リーダーの仕事は現状を把握することから始まり、「ありがとう」ということで終わる。その間は奉仕する――。今回は、リーダーシップ論の大家、ウォレン・ベニスの代表的著作を紹介するほか、今何かとブームの「品格本」も取り上げる。1万冊読破を目標に掲げるグロービス経営大学院副研究科長・田久保善彦による「タクボ文庫」第16回。
まだまだ暑い日が続いていますね。私は以前、三菱総合研究所(最近、このサイトに記事)を寄稿していただいています。是非読んでみて下さい)に勤務していましたが、そのときは、地球環境問題を考える部署に所属をしていました。もう何年も前のことですが、その頃に比べると特に地球温暖化に関する一般の方々の関心は本当に高くなっているように思います。新聞を見ていても、TVを見ていても、関連するニュースを目にしない日はなくなりました。肌感覚としても、毎夏のように暑くなっていくと、この先どうなっていってしまうのだろうと心配になってしまいますね(温暖化は長期的な話なので、単純に猛暑との因果関係を証明することは難しいですが)。
地球温暖化問題というと、何か地球全体が傷ついているイメージが浮かぶと思いますが、温暖化の本質は、人間が活動できる、空気が存在する部分が大きなダメージを受けているということにあると思います。例えば大気層の一番下にある対流圏は、地球の直径(赤道直径:約12756km, 対流圏11km)と比べると本当に薄いのです。地球に見立てた、10cmの円を紙に書いてみると、対流圏はその円を書いた線の太さにもなりません。こんな薄い部分に大きなダメージが加わっているのが地球温暖化という現象です。
こんな風に考えると、温暖化が象徴する地球環境問題は、「人間環境問題」と考えたほうがよいのではないかという気がしてきます。おそらく多少の温度変化で地球という惑星そのものが大きく影響を受けるわけではないはず。大きな影響を受けるのは、地球のごく表層に生きている人間を含めた生物なのですから。
将来世代にわたって、人間が生きていけるように=経済活動を続けられるように、人間を取り巻く環境へのダメージを最小限にし、持続可能性を持ち続ける。そのために、私たちは何ができるかを考え、実行していかなければなりませんね。
では、今回の2冊を。
『リーダーになる[増補改訂版]』 ウォレン・ベニス・著 伊東奈美子・訳 海と月社・刊 2008年
リーダーシップ論の大家といえば、ウォレン・ベニスとジョン・コッターの名前を思い出す方が多いかもしれません。今回は、ベニスの最高傑作といわれている本をご紹介します。
原題は『On Becoming a Leader』。「~になる」という表現が、この本の本質を表しているように思います。そうです。リーダーには「なる」のです。
この本は、多くの事例、リーダーの行動、言葉によって構成されており、一般のビジネスパーソンにとって非常に説得力のあるものになっています。私が最も強く共感をしたのは、「自分を知る」「直感に従う」という部分です。
まず、「自分を知る」。「汝自身を知れ」ではないですが、自分自身に対する深い理解を得るということは、本当に重要なことだと思います。これなしには、リーダーとしての歩みを始めることができないですね。永遠に続く自分探しの旅なのかもしれませんが、ただ浮遊するのではなく、自分の機軸を持ちながら、「一体自分は何者なのか」について、考えを深めながら、生きていきたいものです。
そして直感を信じる。以前棋士の羽生善治さんの本をご紹介した書評でも直感の話に触れましたが、経験に裏打ちされた直感を信じる。これはリーダーとして最も重要な力なのではないかと感じます。
いつものように心に残った言葉をいくつか。
リーダーシップの本質は、自由で豊かな自己表現にある。哲学者のラフル・ウォルド・エスマンがいったように、「存在するだけでは半分しか生きていない。残りの半分を生きるためには、自らを表現しなければならない」。
自分を存分に表現するためには、自分と世界を理解していなければならない。そしてそのためには、自分の人生と経験から学ぶことが不可欠だ。
古代ギリシャ人は、「卓越したものは、エロスとロゴス、すなわち感性と理性の完璧なバランスの上に存在する」と信じていた。
自分はどんな人間で、この世界でどんな役割を担っているのか・・・。こういったことについて、自分なりの感覚を持つことはとても重要です。新しいことに挑戦したり、自分をたしなめたり、自分の信条や原則を問い直したりすることも同じぐらい重要です。自分が信じているもののために戦うことができる人―私たちが待ち望んでいるのはそういう人ではないでしょうか。その主張に必ずしも賛同できなくても、そういう人は信頼できます。
リーダーは他者から学ぶが、他者によって作られることはない。
ベテランのパイロットは、他のパイロットが操縦席に着き、安全ベルトをしめる様子を見ただけでその人の力量を見抜く
リーダーの仕事は現状を把握することから始まり、「ありがとう」ということで終わる。その間は奉仕する。それがリーダーの役割だ。
『品格のつくられかた』 新井 えり・著 グラフ社・刊 2008年
昨年、「品格」に関する本が沢山出版されました。ちょっとした“品格ブーム”でしたね。この本はそんな中でも印象に残る一冊でした。日本の伝統や古い習慣などが、日本人の品格を形作るのにどのように役立ってきたのか。そして、現代社会にそれらをどのようにあてはめ、品格を維持していくべきなのかという著者の考えが、かなり具体的に表現されています。
色々なトピックスが4ページごとに簡潔にまとめられ、非常に読みやすいものになっています。おそらくこの本を読んだほとんどの方が、「あいたた……」と思う部分があると思います。普段気にしているができないこと、気にもしていなかったこと、知らなかったことなど、様々だと思いますが、色々感じてみてください。
ものを捨てるときはきれいに捨てる、蒲団のたたみ方にもよしあしがある、お辞儀も電話の対応も、相手の心に「いい姿」が残るようでなければならない。
礼があれば、筋目(筋道)に従って物事が行われやすく、心も安定しやすい。礼がなければ筋目が通らず、秩序が乱れて事を成すこともできない。
「倹約」には、それを為す人の見識が顕れます。「倹約」とは社会生活、家庭生活における「慎み」であると同時に、大人の「分別」とも言えるのです。
まず心があって、それがおのずから体のはたらきにあらわれてくるのである。心のともなわない動きは形だけが残ったもので小笠原では特に避けるべきこととされている。
「名人」と呼ばれる人形遣いほど、舞台上で姿が「消える」。(中略)人形遣いが己を無にして、役柄に没頭することで、人形に品格や色気が生まれる。それは「誇らず主張しない存在感」である。(中略)「見えない存在感」は「謙虚さ」「慎ましさ」「調和」といった言葉に置き換えられる。「自己主張」をよしとする現代社会には、決して表れ出ない「存在感」なのです。
色々勉強になると思います^^。