東日本大震災以降、被災地の復興支援を行ってきた一般財団法人KIBOW(東京都千代田区、代表理事:堀義人)が、その活動のステージを大きく拡大する。2015年9月、「KIBOW社会投資ファンド1号」(出資総額は5億円)を設立。「社会的インパクト投資」と呼ばれる新しいコンセプトに基づいた投資を通して、社会的課題の解決を目指す「ソーシャルビジネス」を支援・育成する(ニュースリリースはこちら)。一般財団法人KIBOWインパクト・インベストメント・チームの山中礼二ディレクターに、新ファンドの意義を聞いた。(聞き手は、水野博泰=GLOBIS知見録編集部)
KIBOWインパクト・インベストメント・チームの山中礼二ディレクター
知見録: 社会的インパクト投資とは何か?
山中: 社会的インパクト投資は、社会的リターンと経済的リターンの両方を求める投資手法であり、今、世界中で急速に広がっている。特に、欧米、アフリカで進んでおり、日本は出遅れ気味だ。資金源としては、様々な財団、英国では休眠預金の活用が進んでいる。
知見録: 欧米で先行した背景は?
山中: 欧米では社会的問題、特に貧富の格差の拡大などが深刻化している。しかし、政府があらゆる福祉施策を打つことはできないという現実に直面してきた。それならば民間の力で何とかしようという思いを持つ人が増えてきた。
そうした中で、ベンチャー投資の経験がある人が「ベンチャー・フィランソロピー」という新手のファンドを立ち上げ始めた。2000年前後のことだ。ベンチャーキャピタル(VC)的投資手法を使ってソーシャルベンチャーの規模化を支援することによって社会的問題の改善を図ろうというアプローチだ。
その後に続いたのがインパクト投資である。社会起業家を支援するという点は同じだが、フィランソロピーではなく、経済的リターンも求める。登場したのは2007年頃だ。ベンチャー・フィランソロピーも一定の社会的インパクトを生み出してきたが、お金を投資するのではなく「供与」するという仕組みが前提なので、原資調達には限界もある。経済的リターンを出せれば、より多くの民間資金を集められる。
知見録: 日本の現状はどうか?
山中: 多くの社会起業家が生まれている。慶応大学SFCの卒業生や、ETIC.のプログラムの支援を受けて事業を立ち上げる起業家がかなり増えてきた。そして2011年の震災以降は、素晴らしい起業家が東北で次々と立ち上がっている。
一方で、社会起業家に支援する資金提供者としては、ソーシャル・インベストメント・パートナーズが日本財団と共同で2011年に日本ベンチャー・フィランソロピー基金(JVPF)を立ち上げた。そして震災後は三菱商事復興支援財団が、震災復興に貢献する起業家に対して、一部はフィランソロフィー的に、一部は投融資的に支援を開始している。東北を中心に、社会起業家に流入する新しいお金の流れが生まれてきている。
かつては、投資さえ受けられれば社会的インパクトを極大化できる社会起業家がいたとしても、資金を得る方法が限られていたため、成長チャンスを得ることができなかった。状況は大きく変わりつつある。
知見録: 山中さんは東北の被災地での支援活動を続けてきた。今回のKIBOW社会投資ファンドにかける思いは?
山中: 東北を発信源にして、「事業活動を通じて社会を変える」というムーブメントを広げていきたい。その思いは東北の起業家たちと一緒酒を飲み、語り合い、私のほうが学ばせてもらう中で強まっていった。グロービス経営大学院は、仙台校で「東北ソーシャルベンチャープログラム」を開講してきた。 東北の被災地域における社会問題をビジネスによって解決しようという社会起業家を養成することが目的だ。「ダイムラー・日本財団イノベーティブリーダー基金」の協力を得たこの特別プログラムは、累計100人ほどが受講してくれた。そこから多くの起業家が生まれている。その中に、KIBOW社会投資ファンドの第1号投資先となった愛さんさん宅食の小尾勝吉氏もいた。彼らが起こすムーブメントを支援していく。
小尾さんに初めて会ったのは2013年1月期の東北ソーシャルベンチャープログラムだった。「高齢者向けの弁当宅配事業をやるんだ!」という強い気持ちをもってクラスに臨んでいた。マーケティングとかプライシングについて詰めたいという明確な目的を持っていた。起業家としてのポテンシャル、成し遂げようとしていることの意義の両方が素晴らしい。ガンで病床にあったお母さんが、腸閉塞で食べることができないのにもかかわらず、口から食事をとることに執着した様子を見た。それが、小尾さんの歩むべき道を決めた(そのストーリは、「にんげんノート ある母の背中」に詳しい)。
東北ソーシャルベンチャープログラムのクラスメートや講師を含めたコミュニティぐるみで応援の気運が盛り上がっていた。そして、KIBOWは被災地各地に現地リーダー(KIBOWリーダーズ)を選び、KIBOWリーダーズをハブにしながら、被災地全域に支援の輪を広げた。東京ではチャリティディナーを開いて寄付を募った。そういった一つひとつの活動の積み重ねがあって、今回のKIBOW社会投資ファンドが生まれるに至った。
知見録: 今後、どのような事業に投資していくのか。
山中: 3つの基本原則がある。第1に、強い思いと社会を大きく変えるビジョンを持った起業家に投資したい。第2に、収益モデルが描けていること。利益が出ていないと投資しないということではないし、赤字の段階からでも投資はするが、売り上げを生む仕組みが見えていることが条件だ。第3に、株式会社であること。経済的リターンを求めるので、NPO(非営利組織)は対象外となる。
エリアとしては、必ずしも東北に限定していない。投資を求める社会起業家は、KIBOWのメールアドレス(kibowjp@globis.co.jp)にぜひ連絡してほしい。
知見録: 社会的インパクト投資が本格化していくと、この日本でどのようなことが起こるのか。
山中: 社会を変える起業家に対して、「温かいお金」がもっともっと流入し、社会変革が加速すると考えている。これまでの資金は、政府のお金、財団のお金、寄付のお金、クラウドファンディングのお金だった。これらに加え、社会のためなる、経済的リターンも得られるかもしれないというインパクト投資が加わり「温かいお金」の層が厚くなる。
KIBOW社会投資ファンド1号の総額は5億円だが、2号ファンドでは20億円とする予定。1号で、経済的リターンも出せるということを証明し、2号で規模化する。そうすれば、KIBOW以外にもインパクト投資ファンドが生まれるだろう。大きな潮流にしていきたい。
<グロービス・ニュース>
グロービス経営大学院 × 日本財団 共同開催セミナー
社会的投資の新潮流 ~社会を変える「温かいお金」の活かし方とは
■開催概要
日時: 2015 年10月26日(月) 19:00~21:00(受付18:30~)
場所: グロービス経営大学院東京校(東京都千代田区二番町5-1)
定員: 50名(事前申し込み制)
参加費: 1000円(当日受付にてお支払いください)
主催: 学校法人グロービス経営大学院、公益財団法人日本財団
★お申し込みはこちら → http://mba.globis.ac.jp/seminar/detail-5684.html
学校法人グロービス経営大学院(東京都千代田区、学長:堀義人)と公益財団法人日本財団(東京都港区、会長:笹川陽平氏)は、10月26日(月)、グロービス経営大学院東京校(東京・千代田区)にて、共同セミナー「社会的投資の新潮流 ~社会を変える「温かいお金」の活かし方とは」を開催します。日本の社会的投資をリードする各団体のキーパーソンや、ソーシャルビジネスを担う社会起業家らを集め、社会的投資の今後について議論します。
社会が抱える様々な課題をビジネスの手法を用いて解決を目指す「ソーシャルビジネス」が、日本でも拡大しつつあります。社会をより良くしたいという熱い思いを持った多くの社会起業家による挑戦が行われ、その活動を支えるための資金が多様な形で流入し始めています。本セミナーは、社会的投資および社会起業家の資金調達の「現状」「課題」「未来」について議論を深めることを目的としています。
【プログラム】
第1部 基調講演 「社会起業家の資金調達の新潮流」
鵜尾雅隆 日本ファンドレイジング協会 代表理事
第2部 「KIBOW社会投資 ~新たな資金の流れを作る」
山中礼二 一般財団法人KIBOWインパクト・インベストメント・チーム ディレクター、グロービス経営大学院 教員
小尾勝吉 愛さんさん宅食株式会社 代表取締役
第3部 「日本の社会的投資の手法と課題」
鵜尾雅隆 日本ファンドレイジング協会 代表理事
甲田恵子 株式会社AsMama 代表取締役CEO
中川剛之 公益財団法人 三菱商事復興支援財団 事業推進チームリーダー
深尾昌峰 公益財団法人京都地域創造基金 理事長
青柳光昌 日本財団 ソーシャルイノベーション本部 上席チームリーダー(モデレーター)
――― グロービス・ニュース ―――