本日、日本リースが会社更生法申請した。2兆4千億円の史上最大の負債総額だという。昨今、日経平均がバブル後最安値を更新したり、失業率も最悪を記録したり、企業業績も軒並み悪化したり、倒産件数も戦後最悪となっている。
これらを生態系の考え方を取り入れて説明すると分かり易いと思う。今までダイナミックに平衡状態を保ってきた経済という生態系が、様々な変化のサイクルが集中した今という時期に遭遇して、変化適合できない生き物が滅んでいき、新たな環境で繁栄する方法を会得した生き物が栄えていく。劇的な進化のプロセスに差し掛かった、と認識するのが妥当だと思う。
僕の好きな言葉の一つに「変化に適合するものは栄え、変化に抵抗するものは滅びる」というのがある。まさに今、そのプロセスが進んでいるのである。
今の競争は、平時での「生き物間の弱肉強食」ではなく、「変化への適合競争」であると考えるのが自然であろう。統計的に現れている数字は、その変化適合競争の「結果」である。現状はたまたま「氷河期」のような劇的な環境変化の時期に差し掛かっている。バブル期のような環境に過剰適合した生き物が退出していることによって、生態系がバランスを崩して、「史上最悪」という結果が出ている。
しかし、その「プロセス」の中では構造的な変化が進展しており、変化に適合する生き物が出現しつつあるのだ、と前向きに捉えられる。この厳しい環境であればあるほど、強い生き物が育ち、次代に向けて新たなパラダイムを創り出すのではないかと思う。
これだけの環境変化があると、数多くのチャンスが生まれる。環境が複雑化・国際化・多様化すればするほど、戦略面でのクリエイティビティーで差別化しやすくなる。頭と意志(当然体力も!?)によって勝負することができるので、能力が高いものが必ず勝つ時代に入ったと言える。(バブルの時代はそういう意味ではつまらなかった。頭よりもただ単に度胸で土地と株を買っていたら必ず儲かった時代であった)。
今は、右肩上がりの環境ではないので、逐次戦略を練り直したり、組織を変革したり、計画を修正したりしながら、頭とチームワークで勝負することができる。一方、変化に即応するため時間密度や集中力を2倍以上使うので、相当エネルギーを使う。だからこそ、エクサイティングなのである。
僕は、この環境下で、仕事をとてもエンジョイしている。
ゼロから有を生み出す創業期はある意味では面白かったけど、今はもっと違う意味で環境変化というチャレンジが一杯あって、とても楽しい。また、創業期に比べて今の方が、志しを共有化できる仲間が増えたので、もっと大きなスケールで勝負できるようになった。何か新しいものを創ったり、変革を起こしたり、環境が激変する中で経営の舵取りをしたりするときなど、チャレンジが大きければ大きいほど、面白く感じる。
また、既存の権力基盤や価値観がひっくり返っている。長銀があういう状態になったり、政治 や行政は、機能停止していたり、大手企業は総会屋などの不祥事で摘発されたりして、今の時代、官庁も銀行も大企業も元気が無い。
今後は、肩書きも権力基盤の無い、僕らみたいな知恵と意志とで勝負している知識創造型のベンチャー企業は、この変化への適合競争では、圧倒的に優位となると思う。僕らは、自由であり、成功体験というしがらみも無い。常に、ゼロベースで新たな価値を創造する立場にあるし、新たなパワーを生み出すこともできる。僕ら自身が変化を創造する担い手になるのである。
また、逆に言うとこの様なベンチャー企業が頑張らなければ「生態系」の構造的な環境変化への適合を行うことが不可能になる。つまり、相対的な存在意義と社会的な期待とがどんどん大きくなってくると思う。そういう意味では僕らにとって最良の時代が今始まったということである。折角のチャンスなので、それを活かさない手はない。
現在、多くの志を持った若者が夢を追いかけてベンチャーを創ろうと努力しており、実際に立ち上がりつつある。グロービスもベンチャーキャピタル事業を行っているので、実際に投資をしたり、経営のサポートをしたりしている。この環境下でも、確実に力を付けているのをみると、とても頼もしくなってくる。一方では、数多くのベンチャー企業が滅んでいるのも目の当たりにしている。
僕は、このプロセスを批評家の立場で見守るのではなく、自らがグロービスの「起業家」として実践しながら、グロービス・キャピタルの「ベンチャーキャピタリスト」としてハンズオンでサポートし、しかも「コミュニケーター」として、多くの方々にインスピレーションを与える立場で真正面から取り組みたいと思っている。(既に、「ケースで学ぶ起業戦略」や「ベンチャー経営革命」(日経BP社)などの本も出版している。今、ちなみにもう一冊の執筆が始まった)。
今の時代は、最も楽しくエクサイティングである。この「変化」という舞台で、自らが演じる立場にいられることを大変幸せに思う。このコラムを通して多くの方とその感覚を共有化できるのも実に嬉しいことである。