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第12回 『心を揺さぶる語り方-人間国宝に話術を学ぶ』ほか

投稿日:2008/05/08更新日:2019/04/09

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その人の生き様すべてが、話の中には出ます――。人間国宝の講談師が話術の極意を語る1冊と、実験データなどから日本人の意外な特質をあぶり出し、「安心」をキーワードに現代日本の問題点に迫る社会心理学者の著作を紹介する。1万冊読破を目標に掲げるグロービス経営大学院副研究科長・田久保善彦による「タクボ文庫」第12回。

写真家の中村征夫さん(:ご本人のサイトです。作品を見ることができます)といえば、スキューバダイビングをやる人であれば、知らない人はいないでしょう。先日、東京の日本橋三越本店で開催されている写真展「『命めぐる海』-都会の海から聖地の海へ-」へ行ってきました。以前恵比寿の東京都写真美術館で展覧会が開催されていたときに偶然ご本人がいらっしゃり、少しだけお話をさせていただいたことがあるのですが、まったく飾らない素朴な人柄がなんとも魅力的な方でした。

2万7000時間(『中村征夫 海中2万7000時間の旅』 講談社)という途方もない時間を海の中で過ごしたという中村さん。文章や言葉では表現しきれない、素晴らしい写真が今回も多数展示されていました。何冊か写真集を持っているのですが、我が家にまた1冊写真集が増えました。中村さんの写真の中の魚たちはなぜか、とても幸せそうに見えます^^

私もスキューバダイビングが大好きで、よく沖縄県宮古島に行きます。宮古島は最高標高が100m以下という平らな島。つまり山も川もありません。結果、土砂などが海に流れこむことがなく、いつ行っても、ものすごい透明度の海が広がっています。そんな宮古島の魅力はなんと言っても海の底の地形です。特定のお魚目当てでダイビングに行くと、会えなくてがっかりするものですが、地形はいつも裏切らずにそこにいてくれます。

太陽光線がまるで光の柱のように輝くスポットがあったり、魚の群れで向こう側が見えないような場所があったり。本当に素晴らしい島です。時間がゆ~っくりと流れ、人々が素朴で、親切で、ご飯がおいしい。特に宮古島産のマンゴーは文句なく世界最高だと思います(ちょっと高いですが)。なんともパラダイスのような場所です。

今年も宮古島に行きたいナーと思いつつ、本の紹介です。

『心を揺さぶる語り方-人間国宝に話術を学ぶ』 一龍斎貞水・著 NHK出版・刊 2007年

グロービス経営大学院の科目で、私が講師を担当しているクリティカル・シンキング1、2についてはこの書評シリーズの中でも何度か触れてきました。この科目のおおよそ半分はコミュニケーションについて取り扱っています。論理的に、分かりやすく自分が伝えたいメッセージを構築するためにはどうしたらよいのか?そのために必要な考え方やテクニックを学んでいきます。

ただ、ロジックが重要なことは言うまでもありませんが、多くの方が「それだけでは人は動かないよね…」と思われるのではないでしょうか。ロジックでは充足できない部分の重要性を見事についたのがこの本だと思います。もちろん、ご本人はそんなことは想定されていないと思いますが。筆者は、講談師として、人間国宝に指定されている一龍斎貞水氏です。

ロジック以上に重要なもの。例えば日々の生活態度、情熱、想い、経験など、色々なメッセージが込められています。印象に残ったフレーズをいつものように。

その人の人生経験、年齢なりの声や風貌、培ってきた知識、仕事に向かう姿勢、仕事に向かう情熱、そのときの熱意、人に対する思いやり・・・・・。要するに、その人の生き様すべてが、話の中には出ます。

人前で話をするのに、自信はなければいけません。ここで言う自信とは、話術に対する自信ではなく、「自分が何者であるか」ということの自信です。

場の「空気」を読めるか読めないかは、一つには思いやりの差です。普段から相手の身になって物事を考えているかどうか。

人の心を熱くさせる、揺さぶるような話をするためにまず必要なのは、それに近いものを自分の中に養うことです。つまり自分がまず感動する。そのことを言いたいという気持ちを熱くさせておく。そのために必要なのは、勉強と体験でしょう。

誰かにものを伝えるとき、この本に書かれていることが常に実現できたとしたら、本当に素晴らしいことだと想います。是非胸に刻んで大切にしていきたいと思います。

『日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点』 山岸俊男・著 集英社インターナショナル・刊 2008年

『信頼の構造―こころと社会の進化ゲーム』(東京大学出版会)、『社会的ジレンマ―「環境破壊」から「いじめ」まで』(PHP研究所)、『心でっかちな日本人―集団主義文化という幻想』(日本経済新聞社)などの著作で知られる、北海道大学の山岸俊男先生の最新刊です。山岸先生の本を読ませていただくたびに、「ああ、世の中にはこんなに頭の良い人がいるんだなぁ」といつも感心してしまいます。

この著作も、難しい話が極めて平易かつ巧みな日本語で書かれた素晴らしい本だと思います。一見、当たり前だと思っていることが次々に実験データや過去の事実により覆されていく。「えっ?」「へぇ」の連続です。キーワードは「安心」。

例えば、こんなくだりが出てきます。

日本人の心は荒廃したとおっしゃいますが、もしそうだとするならば、「かつての日本人の心は清く美しかった」ということになります。それは本当なのでしょうか

なぜ日本人は「旅の恥はかき捨て」になってしまうのか

なぜ若者たちは「空気を読む」ようになったのか

皆さんはどうお考えになりますか?もし興味をもたれた方はこの本を是非読んでみてください。少し長いですがとても大切な考え方であると感じた部分を引用します。

統治の倫理(武士道)と市場の倫理(商人道)の違いについて語ろうと思えば、いくらでも語ることができるのですが、その最大の違いはどこにあるのかといえば、統治の倫理が「権力者のモラル」であるのに対して、市場の倫理が物を作ったり売ったりする「大衆のモラル」の体系である点だと私は考えています。

武士道に代表される統治の倫理とは、結局のところ、社会体制を維持するために権力者が守るべき道徳律に他なりません。人々から権力者としての畏敬・尊重されるためには、利益に惑わされず、公平無私の心を貫き、秩序や伝統を尊重する精神が必要とされます。そこで生まれてきたのが統治の倫理であり、武士道であるというわけです。

これに対して市場の倫理とは、権力に頼ることなく、お互いに繁栄していくためにはどう行動していくのがいいのかを考えたときにうまれたモラルの体系であると言えるでしょう。共存共栄のためには、おたがいが嘘をつかず、信頼しあい、利益を分かち合う姿勢こそが必要であると説くのが商人道であり。市場の倫理であると言えます。

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