" 第2回目は、私がどうやって本を選んでいるかを少しご紹介します。1回目にも書きましたが、まずは、信頼できる人からの紹介。これが大きいですね。
前職で三菱総合研究所にいたとき、「うわさ」の研究をしたことがあります。そのとき、「人は、伝える価値のある内容だけを誰かに話すものであり、その連鎖が『うわさ』となるから、『うわさ』には信頼性の高い内容が多いんだ」なんて話を聞きました。私が、知人・友人から紹介された本を優先して読むのは、こんな話を聞いていたからかもしれません。
良書を紹介してもらうために大切なことは、「自分は本をたくさん読んでいて、どんなジャンルのものでもいいから良い本があったら是非、教えてほしい」と、とにかく常日頃からアピールすること^^。今年4月に担当した、「クリティカル・シンキングII」というクラスの受講生からは、たくさんの良い本をご紹介いただきました。
本の選び方として次に多いのは、気に入った本の中で引用されている本、それから、気に入った本の著者が執筆した別な本へと、数珠つなぎで渡り歩くやり方です。この選び方は、失敗も少なからずあるのですが、引用の内容が素晴らしかったりすると、どうしても原典にあたって全文を読んでみたくなってしまいます。
そして、やはり多いのが書店に実際に足を運んで見つける本。書店には1週間に最低1回、多いときでは3回も4回も行ってしまうのですが、どこに何があるかを把握している行きつけを何店舗か持っていると、興味深い新刊に目が留まりやすいように思います。
“ジャケット買い”をすることも多いです。本も一つの商品であることにはかわりありませんから、手に馴染む本、例えばジャケットの質感が良いものなどは、ついつい買いたくなってしまいます。そのため、積んでおくだけになってしまう本も多いのですが、あまり気にしません^^。たった一行でも得るものがあれば、と思っています。
ちなみに、本の選び方からは少々外れるかもしれませんが、私は、できるだけ原書を読むようにしています。たとえば、マイケル・ポーターの競争戦略について深く知りたいと思ったときには、分かりやすく説明された解説本もありますが、やはりオリジナル(英語の原書という意味ではなく、翻訳本でも)にあたるのが良いと考えています。オリジナルの内容は、解釈が加えられていない分だけ、難解に感じることが多いですが、その分、しっかりと咀嚼して読みますので、最終的には頭に残るように思います。
さて、本の紹介です。"
『すごい考え方』ハワード・ゴールドマン・著 中経出版・刊
" グロービスで「マーケティング」や「経営戦略」を担当している、松林博文講師が翻訳した本です。真っ赤な表紙に白い文字で「すごい考え方」。発売当時は書棚でとても目立っていました。
私はグロービスで「クリティカル・シンキング」の講師をしていますが、その中では「なぜ?」が重要なキーワードの一つとなっています。問題解決にあたる際や、論理構成の整合性を詰めていく段に、活用する問いかけです。トヨタ自動車の「WHYを5回繰り返す」というのも有名ですね。
クラス後の懇親会でも、受講生の皆さんが会話の中に多く取り入れられたりするのですが、この本では、その「なぜ?」についてこんなくだりがあるのです。
残念ながら、多くの人が、あらゆる場面で間違った「なぜ」を使うことが少なくない。立場が下の人や、何かをミスした人に「なぜ」を問うのは、実は「問い」ではなく、「もう二度とそんなことするなよ」というメッセージを送っている場合が多い。自分のミスを自覚している人に対して「なぜ」「なぜ」を問いただすことは、当人の精神を萎縮させてしまう。つまり追い込んでしまうことになる。そして、深いレベルでの問題解決につながらなくなってしまうのである。
このくだりが伝えているのは、「なぜ?」という問いかけの危険な側面に注意しよう!ということですが、本全体としては「言葉」の大切さに多角的にフォーカスを当てた内容となっています。言葉の使い方一つで、様々な局面での成果(「結果」という言葉を使わないところもポイント^^)が変わってきますよ、というメッセージの詰め込まれた優れた一冊です。「論理思考は重要。でも・・・」という方、参考になると思います。"
『決断力』羽生善治・著 角川書店・刊
" 皆さんご存じ、元7冠のプロ棋士、羽生善治さんが書かれた本です。
私は将棋に関してはルールを知っている程度の人間ですが、羽生さんの書かれた本はよく読みます。テレビなどでもたまに意見されていますが、訥々と語るその様も含めて、とても魅力的な方ですね。とりわけ、この本は、読んだ直後に羽生さんご自身による講演会を聞く機会があり、非常に印象に残る一冊となりました。
グロービスで講師をしていると、受講生の方から「上司から『直感』で判断しすぎだ!!と、よく叱られます」というような話を聞くことがあります。ここでいう、もしくは一般的な「直感」は、「当てずっぽう」ということなのでしょう。しかし直感について、羽生さんは、こんな風に書かれています。
直感力は、それまでにいろいろ経験し、培ってきたことが脳の無意識の領域に詰まっており、それが浮かび上がってくるものだ。まったく偶然に、何もないところからパッと思い浮かぶものではない。たくさんの対局をし、「いい結果だった」「悪い結果だった」などの経験の積み重ねの中で、「こういうケースの場合はこう対応したほうがいい」という無意識の流れに沿って浮かび上がってくるものだと思っている。
つまり、経験が積み重なり、そこから染み出た最後の一滴が「直感」である、と。まさに、幾多の対局を戦ってきた羽生さんならではの直感論と思いますが、ビジネスにおいても、論理を突き詰め、全く5分と5分という選択肢に行き当たったときには、このような、経験に裏打ちされた直観力によって決断する力を身につけていきたいと、強く思わずにはいられません。"
『新ハーバード流交渉術 論理と感情をどう生かすか』ロジャー・フィッシャー&ダニエル・シャピロ・著 講談社・刊
" 私は、翻訳本を手に取ると、まず原題を見るようにしています。題名は本の売れ行きを大きく左右する要素なだけに、原題と邦題が全く違うものになっていることも多いからです。
ちなみにこの本も、邦題ではベストセラーとなった『ハーバード流交渉術』の続編的な位置づけを色濃く出していますが、原題は「Beyond the Reason, Using Emotions as You Negotiate」。
実際の中身は、まさに原題の通りといった感じで、交渉において感情がどのような役割を演じるのか、その感情を理解した上で、我々はどのように交渉を進めていくべきなのか。そんな話がメインテーマとなっています。
筆者は「感情を生み出す核心的な欲求」を、「価値理解」「つながり」「自律性」「ステータス」「役割」の5つに大別し、「自分や相手に生じる感情そのものにこだわるよりも、感情が生まれる、これら原因に注目した方がよい」と説いています。そして、この欲求に効果的に対処する方法論を詳しく展開していきます。
私がこの本を素晴らしいと思うのは、「この5つが重要です」というような理念的な話に留まらず、具体的に何に、どのように気をつければ良いのかを、時に質問のワーディングも例示するほどの細心さで書いていることです。
交渉という場面のみならず、一般的なコミュニケーションの場面を、より良いものにしていくための方法論としても十分に活用できる一冊であり、多くのビジネスパーソンに是非、読んで実践していただきたいと思っています。"