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第2回 市民との合意に基づく市政の“友好的買収”

投稿日:2007/06/23更新日:2019/04/09

フジテレビ報道記者を経て、弱冠31歳で逗子市長の役に就き、数々の実績を上げてきた長島一由氏が、官民比較の視点で、行政・政治の実態を赤裸々に語る「フジテレビ vs 逗子市役所」。第2回目となる今回は、「ヒラ社員が、ある日突然、社長になってしまう」首長選挙のユニークさから、官民人材交流の可能性を紹介します。

ないないづくしの選挙情熱と勇気とアイデア武器に市長当選

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"そもそもなぜ、私がフジテレビ社員から逗子市長に転身したのかと、疑問を持つ人もいると思う。そこで少しだけ、今までの歩みをお話しする。

私の場合、初めて市長になったのは、31歳のとき。

全国最年少市長として逗子市長に就任したが、その約3年前まではテレビ局の一社員だったわけだ。つまり、「ヒラ社員が、ある日突然、社長になってしまう」ようなことが起きるところに、首長選挙のユニークさがある。

実際は、民間企業でいうところの「社外取締役」にあたる議員を経てから市長になったので、「ヒラ社員から社長」というのは少々オーバーな表現かもしれないが、いずれにせよ、首長選挙は「市民がトップを大抜擢するシステム」なのだ。(私の場合はしかも、鎌倉市議会議員を経て逗子市長になった。このように、隣町からの落下傘市長というのは大変珍しいケースのようだ)

私が、そもそも政治家というものを自分のキャリアプランに入れ込むようになったのは、フジテレビで政経部記者として永田町や霞ヶ関で取材をするようになってからだった。と言っても、「しっかり実績や人脈を築いてから、40歳か50歳で満を持して挑戦する」ことを将来の選択肢の一つに置いている程度だった。

当時はフジテレビでキャリアを積むことが将来につながると信じていたし、給与面、仕事のやりがいなど、忙しさを除いて大きな不満も無かった。

しかし、29歳のときに大学院に通学するために、休職。

会社を辞めずに選挙に出馬できるという状況が生まれたため、急きょ選挙に挑戦したところ当選、そのまま政治の世界に入ってしまったというのが本当のところだ。

私の選挙は、いつも、「組織もない、お金もない、地盤もない、まして親が政治家でもない」の、ないないづくし。持っているのは情熱と勇気と、アイデアだけだ。

市長になったときも、22人いる市議会議員が一人も味方についてくれない状況下で市長選挙を戦った。

候補者は5人いたが、一番の対抗馬は11人の議員が応援、自民・公明・連合が推薦する中、2期目を狙う現職市長。

まさに徒手空拳ともいわれる選挙を戦ってきたが、選挙で余計な借りを作らずに戦うことが、しがらみを持たず、自由にモノが言えることにつながると信じて、取り組んできた。"

四面楚歌の環境でも権限の活用により市政は改革できる

"この市長選は結果、715票差の接戦で私が制することとなった。

その後、8年の任期中、1円たりとも政治献金は受け取らず、また、完全に無所属で活動した。

選挙や政治スタイルは、全てではないにしても、その後の政治家のあり方を規定する。

私は、上述のとおり、カネにもコネにも縛られず、選挙を戦い、また市政に携わってきたため、フジテレビで記者をしていたときと同様の視点で「公平」「中立」な姿勢を貫いてきたことを自負している。

ただ、転進していくうえで、以下の?⇒?⇒?の流れで、大きく意識を進化させる必要はあった。

1、記者のときは問題提起をすればよかった



2、議員のときは批判するだけでなく代案を考える必要があった



3、市長は代案を考えた上でどれにするか決断して責任を取る意思が求められる

当時、私がたった一人で乗り込んだ逗子市は、22人の議員はオール野党。約550人いた職員は一人も顔見知りではない状況。さらに、最年少の係長ですら39歳で、管理職全員が年上という環境だった。

このため、きわめて強い意識が自分自身の中に求められた。

読者諸氏の中には「そんな状況で、31歳の若造が乗り込んでも、何も出来ないで終わるだろう」と思う人もいるかもしれない。

ところが、ここが地方自治体の置かれたシステムの面白いところ。地方自治体の首長は事実上の大統領制が採用されており、ひとたび首長となれば多くの「権限」が与えられている。

国政において総理大臣になるには、国会議員の半分に名前を書いてもらう必要がある。総理は簡単に不信任されてしまうこともある。しかし、市長は市民から直接選ばれているだけでなく、地方自治法であらゆる権限が市長に集中しており、簡単に引きずりおろすことはできない仕組みになっているのだ。

具体的には、1.人事権、2.予算編成権、3.許認可権などあらゆる権限が市長の専権事項であり、また、市政に関するあらゆる情報が一手に集中することも権力の源となっている。

無論、これには良い側面と悪い側面があり、あまりに強い権限を首長が持っているため、その権力を悪用する事件も頻発する(だから、任期が4年と定められていて、その都度、市民の審判を受けるようになっている)。

例えば、市政の全てを、助役を筆頭とする職員に任せたり、特定の組織や団体に利益誘導しようとする一部の議員のいいなりになったりという事例もある。

最近でいえば、福島、和歌山、宮崎の知事が逮捕され、「そのまんま東現象」が起きたことは記憶に新しいところだ。また、アメリカの大統領のように多選制限の動きも出ている。

しかし、この強い権限を、上手く使いこなすことができれば、たった1人のリーダーが市政を大きく変革することも可能なのだ。"

変革の求められる地方行政今こそ民間からのブレークスルーを

"経済環境の低迷や少子高齢化に伴い、地方自治体は今、大きな変化の波にさらされている。

日本経済が成長する一方で予算が増え続けた時代なら、市長は実務を職員に任せ、例えば、挨拶まわりや盆踊りなどのイベントに精を出しているだけでも務まったかもしれない。

しかし、夕張市の財政破綻にも見られるように、今は財政も含めてしっかりと自治体経営をマネジメントする能力と、変化のカーブに合わせ、大きくハンドルを切る強いリーダーシップを発揮できる人材が求められているのだ。

グロービス受講生の中には、ベンチャー企業を立ち上げ、将来的にはM&Aで大手企業のトップに・・・といった野心の持ち主もいらっしゃるかもしれない。

しかし、私は、行政のトップを狙って世の中のために働くのも面白いし、大変やりがいのあることとお勧めしたいと思う。

ホリエモンにフジテレビが乗っ取られそうになったとき、よくテレビに登場していたのが、日枝久会長だ。日枝さんはたたき上げで、フジテレビの社員からも大変人望があるが、日枝さんのようにたたき上げでなくても、トップが務まる仕組みになっている組織が地方自治体。また、ホリエモンのように巨額の株の買収資金を用いなくとも、組織のトップになることができるのが、首長選挙という民主主義の仕組みだ。

つまり、お堅くて安定したイメージの(地方自治体という)職場のトップは、実は、「企業買収によって頻繁に入れ替わる社長」のようなものと、言えなくもない。例えば、そのまんま東知事のような誕生パターンは、利害が対立する関係者から見れば、経営を「乗っ取られた」ケースというわけだ。

日本では、企業買収のイメージはあまり良くないことと捉えられがちだが、首長選挙に勝つということは市民の信託を得て、組織に乗り込むわけだから、そこには大きな違いがある。

ホリエモンがフジテレビを買収しようとしたとき、社員は猛反発した。

しかし、金権や談合体質の組織を変えようと、首長選挙に勝利して、役所に乗り込んでいく場合には、まるで救世主のようにして、市民と善良な職員、議員から迎えられる。

つまり、このようなケースは日本で嫌悪されがちな敵対的買収(Hostile Takeover)ではなくて、市民との合意に基づく友好的買収(Friendly Takeover)に近いものがあるということだ。

億単位のカネを必要とする民間企業の買収と異なり、首長選挙にかかる資金は、市長なら100万円、知事なら300万円の供託金と、市町村長25歳以上、知事30歳以上という年齢要件のみ。

これさえ満たせば誰もが、行政を変革する志士としての有資格者なのだ。

もちろん高い志や、しっかりとした信念やモラルは必要だが、基本は情熱と勇気と、少しだけのアイデアがあればOKだ。

ちなみに、統計上、市長になった人の割合は以下のとおり。

市議会議員・・・33.4%

市の職員・・・29.11%

県議会議員・・・22.4%

民間・・・16.8%

県の職員・・・12.01%

国の職員・・・8.5%

国会議員・・・2.2%

※総合計が124.5%となるのは、重複があるため。『市長の履歴書』田村秀著 ぎょうせい 2001年度調査結果より

データを元に考えると、民間から直接市長を狙うのは「無理」ではないものの、市の職員や市議会議員からアプローチしたほうが、実は近道のようだ。

市の職員が全員、市長になるつもりで仕事をしたら生産性が上がるだろうし、メンバーが固定されがちな市議会議員の選挙には、もっと競争の原理が働かないといけないと私は考える。

そこで次回以降は、今から市議会議員や市の職員、引いては市長になるには何をすれば良いのか。また、市長のモノの見方や、市政のマネジメントはどうあるべきなのかなど、具体的に話していきたいと思う。"

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