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第4回 わずかな資金力でも選挙は戦える

投稿日:2007/08/17更新日:2019/04/09

フジテレビ報道記者を経て、弱冠31歳で逗子市長の役に就き、数々の実績を上げてきた長島一由氏が、官民比較の視点で、行政・政治の実態を赤裸々に語る「フジテレビ vs 逗子市役所」。今回は前回に引き続き、選挙に打ち勝つ方策について分析する。

供託金に加え100万円用意できれば選挙戦は戦える

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" 今回は、まず、多くの人が抱いている「選挙にはお金がかかる」という点から見ていこう。

私は「選挙に出馬したい」と人から相談を受けたときは、「あなたは供託金以外に100万円を捻出できますか」と聞くことにしている。

選挙にはお金がかかるというイメージの実態は一般的に、事務所費と、秘書の人件費がかなりのウエイトを占める。事務所の家賃が月額10万円から30万円くらい、秘書人件費が、例えば1人を雇えば月額15万円から20万円は必要だ。

このほか、政治ビラの印刷と、新聞折込もしくはポスティング業者への依頼など、これも1回発行するごとに、何十万円単位でかかる。

選挙カーの車両自体の借り上げ費用とドライバー代、公営掲示板に張るポスターの費用、公選ハガキ代などは公費で賄われるが、選挙カーのスピーカーや看板代は、これも1週間で20万円~30万円程度の自己負担となる。

鎌倉市議をしていたときに、市議選1回ごとに約3000万円がかかるため、土地を売って選挙資金に充てていると噂されている人がいたが、他の議員によると、この選挙資金のほとんどが「選挙関係者がツケで飲んだ飲み代や、後援会のバス旅行で消える」らしい。関西のある地方では、選挙事務所で炊き出しのおでんを振舞うのが慣例となっている、という話を聞いたこともある(これらがもし本当ならば、すべて選挙違反だ)。

選挙もしくは選挙前の選挙に向けた取り組みの政治活動を含め、選挙にお金をかけたらキリがないのは確かだし、噂が本当であれば、いまだに市議選に何千万円ものお金をかけている人もいるわけだが、私の考えでは供託金に加えて100万円程度あれば市議選は十分に、戦うことができる(供託金は、政令市市議が50万円で、それ以外の一般市の市議が30万円)。

選挙事務所は作らないで自宅兼事務所にする。秘書は雇わないで全て自分で対応する。選挙事務所を作るから電話番が必要になるのであって、作らなければ秘書はいなくても転送電話で対応は可能だ。

逆に必要なのは印刷機だ。これは中古で20万円くらいから入手できるので、紙折り機(A4用紙を3つ折りや4つ折りにして手渡しやすくするため)10万円と併せて、どうしてもあったほうがよい。

このほかに、名前や「本人」という文字を表記する、たすき、のぼりの類と、ハンドマイクも必要だ。

これらがあれば、政治ビラを印刷して、駅頭に立って配布したり、演説をしたりすることができる。

そして、さらに選挙期間中の1週間だけ、選挙カーに看板を設置し、レンタルのスピーカーを取りつけて活動する費用が必要になる。

別に、ひとりで活動したってよいのだ。むしろ、ひとりで活動したほうが「頑張っている、えらい」などと応援されたり、同情されることもあるようだ。旧来型の選挙では、アルバイトでも何でも人を並べて陣営の強さを誇示しようとする。従い、ひとりでの選挙戦は好対照となる。

もちろん、そうは言っても、応援してくれるスタッフはひとりでも、ふたりでも多いほうが何かと選挙期間中は助かることも多いし、候補者本人の声を休めるためにも、代わりになるウグイス嬢や応援弁士がいたほうがよいのは確かだ。こうした運動員には、1回当たり1000円以内の食事を事務所で提供することは公職選挙法で認められているため、これも人数分は必要経費になる。

これらを含めると、やり方によって差はあると思うが、供託金以外に100万円の自己資金を捻出することさえできれば、必要最低限の選挙資金はまかなうことができる。"

“釣堀でサカナ釣り”から時代は“大海原で大漁”に

" 私のケースでいうと、1回目も2回目も、3回目の逗子市長選挙でさえ、選挙事務所は自宅で済ませたし、電話は選挙期間中も、常時留守番電話で対応した。

ごくまれに「選挙期間中なのに、電話も出ないのか」などと憤りの声が留守番電話に入っていたことはあるが、逆に、全部浮動票で戦う選挙手法では、四六時中、駅前や市内の各地域で、演説をしたり、政治ビラを配っているので、「市民の声を聞かない」という本質的な批判の声を受けることはない。

「地盤・看板・鞄」の三バンでいうと、お金(鞄)は極力かけなければいいし、知名度(看板)は四六時中駅頭に立っていれば上がるし、地盤(選挙区内における支持組織)がなければ浮動票をしっかりつかめばいいということなのだ。

さらに、国政選挙や首長選挙と違い、市議会議員選挙では3カ月以上、選挙区に居住している住所要件がある。3カ月以上前に、選挙に出馬を考えた選挙区に住む必要があるが、どれくらいの準備期間が必要になるかについても、今までの経験上、選挙の日から逆算して3カ月活動をしていれば、少なくとも市議会議員選挙には当選している。このことは、選挙期間前の政治活動の期間が長ければ長いほど、労力も、お金もかかることになるが、資金面だけでなく、時間の投資対効果を考えるうえでも、大切なバロメーターではないだろうか。

これら全てから言えるのは、「浮動票の時代」の選挙の戦い方というのは、旧来型の選挙手法とは哲学が違うということなのだ。

釣りに例えて言うと、旧来型の選挙手法が釣堀でサカナを釣ろうとするもので、全て浮動票の戦い方は、大海原に釣り糸を垂れるようなものだ。以前は、釣堀のサカナをしっかり捕まえたうえで、大海原に乗り出さないと“坊主”(1匹も釣れないこと)になるところだったが、利益誘導しにくい世の中になったため、釣堀からサカナは逃げ出し、大海原に釣り糸を垂れる人たちが大漁になるというケースが後を絶たない。

ひとりしか勝ち上がることができない首長選挙で一騎打ちになった場合は、得票率で50%をシェアしなければならないが、20人も30人も勝ちあがることができる市議会議員選挙では、5%の有権者の支持を得れば、ダントツのトップ当選になる。

ここ2回の市議会議員選挙の結果をみると、全部浮動票で選挙に勝つ手法を採用している候補者は、それこそ2位の候補に倍近くの差をつけていることが多いうえ、2007年4月の統一地方選挙では、市議を1期で引退し、早々に県議会議員選挙でトップ当選を果たしている若手政治家も多数見られた。こういう人は、将来の首長予備軍だ。

それから選挙区をみる視点として、全部浮動票で選挙を戦う手法を採用している政治家があまりに多くなってしまった選挙区、別の言葉に置き換えると、政治ビラの文化が根付いている地域は、後発の候補者は二番煎じになり、新鮮味に欠け、当選が難しい傾向にある。

実際、逗子市の隣の横須賀市では、2003年の統一地方選挙で、固い地盤を持つとされてきた現職議員に対して、新人議員が上位当選を果たしたのが影響してか、2007年の統一地方選挙では、同じような選挙スタイルで何十人もの候補者が乱立した。結果、4年間、駅頭を中心にした活動を継続した候補者たちは、票を大幅に伸ばしたが、新規参入組みはほとんどが惨敗した。

私が市長をしていた逗子市でも、同じことが言える。

ここで、もう一つ強調したいのは、大海原に乗り出す、新しい手法を採用する人の中にも、やり方を間違えて、ほとんど票を獲得できない、いわゆる「泡沫候補」になる人もいるということ。選挙技術のハード面をどんなに整えても、政策やそれを伝えようとするソフトの面が欠けていては有権者の理解は得られない。

もちろん、政治家が人前に出るのを基本とする仕事であるにも関わらず、対人関係が大の苦手という人が政治の道を志してしまうという、職の選択ミスも往々にして見られるが、そうではないほとんどのケースが政策を作る能力と、それを伝える技術に何かが欠けているためと見られる。

釣りでいうならどんなに道具が立派でも、釣り餌がよくなかったら、サカナは釣れないし、どんなによいピストルでも、玉が悪くて、飛ぶ方向が間違っていたら、的に当たらないのと似ている。

市政をめぐる問題点をきちんと把握して、今の行政にどんな処方箋が必要なのかをきちんと分析して、有権者に伝える技術がないと、よほど人物的に魅力があるひとでない限り、当選はおぼつかない。このため次回は、政策の作り方と伝え方について、いろいろ話したいと思う。"

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