むと思います。

4. 『アイデアのちから』(日経BP社)

スタンフォード大学で使われている教科書。アイデアというよりも、メッセージを相手に深く残す方法論を明快にといています。「単純明快である」「意外性がある」「具体的である」「信頼性がある」「感情に訴える」「物語性がある」。この本で勉強して、明日から実践してみませんか?

5. 『HAPPIER―幸福も成功も手にするシークレット・メソッド ハーバード大学人気No.1講義』(幸福の科学出版)

ハーバード大学で最も多くの人が受講するというクラス。幸せとは何か。どうしたら幸せになれるのか。自分自身のことを考えさせられる一冊です。「人生の質を高める最善の方法は、内なる声に耳を傾けながら、試行錯誤を繰り返すことです」。こんなフレーズにピンと来る方、是非。

6. 『マネジメント革命 「燃える集団」を実現する「長老型」のススメ』(講談社)

元ソニー役員、天外伺朗氏の著作。長老型マネジメント、燃える集団、フローなどのキーワードにピンと来る方、日本型のマネジメントの手法に興味のある方に是非お読みいただきたい一冊です。

7. 『スマイルズの名著『品性論』―古典には、「自分を変える力」がある』(三笠書房)

長く読み継がれてきた本には、本当に色々なパワーが潜んでいます。これもそんな本の一冊です。人としての生き方、この本を通じて、一度考えてみてください。

8. 『パワー・オブ・フロー』(河出書房新社)

「フローとは自分と他人や世界との垣根を取り払い、宇宙と調和して生きているという実感を味あわせてくれる、努力とは無縁の自然な人生の開花である」。フロー理論のチクセントミハイとは少し定義は違いますが、フローの話に興味がある方は、こちらの方がとっつきやすいかもしれません。

9. 『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)

社会起業家のパイオニアで、病児保育のNPOフローレンス代表駒崎弘樹氏の自伝。先日グローービス経営大学院大阪校でも講演をしていただきました。駒崎氏の志、想いがたくさん詰まった本です。

10. 『学問のすすめ』(岩波書店)

言わずと知れた、福沢諭吉の名著。オリジナルの日本語が読みづらいと感じる方には、『図解・速習『学問のすすめ』 (総合法令出版)をお薦めします。日本人なら誰もが知っている(?)最初のフレーズ。「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」。でもその後に何が書かれているのか、このフレーズがどういう意味を持っているのかを理解している人はそれほど多くないかもしれません。今の時代にも多くのメッセージを投げかけてくれる、最高の古典をどうぞ。

11. 『風の良寛』(文藝春秋)

現代の日本人が忘れてしまった大切なことを思い出させてくれるような本です。「現世におけるしがらみは全て欲望から生じるのだから、その欲望を棄て自由になった心を自然にゆだねる」。こんな心境で生活するものよいかなと。

12. 『粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯』(文藝春秋)

三井物産代表取締役から国鉄総裁になった石田礼助氏の人生を、作家・城山三郎氏が描いた名著。あまりの面白さに一気に読めてしまいます。「粗にして野だが卑ではない」という一言に、この方の生き方が凝縮されています。

13. 『経営の行動指針―土光語録』(産能大学出版部)

戦後を代表する経営者として知られる土光敏夫氏の著作。倹約家だった「メザシの土光さん」が、東芝社長時代にした発言の中から、百カ条を採り上げ、まとめたものです。不況にあえぐこんな時代だからこそ、土光さんの言葉が光ります。是非、是非、手に取ってください。

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