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ある師走の一日 -次男のホイクサンカ-

投稿日:2004/12/24更新日:2019/09/04

「あとなんこ寝れば、ホイクサンカ?」と次男が何度も僕に訊いてくる。「ホイクサンカ」とは、父母が保育園に行って保育の現場に参加することを言う。保育参加は、年に2回春と秋に行われる。通常、我が家では妻が行くことになっているが、僕も各子供につき一回は必ず行くと宣言していた。2年前には約束通り長男の保育参加をした。そして今年は、次男の番である。出張も多く、やっと調整がついたのが、師走のある一日であった。

そして、保育参加の当日を迎えた。午後から仕事があるので直行できるようスーツを着ようと思ったが、考え直した。汚れても構わない動きやすい格好で行くことにした。コーデュロイのズボン、Tシャツの上にフリースを着た。そして真っ赤なゴアテックスのジャンパーという出で立ちだ。当然、靴はスニーカー。その格好で、次男と三男の手をつなぎ、四男を肩車しながら、保育園に向かった。

保育園に着くなり、次男の「ひかり組(5歳児クラス)」の子供達が、小走りで近寄ってきた。「堀パパ、なにをして遊ぼうか」、と口々に親しげに声をかけてきた。次男が「今日はパパがホイクサンカするんだ」と皆に自慢気に言いふらしていたのだろう。皆、ニコニコしながら近寄ってきた。

子供達みんなと相談した結果、リレーごっこをすることにした。リレーごっことは、保育園の小さな園庭を一周走り、誰でもいいからタッチしてぐるぐるぐるぐる交代で走るという、何てことがない遊びだ。走っているうちに人数も増えてきた。その間、ひっきりなしにビジネススーツに身を包んだお母様方、お父様方が、保育園に子供を預けにきていた。皆、僕を見て怪訝そうな顔をしていた。『今日は、大きな男性の保育士がいるわね』と不思議に思っている様子であった。

暫くして、若手起業家の会(YEO)でもご一緒させてもらっている起業家ママが子供を預けに来た。その子供も同じひかり組だ。僕らを見るなり、すぐに輪の中に入ってきた。リレーごっこのあとは、サッカーをして遊んだ。そのうち、ボールの奪い合いでケンカになった。ケンカでは怪我するので、相撲で決着をつけさせるべく、闘わせた。今度は相撲ごっこだ。みな、精一杯力を出していた。いいことだ。『外で思いっきり力を出し切磋琢磨しろよ』、と心の中で思っていた。

そうこうするうちに、ひかり組の先生が来て、「お散歩に行くわよ〜」と子供達に声をかけ始めた。瞬く間に子供達はいつものお散歩仲間を見つけて、手をつないで二列に並んだ。園門の前で、保育士の先生が先頭と最後尾を務めて、僕が真中に陣取った。‘お散歩隊‘の出来上がりだ。次男もいつものお散歩仲間と手をつないでいた。僕が、一人でおろおろしていると、保育士の先生からお散歩仲間の紹介があった。たまたま同じ保育園にいるひとつ下のクラスにいる姪っ子が、「違うクラスだけど一緒に行きたい」という。姪っ子の手をしっかりと握り、お散歩隊は動き始めた。

誰からともなく、‘となりのととろ‘の「さんぽ」が歌われ始めていた。「♪歩こう、歩こう、私は元気〜、歩くの大好き〜、どんどん行こう♪」。
この辺はマンション街だ。園児のマンションの前を通ると、お母様が顔を出すこともあった。お散歩隊は、皇居の前の内堀通りに出て、イギリス大使館の前の横断歩道を渡り、千鳥が渕にある半蔵門公園まで歩いた。

そこで、またリレーをすることになった。みんな走るのが大好きだ。僕も当然参加することになった。スニーカーを履いて来て良かった。全部で3回リレーをした。いい運動をさせてもらった。他にもブランコや滑り台で遊んだ。目の前に新しいビルが聳え立っていた。そのビルには以前、経済同友会の『次代を創る会』で訪問したことがある松井証券の事務所も入っていた。今日は平日なので、皆ビジネススーツで忙しそうにビルを出入りしていた。片や僕は、カジュアルな格好でお散歩隊の子供達の中に溶け込んでいた。このギャップがちょっと不思議な感じがした。

一通り遊んだ後、麦茶を飲んで休憩した。麦茶がとても美味しく感じられた。そして、お散歩隊は保育園を目指して再度歩き始めた。松井証券のビルの前の横断歩道を渡り、麹町警察署の角を曲がり、麹町消防署の前に着いた。「ここで魔法をかけるとドアが開くんだよ」、と子供達は嬉しそうに僕に教えてくれた。「チチンプイプイ、ドアよ開け〜」と魔法をかけている最中に、本当に消防署のシャッターが開き始めた。そして、中には綺麗に整備された真っ赤な消防車や真っ白の救急車が並んでいた。

ニコニコしながら若い消防士が出てきた。この消防士が魔法を使ってくれたのであろう。子供達は皆敬礼して挨拶をした。この消防士は、今日はご機嫌なのか、「子供達全員を消防車にのせてくれる」、と言ってくれた。「ヤッター、ヤッター」、子供達は飛び跳ねて全身で喜びを表現していた。その姿をみて、若い消防士さんもニコニコしていた。子供が本当に好きなのだろう。見ていてほのぼのとする情景だ。

次男も消防車に乗せてもらっていた。大喜びしていた。全員乗り終わった後に、子供達が消防士さんにお礼をして、お別れをした。お散歩隊が歩き始めている最中に、魔法のシャッターは自動的に閉じていった。

お散歩隊は、大妻通りに差しかかった。地下鉄半蔵門の駅前で人通りが多いところだ。『誰かに会いそうだな〜』と思い背中をすくめていたところ、案の定グロービスの非常勤取締役の奥様と遭遇した。さらに、程なくしてグロービスの社員にも見つかってしまった。その女子社員は、口に手をやって前かがみになりながら笑っていた。無理も無い、おおよそビジネス街には、似つかわしくない出で立ちで4歳の女の子と手をつないで歩いているのだ。「堀さん、どうしたんですか〜?」と質問されたので、「次男のホイクサンカだよ。」と答えた。よくわかっていない様子だった。

お蕎麦屋さんの角を曲がり、坂を登り、お散歩隊,は保育園に戻った。昼食の前に、僕は三男と四男の様子を見に、にじ組(3歳児クラス)とゆめ組(1歳児クラス)の部屋を覗いた。1歳の四男は、眠そうな顔をしていた。そして次男のひかり組(5歳児クラス)のお部屋に戻ると、紙芝居が始まっていた。保育士の先生は、とても上手であった。

そして、いよいよランチだ。園児と同じ小さな椅子にちょこんと座った。おしりが入りきらない。はたから見ると相当滑稽な格好なのだと思う。前かがみになりながら、牛乳とパンと魚フライを食べた。さすがに量が少ないので、おかわりをお願いした。

昼食の後は個人面談の時間だ。保育士の先生は、幼児心理学をしっかりと学んでいるのか、とても良く次男のことを理解しており関心させられた。30分ほど意見交換して、貴重なアドバイスをいくつかもらい、お部屋に戻った。子供達はみなパジャマに着替え、お昼寝の用意をしていた。

僕は、次男に別れを告げて、先生にお礼を言って、保育園をあとにした。その足で、自宅に戻り、スーツに着替えネクタイをしめて、黒い革靴に履き替え、会社に向かった。歩きながら携帯電話のインターネットで、本日のスケジュールを確認した。師走ということもあり、今日もびっしりスケジュールが詰まっていた。

「さあ、仕事だ」。ホイクサンカの時とは、全く違う表情をして歩いている自分を認識できていた。

2004年12月18日
自宅にて
堀義人

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