書評を書くのも6回目になりました。今回は、そもそも何故、書評を書く気になったのかを改めて考えてみました。
と、大袈裟な話ではないのですが、頻繁に書店に足を運んでいると、出版の回転の速さを強く、強く感じます。平積みに陳列されたなかに気になる本を発見し、その3日後に書店に行くと、もう、その本が同じ場所には見当たらない、というのは、よくあることです。いったい、この国では1年間に何冊の本が出版されているのでしょう。タイトルさえ覚えておけば、amazonなどのネット書店で買うこともできますが、少し昔であれば、それっきり。どの本だったか、あやふやになり、そのまま良書と出会う機会を逃してしまった、という方も多いのではないでしょうか。
結果として、「もっと読まれてもいいのに」と思う本が、埋もれてしまったり、短い期間に絶版になってしまったりすることを、私はとても残念に思うのです。そんな思いから今後も、個人的な嗜好丸出しで、勝手に良いと思っている本を、できるだけ多くの方に読んでいただくため、少しずつご紹介していこうと考えています。
では、今回の3冊を。
『ライト、ついてますか−問題発見の人間学』 ドナルド・C・ゴーズ、ジェラルド・M・ワインバーグ・著 共立出版・刊
ジェラルド・M・ワインバーグという方をご存じでしょうか? ITコンサルタントの草分け的な存在で、今回ご紹介する本のほかにも、業界内では非常に有名な本を(『コンサルタントの秘密−技術アドバイスの人間学』共立出版・刊ほか)何冊も書かれている方です。学生時代、彼の著書で日本語対訳された本を端から全て読み漁ったことを今も記憶しています。
そんな中から今回は、この「ライト、ついてますか」を取り上げました。
私は今、グロービス・マネジメント・スクールとグロービス経営大学院で「クリティカル・シンキング」という科目を担当していますが、そのコースで取り上げる大きな柱が「問題解決」です。問題解決をする際には、「まず何が問題であるかを定義する」ことから始めるのですが、この本はまさに問題解決の最初のステップである「問題発見」について書かれた本です。
といっても、ガチガチの論理思考を前面に出した本では全くなく、日常、陥りがちな罠について多くの事例を紹介しながら、問題発見の本質に迫っていくという、非常に優れた一冊です。この種の本でこれ以上のものに私はまだ出会ったことがありません^^。
なかには、問題発見とは直接、関係しないことも書かれていますが、私が印象に残ったフレーズをいくつかご紹介します。
彼らの問題をあまりやすやすと解いてやると、彼らは本当の問題を解いてもらったとは決して信じない
問題の正しい定義が得られたかどうかは決してわからない、問題が解けたあとでもすべての解答は次の問題の出所
キミの問題解決をおじゃんにする原因を三つ考えられないうちは、キミはまだ問題を把握していない
もし人々の頭の中のライトがついているなら、ちょっと思い出させてやる方がごちゃごちゃいうより有効なのだ
1987年に日本語の第一版が紹介されてから、20年も経つ本ですが、本当にお薦めしたい一冊です。
『ロジカル・ライティング』照屋華子・著 東洋経済新報社・刊
先日、グロービスの大阪校で、この本の著者、照屋華子さんに、ロジカル・コミュニケーションを題材にした講演をしていただきました。ゆっくりと、非常にわかりやすく、にこやかにお話しされる方で、すっかりファンになってしまいました。
講演会では、こんなやり取りが印象に残りました。
質問者「マッキンゼー時代に目にされたレポートには、良いレポートも、そうでないレポートも、数多くあったと思いますが、その大きな違いは何でしたか」
照屋氏「レポートを書いたコンサルタントが、どれほどのことを成し得ようとしたのか、真剣に考えたのか、その度合いが差異となって現れていたと思います」
論理の重要性を説くカリスマが、こんなコメントをさらっとしてしまうあたり、本当にすばらしいことだと思いました。この話で講演全体の意味が一段、上がったように思いました。
その照屋さんの書かれた「ロジカル・ライティング」。
わかりやすい文章を書くための本です。当たり前のようにも思えますが、本当にわかりやすく書かれた本です。この手の話をこれ以上、わかりやすく書くのはほぼ不可能・・・と思ってしまう内容です。
世界最高峰の戦略コンサルティングファームのマッキンゼーで長年お仕事をされてきた「実務」「現場」から浮き彫りにされた様々なノウハウが詰め込まれています(行間にはノウハウだけではなく、思想もたくさん詰まっているのですが^^)。すぐに全てのノウハウを活用することは難しいと思いますが、文章を書く能力を高める唯一の方法は、とにかく「書く」ということだと思いますので、是非、机の上に一冊おいて、ことあるごとに見返してみてください。以前、ご紹介した「理科系の作文技術」と併せて読まれると、さらに良いかもしれません。
『デザインの輪郭』 深澤直人・著 TOTO出版・刊
私は大学時代、理工学部の機械工学科に所属していたので、機械設計を随分とやりました。いわゆる図面を描く=設計ということですね。どういう素材をどのように組み合わせると、どんな風に動くのか、もしくは壊れないのかなどを考えて設計するわけです。
「設計」を抜きに、「ものを作る」ことは語れませんが、もう一つ重要なのが、そのものをどんな「デザイン」にするのかという話です。
『デザインの輪郭』は、日本を代表する工業デザイナーである深澤直人さんが書かれた本です。この携帯電話のデザインをされた方といえば、皆さんピンとくるのではないでしょうか(ちなみに、深澤さんのデザインしたものを買いたい方は、楽天などのショッピングサイトで「深澤直人」と検索してみてください。たくさん出てきます^^)
『デザインの輪郭』は、少し不思議な構成の本です。対談もあれば、深澤さんのデザインした作品の写真もあれば、なぜか、しおり用の紐が2本ついていたり、文字の大きさが途中で変わったり・・・。
内容はというと、なにか日常生活の雑踏の中で忘れてしまいがちな大切なことが、たくさん描かれた本だと思います。読んでいる間、時間がゆっくり流れていく感覚がある、というか。
私が印象に残ったフレーズをいくつかご紹介します。
確固たる美なんてものはどこにもないと思ったときにポーンと抜けて、
それからは無理なくアイデアがどんどん出るようになりました。
日本の工場に行くとものすごくきれいですね
僕が目指したのは、そういう感じだったかもしれない。
日本の工場の整頓された質は、とても尊敬できます。
大切なものは、いつもあたりまえのところにある
人間は他人のためにやっているという感情をもってやると、
汚れてしまいますよ。