執筆:田久保善彦(グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長)
インターネットが発展した現在においても、私は、「本」という媒体の価値は全く変わっていないと強く思っています。本から効果的に情報や知恵を得る上では、次で述べる4つの要素が大切です。1つ目が、量を読むということ。2つ目は、高校の教科書レベル(教科書そのものもお勧め)の本で、様々な角度から書かれた本を読むためのベースを作ってから難しい本に手を伸ばすこと。その上で、自分にとっての良書の比率を高めることが、3つ目に大事なポイントとなります。そして、いくら本を読んだとしても自分の中に残らなければ意味がないので、有効な情報を吸収する点が4つ目のポイントです。
1. より多くの本を読むためにはどうすればよい?
私は、1年間にだいたい200冊から250冊の本を「見ます」。その中には、熟読する本がある一方で、目次だけを「見る」本も含まれます。また、1頁目の1文字目から最終頁の最後の文字まできっちりと精読することもあれば、興味がある章だけを読んでいくこともあります。このように、必ずしも1冊1冊をきっちりと読むだけでなく、自分にとって有益なもののみを割り切って読むことも必要であると考えています。もちろん、美しい日本語で書かれた古典をしっかりと読むという方法もあるでしょうが、ビジネスとの関連で言えば、そういうことは必須ではありません。ビジネス書を読む際には、あらかじめ目的を設定します。この本からどのような情報を得たいのか、この本を何のために購入したのかという諸点をクリアにすれば、読むべき部分を限定しても構わないと思います。
例えば、プレゼンテーションに悩んで本屋に赴いたとしましょう。そこでは、10点を超えるプレゼンテーションに関する本が置かれていることでしょう。前提として、既に自分はプレゼンテーション用資料を作る技術を持っており、相手に分かりやすく伝える方法を知りたいと考えています。そのような明確な問題意識を持って本を購入した場合には、資料の作り方に関するページを読む必要はありません。自分に必要な、相手に分かりやすく伝えるノウハウの部分だけに、目を通していけばいいのです。「買っちゃったから、もったいない」と思って本の内容すべてを読む人がいますが、そうした読書にかける時間の方がよほどもったいないです。極論すれば、人生にとって最も重要なものは時間です。かけるべき時間やエネルギーを意識して、メリハリをつけて読むことが、読書量の増加につながります。
最近では、インターネットで本を購入する人がたくさんいます。本が手元に届いた際に、「あれ、こんな本だっけ」と思った経験をした人も少なくはないでしょう。中身が想像以上に難しかったり、日本語が受け付けなかったりといったことが、タイトル買いの際には生じ得るのです。その時に、「もったいない」という義務感から嫌々読みだすと、頭には入らないし時間も食います。そういう時には思い切って読むのをやめて、どこかに置いておくとよいでしょう。いずれその本が、自分のことを「呼んでくれる」時があります。私自身、読むのをやめて本棚に入れておいた本を数年後に読むこととなり、その時に初めて役に立ったという経験を何度もしています。本を読む際には、早めに見切りを付けることが実は大事です。
2. どんな本を選べばよい?
私は特に新しい分野を学ぼうという時には、まずは全体像を俯瞰するために、中学生や高校生の教科書レベルの本を探すようにしています。書店の中高生向け参考書コーナーをぶらぶらすることが多いのですが(笑)、とても分かりやすい本がよく見つかります。まずは全体マップを頭に入れた上で、次に専門性が高い本を読んで行く。いきなり難しい本に取り組むと難しくてよく分からず、その分野そのものを嫌いになってしまうこともあると思います。
また、毎年年末には、仕事とは必ずしも直接関係しない「来年の学びテーマ」を決めます。そして、そのテーマに関係する本を1カ月に1冊か2冊は最低限読んでいきます。1年間に十数冊から二十数冊の本を読むこととなります。数年前、「昭和史」をテーマにしたことがありました。昭和史に関する本は多岐にわたり、政治家の視点で書かれた本もあれば、戦争に関する本、中国の視点で書かれた本、アメリカの視点で書かれた本、韓国の視点で書かれた本もあって、どれから読むべきか迷ってしまいます。そうした状況の中で最初に読むべきは、やはり、中学校や高校の歴史の教科書だと思います。様々な意見はあるでしょうが、教科書は文部科学省が認めて広く使われているだけあって、読み物としての完成度が高く、必要十分な情報を含んでいます。また分かりやすく書かれているため、頭の中を整理する上でも最適です。
さらに付け加えるなら、版数にも着目するとよいでしょう。版数が多いほど、長く読み続けられている本ということになります。たまたま今私のカバンの中に入っている本は30版を重ねています。30回も刷られているということは、それだけたくさんの人々から評価され、買われているということを示しています。
3. 良書に出会うためにはどうすればよい?
私は、本の感想を一言、二言SNSなどにアップするようにしています。そうすると、「どうやって本を選んでいるんですか」と聞かれることがあります。インターネットで買うこともありますが、私は週に最低1回は実際に本屋へ足を運ぶようにしています。行きつけの本屋さんです。本屋では、店員さんが本を選んで入荷し、どの本を平積みにするか、どの本を目立つ棚に置くかなどを決めています。つまり、本屋ごとに癖があるのです。行きつけの本屋さんを持っていると、何か変化があると、「あっ、新しい本が入ったな」「ここのお勧めなら、ちょっとえ手にとってみようかな」などと感じるようになりますので、良書に出会うチャンスが増えるのです。
また、信頼できる人の意見を聞くことも重要です。親しい人が勧めてくれた本については、基本的に購入するようにしています。私は、「この本がいいよ」と言ってくれるアドバイザー的な人を「読書メンター」と呼んでいます。新聞や雑誌の書評欄から情報を入手することはあるでしょうが、自分の近くでたくさん頑張っている人が勧めてくれた本であれば、なおさら買ってみたくなるものです。SNSで情報を発信している人をフォローしてもよいでしょう。良書に出会うためには、本に関する良質な情報をたくさん得られるよう努力することが大切です。
4. 有効な情報のインプットを高めるためにはどうすればよい?
せっかく読んだ本からは、なるべく充実したインプットを得たいですよね。大事なことは読みっぱなしにしないということです。1行でも1節でもいいので、読んだ内容を後で思い出せるよう、ノートにメモをとる、あるいは付箋を貼っておくのです。私の友人に、気に入った部分を全部スマートフォンのカメラで撮る人がいます。たった1秒で記録に残せますし、タイピングをする必要もないため手間が少ない妙手だと思います。このようなことを繰り返すことで、自分の頭の中に大事なフレーズのデータベースができ上がっていきます。こうした作業は、電子書籍であっても紙の書籍であっても同様です。大切なことは、印象に残った内容を残しておくという意識と、それらを必要な時に引っ張り出しやすい状態にしておくという意識を持つことです。
また、同じトピックに関して複数の本を集中的に読むのは良い方法です。例えば、最近はやりの人工知能やビッグデータについて学びたいのであれば、まず、全体像が分かる本をそれぞれ1冊読む。そして、別の立場から書かれた複数の本を読みこんでいく。1つはビジネスマンが書いたもの、もう1つは研究者が書いたものといった具合です。同時期に様々な本を読んでいると、頭の中へ刷り込まれやすくなるばかりか、相互に矛盾する内容に気付くこともあります。そこをフックにして、もう少し調べてみよう、考えてみようという意識も生まれます。偉い先生が書いた本だけを読んでいると、すべてを受け入れて終わってしまいます。様々な立場、様々な視点の本を、相互に絡めるようにして読むことで、理解がより深まっていくでしょう。
(本記事は、共著『27歳からのMBA グロービス流ビジネス勉強力』(東洋経済新報社)を元にFM FUKUOKAのラジオ番組「BBIQモーニングビジネススクール」で放送された内容をGLOBIS知見録用に再構成したものです)
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