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第5回 政策の作り方(1)―マニフェストはPDCAで

投稿日:2007/10/23更新日:2019/04/09

フジテレビ報道記者を経て、弱冠31歳で逗子市長の役に就き、数々の実績を上げてきた長島一由氏が、官民比較の視点で、行政・政治の実態を赤裸々に語る「フジテレビ vs 逗子市役所」。前回までは、官民の人材交流の必要性や、民間から行政リーダーを目指す場合の方法論について紹介してきた。これに続き、今回からは選挙に打ち勝つ具体的な政策の作り方・考え方へと議論を進めていく。

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"面接にはコツがある。

実は、扉を開けて5秒で勝負の大半は決まる。扉の開け方やイスの座り方にコツがあるわけでは、もちろんなく、その人が醸し出す雰囲気。それが勝敗を分かつ。高価な服や特別のオシャレさは要らないが、実際の見た目も第一印象には含まれるので、自分自身に何が最も似合うかを把握していることも必要だろう。

そして始まる面接官とのやりとりでは、必ずといって良いほど聞かれる「自己PR」を、きちんとプレゼンテーションすることが大切だ。(1)今まで何をしてきたか、(2)そこで何をつかんだのか、(3)つかんだことを(面接先の)組織にどう活かせるのか、を順序だてて説明できると強い。面接時の模範解答などというものはないし、百人百様の解答があるべきだが、この順序で説明するのは自分の足跡を的確にプレゼンする手法として便利な論法だと思う。

さて、こうした入社試験などにおける面接で会う相手は一般に、2〜3人、多くても10人程度だが、選挙においては、選挙区の有権者すべてが“面接官”となる。

ただし、この“試験”の場合は、すべての面接官から「○(マル)」をもらう必要はないし、もらうことは不可能だ。政治家に「100%の支持」はない。

それでは、どのくらいの有権者から合格点を貰えばいいのか。

例えば、人口10万人のまちの場合。有権者が9万人、投票率が50%とすると、実際に投票所に足を運ぶ人は4万5000人となる。従って、1人しか勝ち残れない首長選挙では、その過半数となる2万2500票以上を獲得すれば当選はできる。つまり人口の約5分の1程度を引きつければ勝てる計算だ。

市議会議員選挙の場合はどうか。仮に議員定数が24名とすると、3000票を獲得すればトップ当選、最下位では1500票程度を獲得すれば当選できるイメージ。大まかに言うなら人口の約3%の有権者に名前を書いてもらえればトップ当選、100人に1.5人の支持を得れば、市議会議員にはなれるということだ。

「選挙は有権者全員が面接官」と聞いて気が重くなる人もいるかもしれないが、そもそも政治家というのは日常的に社会から監視される存在で、それも仕事のうちだ。これを嫌がって選挙に出馬することに対し、二の足を踏む人は実際、多い。

ただ、「政治の世界の飛び込む」という局面だけを見れば、地元の有力者や組織、団体から強い支援を受けている華やかな候補者たちも(市議会議員選挙で言えば)、数だけを見れば、せいぜい人口の3%程度から票を得ているに過ぎない。逆に言えば、だからこそ支援組織もない、お金もない、ましてや親が政治家でもないという、何も持たない候補者でも戦い方次第では勝ち抜けるのだ。徒手空拳で選挙に挑んでも、やり方次第では、トップ当選を果たすことが可能なのである。"

あなたは何をしてくれる人ですか?

"さて、一般的な入社試験の面接では、(1)今まで何をしてきたか、(2)そこで何をつかんだのか、(3)つかんだことを(面接先の)組織にどう活かせるのか、を順序だててプレゼンテーションできることが大事なポイントと前述したが、これは、すべての有権者が面接官となる選挙でも同じだ。

新入社員の面接ならば、面接官に期待値を高く持たせられることのほうが重要で、(3)(これまでの経験で)つかんだことを組織にどう活かせるのか、という論点はあまり重要視されないかもしれない。しかし、中途採用の入社試験ではそうもいかない。

選挙は中途採用の試験に似て、有権者は市民の代表を選ぶわけだから、「これまでにつかんだことを、政治にどう活かしてくれるのか」、つまり、「あなたは何をしてくれる人なのか」ということを厳しい目で評価する。あなたは何をしてくれる人か。要は「政策をどのように考えているか」ということを有権者は見るわけである。

「政策」とは、端的に言うなら「理想」と「現実」のギャップを埋めるもののことだ。今、何が問題となっていて、その問題を解決するために何が必要か、その具体策を明確に打ち出すこと、とも言い換えられる。

これまで自分自身の選挙以外、国政・地方を問わず多くの選挙を眺め、また実際に関わってもきた経験から言って、政策をきちんとプレゼンテーションできる候補者というのは意外に少ない。

ただ、最近では、国政選挙や地方の首長選挙など、「マニフェスト」という政権公約を掲げる選挙が主流になりつつあり、変化の兆しは見られる。例えば神奈川県の藤沢市では、市議会議員までが、会派としてのマニフェストを作成した。

また、年金改革が争点になった2007年の参議院議員選挙で、自民党は、「社会保険庁を解体して民営化」「来年10月までにすべての年金受給者・加入者に『加入履歴』を送付する」などとマニフェストに記載した。民主党も、「社会保険庁を解体して、国税庁と統合」「自分が納めた金額と、自分が将来受け取れる金額が、自分でいつでも確認できる『年金通帳』を加入者全員に配布する」などと訴えた。

この数年でかなり具体的な記述がされるようになってきたように思うが、マニフェストというのは本来、数値目標や期限を明示するベンチマーク手法が活用されるべきものだ。参議院議員選挙で与党は、「公立学校施設の耐震化のため、平成17年4月現在で51.8%であった公立小中学校の耐震化率を、平成19年4月現在で58.6%まで増加」などと、実績を数値も明示し、記述した。

今後はさらに踏み込み、Plan(計画)→Do(実行)→Check(点検)→Action(是正)というPDCAサイクルにより、マニフェストを進化させることが望まれる。過去のマニフェストに掲げた項目の進捗状況や、もし実現していなければ、その理由について説明責任を果たすところまで至ることが近い将来に向けた大きな課題といえるだろう。

*10月21日に長島一由氏の著書が2冊同時に発売されました。講談社の+α新書の『浮動票の時代』と、WAVE出版の『フィルムコミッションガイド』です。『浮動票の時代』では、本連載でも触れられている、全部浮動票で選挙に勝つことができる現象から時代や政治のダイナミズムを解き明かすとともに、全部浮動票で選挙に勝ち上がった場合の、役所のマネジメントについても記述されています。また、『フィルムコミッションガイド』には逗子市長在任中に重点的に取り組まれた、フィルムコミッションなど映画・映像によるまちづくりについて書かれています。首長の仕事、選挙、政治・行政、まちづくり、市民参加などにご関心の方は是非、手にとってみてください。"

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