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戦争の経済学

投稿日:2008/02/05更新日:2019/04/09

戦争で軍産複合体は潤う?戦争と経済成長率の関係は?人道的な見地から語られがちな「戦争」を、経済学の視点から「冷静に」分析した1冊を紹介する。グロービス経営大学院講師の嶋田毅が創造と変革の志士たちに送る読書ガイド。

今回は、日本人には近いような遠いような、微妙なテーマである「戦争」を取り上げます。道義的な問題はいったん捨象し、純粋に経済学的な観点から見ると、戦争というイベントはどのように捉えられるのでしょうか。ちょっと変わった視点から、グローバルな重要課題を考えます。

「戦争」についての客観的分析

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なぜこの本を手に取ったかというと理由は大きく三つ。

まず、訳者である山形浩生氏のファンであるということ。好き嫌いは分かれるかもしれないが、個人的にはあのマニアックかつ懐の深い知識・知見と、ファンキーな文章は大好きである。おそらく、10数冊は氏の著書や訳書を読んでいる。(ところで、山形氏の略歴を見ると、学部は違うけど、ほぼ同じ頃に同じ大学に通っているので、ひょっとしたらキャンパスで会っていたかも)

二つ目の理由は、「○○の経済学」というタイトルの本が好きだということ。『「キャバクラ」の経済学』や『お寺の経済学』、『契約と組織の経済学』などなど。普段あまり経済学や経営学的な視点から語られることのないテーマを、新しい視点で見たときの発見が楽しい。

三つ目の理由は、純粋に、ビジネスパーソンとして知っておきたいテーマだと思ったこと。狭くなる一方のグローバル経済。身近な経営環境変化(さまざまな資源の価格や、国ごとの購買力など)のちょっと先には戦争や内紛がある。戦争は嫌いだが、だからこそよく知っておく必要がある(ただでさえ、憲法の影響もあって、幸か不幸か日本人は戦争に疎い)。その際、市民的、人道的、民族的な「熱い」視点で戦争や平和を考えるのも重要だが、ビジネスや経済の「冷静で客観的な」視点も必要なはずだ。

さて、本書は戦争のさまざまな側面について、(主観を極力排除し)ひたすら経済学(ミクロ/マクロ/ゲーム理論など)の視点から眺めたものである。戦争が経済(成長率、インフレ、失業率など)に与える影響、国ごとに見た戦争とGDPの相関、平和維持活動の費用対効果、軍需産業の事業特性、(核)兵器が拡散していく理由・・・。

個人的に面白かったのは、5章「武器の調達」、6章「発展途上国の内戦」、7章「テロリズム」、8章「大量破壊兵器の拡散」あたりだ。あまり種明かしをするのも何なので詳細は省くが、以下の質問について皆さんなりに考えていただきたい。

・戦争は軍産複合体を潤すのか

・傭兵と志願兵と徴兵で最も費用対効果の高いのはどれか

・戦争(内戦)が起きやすいのはどのような国々か

-裕福な国 vs 貧しい国

-民族の集中度が高い国 vs 民族が多岐にわたっている国

-階層ごとの富の局在が大きい国 vs 人種や宗教ごとの富の局在が大きい国

-資源の豊富な国 vs 資源のない国

-貿易が盛んな国 vs 貿易が盛んでない国

・なぜ大国は平和維持活動にあまり積極的ではないのか

こういう分析を見て感じるのは、第一に、「巷で言われている言説や直感って意外と当てにならない」という点だ。「米国の軍産複合体が戦争を欲しているから世界中に戦争が起きる」などという主張が典型だろう。「ゴルゴ13」は確かに面白いが、そのまま真に受けると痛い目にあう可能性が高そうだ。

第二に、多様な視点を持つことの重要性。あまり冷徹すぎるのは問題だが、さまざまな角度や距離感から事象を観察することは、このテーマに限らず重要だ。なお、個人的には、客観的な視点を持つだけで自分の意見を持たないのは 好ましくないと思っている。さまざまな視点を持ち、それらを消化した上で説得力の高い主張を持つことが必要なのだろう。

最後に。平和はやはり貴重だ。ビジネスパーソンや消費者としての我々一人ひとりが、日々どのような行動をとることが、長い目で見たときに平和をもたらすのだろうか。改めて考えさせられる。戦争国からは資源を購買しない(あるいは関税をかける)などのアイデアはシンプルだが面白い。近年話題のCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)の一環としても考えるべきテーマなのかもしれない。

お断りしておくと、本書は決して一般の読者向けに書かれたものではない。ある程度、経済学の素養のある読者を想定して書かれており、Y=C+I+G+・・・といった数式や、経済学でおなじみの価格と数量のグラフもそれなりに登場する。それでも、用いられているコンセプトやツール自体は大学の教養レベルの経済学の知識で事足りるので、必要以上に構える必要ない。むしろ、経済学の教科書ということもあって、網羅的に「これでもか」とファクトや分析が書き込まれている点がやや退屈かもしれない。最初のページから字面を追うよりも、面白そうなトピックから読んでいくことをお薦めする。

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