初稿執筆日:2014年2月21日
第二稿執筆日:2016年2月10日
今回より、「100の行動」は国土交通編に入る。国土交通省は公共事業を司る巨大な実業官庁だ。この分野の政策をどう選択するかで、成長戦略も行政改革も左右される。100の行動国土交通編では、空(航空政策)、海(港湾政策)、陸(輸送、鉄道、道路)、都市(都市政策、住宅政策)などの分野ごとの政策について順を追って議論していき、その後に、観光、防災、インフラ整備、海洋政策など、分野横断的な政策を提言していく予定だ。
国土交通編の最初は、航空政策から入ることにしたい。オープンスカイ、羽田空港の国際化、LCC(ローコストキャリアー)の就航と、近年の日本の航空行政、大きな転換を進めつつあると言えよう。
そもそも、日本の航空行政は、羽田と成田という首都圏空港の輸送能力の低さがボトルネックとなり、日本固有の構造が形成されてきた。つまり、東京圏に一極集中する航空需要に対して、羽田や成田の輸送能力が追いつかず、そのために羽田と成田で国内・国際分離を行った上で、羽田と全国の空港を結ぶ路線は、運航頻度を抑えて大型機材で一度に大量輸送するというネットワークが形成されたのだ。
世界の航空市場が小型ジェットによるダウンンサイジング化と多頻度化に向かう中で、日本の地方空港は羽田との輸送能力を確保するために大型機材の就航を可能とするための滑走路延長事業が延々と実施された。こうして、「国土の均衡ある発展」の名の下、国内各地に空港を整備し、路線網を拡げることに主眼が置かれた。
そこには、日本の国際競争力強化や、航空会社・空港の競争の促進といった政策目的は無かった。
しかし、いまや長年にわたって日本の航空政策上のボトルネックであった首都圏の空港容量は大幅に拡大された。2010年には羽田の第4滑走路および新国際線旅客ターミナルが供用開始し、本年夏には44.7万回(うち国際線9万回)まで年間発着回数が拡大する予定だ。成田でも、昨年B滑走路西側誘導路などが供用され、年間発着枠が本年度中に30万回まで拡大する。
近年のこうした日本の航空政策の大転換には、G1メンバーでもある前原誠司さんが国土交通大臣を務めた時の功績が大きい。本「行動」にもコメントをいただいているが、前原氏は「日本の地方空港のハブが仁川になっている」という強い危機意識を持ち、内際分離政策(国内線は羽田、国際線は成田という政策)をやめ、羽田を国際化、それまで、年間9000回だった羽田の国際線の発着枠を、9万回まで拡大させた。この羽田の国際化に危機感を覚えた成田は、それまで発着回数増加には無視を決め込んでいたが、自ら22万回から30万回までの増枠を決めた。これにより、羽田の8万1000回と成田の8万回、合計16万1000回が新たに国際線に割り当てることができるようになったことで、それまではオープンスカイ協定の対象外であった首都圏空港も含めたオープンスカイ協定が結ぶことができるようになり、前原国土交通大臣時に初めて23カ国と協定を結び、今も順調に増えているわけだ。作ったのに使われない地方空港の活用を狙ったLCCの立ち上げや、公設民営化(コンセッション)方式による運営権の民間売却、債務の圧縮と民による経営効率の極大化を目指す法律の制定も前原氏のリーダーシップによる。
国際民間航空機関(ICAO)の推計によると、航空交通輸送量は今後アジア・太平洋地域を中心に増加し、2025年には同地域が世界最大の航空市場に成長すると見込まれている。成長するアジア太平洋市場の中で今後国際的な競争が激しくなることが予想される今、日本の長年のボトルネックが解消した千載一遇のチャンスに、抜本的に日本の航空政策を転換すべきだ。容量制約を前提に国土の均衡発展を重視した規制行政から、企業間の競争促進、日本の国際競争力強化を重視する競争政策へ確実に日本の航空政策を転換させたい。
1. 羽田、成田の発着枠は市場原理を導入し参入を自由化せよ。そして、茨城空港を含めた3つの首都圏空港を一体運営し、競争力を強化せよ!
羽田空港と成田空港が拡張され、最大需要のある首都圏空港の発着回数が年間74万回を超えることは国益に適うことだが、羽田の発着枠の配分は未だに国土交通省による行政裁量だ。さらに「増えた枠の活用」の議論はあるが、既存の利用枠の再検討という議論は皆無である。既存枠は、JAL、ANA等のネットワークキャリアの既得権益となっており、LCCなど新規参入企業は参入の機会すらない。オリンピックに向けて、LCCを含む地方と首都圏間の路線を徹底的に充実させる必要がある。
首都圏空港の発着枠は、既存配分の既得権益を含めて、その配分を競争入札化することで市場原理を導入すべきだ。その際の発想としては、御立尚資氏によると「各路線間の内部補助を前提としたネットワーク維持」から「必要な際には、自治体の意思で透明な補助金や税優遇も許す、ただしすべてはオープンビッドで就航会社(コストの低い会社が有利)を選ぶ」である。
一方、羽田と成田のキャパシティが大幅に増えたと言っても、巨大な首都圏の航空需要はそれ以上だ。そこで注目すべきなのが、茨城空港だ。茨城空港は、2010年に自衛隊百里基地との軍民供用で民間空港として開設されたばかりだが、LCCの参入によって利用者数を倍増させ、既に黒字で経営している等成功している。
首都圏空港のキャパシティをさらに拡大させるため、羽田、成田、茨城を含めた、3つの首都圏空港を一体として競争力強化を進めるべきだ。最大のポイントは都心からのアクセス向上だろう。東京オリンピックに向けて羽田空港への東京駅からのJR線開通の検討が進められていることは大いに評価したい。成田についても日暮里から成田空港までは30分台を実現している。茨城空港については、都心からの距離は実は成田空港とそう変わらない。首都圏第3空港として都心からのアクセス改善を進め、3空港一体で首都圏への航空アクセス強化を進めるべきであろう。
2. 空港を一体経営し、民間開放し、競争力を高めよ!
日本には28の国管理空港、54の地方管理空港、自衛隊との供用空港などその他の空港20の併せて100以上の空港がある。主要路線を担う一部の空港を除いて赤字経営がほとんどだ。しかし、先述の茨城空港のように、開設後急速に利用者数を増やしている成功事例もあり、空港の経営次第で収益を上げることは可能なはずだ。
その際に問題となるのは、滑走路等(国)と空港ビル(民間)の運営主体が分離しているため、空港の一体的経営が困難となっていることだ。空港経営を一括して民間に開放し、空港ビルの運営だけでなく、空港運営、滑走路等の整備、周辺開発を含めて経営し、着陸料等も各々の空港の運営企業が自由かつ機動的に決められることが望ましい。
政府は、一昨年経営統合された関空と伊丹空港の運営会社、新関西国際空港株式会社について、できるだけ早期にコンセッション方式によるPFI(Private Finance Initiative)を行うことを目指している。また、仙台空港についても、コンセッション方式で民間開放する方針だ。
これらの事例において、開放される事業の対象施設は、旅客ビル、貨物ビル、道路・駐車場などだけではなく、滑走路、着陸帯、誘導路、エプロンといった空港基本施設が含まれる。運営権者は、これまでと異なり、空港全体の施設の維持管理・運営を行うこととなる点は大いに評価すべきだ。それに加えて、是非とも着陸料設定権等も運営会社に付与する徹底した民間開放を進めて欲しい。関空・伊丹や仙台空港を皮切りに、全国の空港にコンセッション方式による民間開放が拡がることを期待したいと思います。
3. オープンスカイを徹底的に推進し、航空企業間の競争を促せ!
日本では、第一次安倍政権の「アジアゲートウェイ構想」により、2007年からオープンスカイを進めてきた。オープンスカイとは、国際航空輸送における企業数、路線および便数に関する制約を2カ国間で相互に撤廃し、航空会社が路線や便数を自由に決められるようにすることを指す。第一次安倍政権時のオープンスカイは、海外が求める首都圏空港が、成田空港のキャパシティが満杯の状態だったため対象外となり、海外があまり関心を持たなかったため進まなかったが、既述のように前原国土交通大臣時に首都圏空港の国際発着枠の抜本的な拡大を行い、これまでに、アメリカ、韓国、シンガポール、マレーシア、香港、ベトナム、マカオ、インドネシア、カナダ、オーストラリア、ブルネイ、台湾、イギリス、ニュージーランド、スリランカ、フィンランド、フランス、中国、オランダ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーおよびタイの計23カ国・地域との間で合意を得ている。これは日本に発着する総旅客数の約91%を占める数字をカバーしている。
航空政策は、歴史的に各国ともフラッグシップ・キャリアの確保などといった国益の確保が全面に出され、国際的な自由化は1970年代までなされなかったが、その後は欧米を中心に競争を認める政策に転換された。欧米に比べて格段に遅れていた日本の航空政策がここ数年で、一気にキャッチアップした形だ。
日本のオープンスカイでは、相手国に認める権利が、二地点間輸送の権利、すなわち「第3・第4の自由」までで、相手国を経由して第三国への輸送を行う権利(以遠権)を認める「第5の自由」等については対象外とされてきた。さらに、貨物輸送ではアメリカのフェデックスなどの運輸企業が貨物を混載してチャーター便を飛ばす「フォワーダー・チャーター」が原則禁止されてきた。これらの以遠権やフォワーダー・チャーターについても、2010年以降自由化が進み、首都圏空港以外で認められるようになっていることは評価すべきだ。
航空政策上の国益とはなにかを考えれば、国内航空企業を守ることではなく、利用者の利益を最大化し、航空サービスの需要を拡大することにほかならない。それがひいては国内航空企業の競争力強化につながるはずだ。観光立国の推進、経済の国際競争力強化を実現するためには、国際線を中心に一層の新規参入・増便を実現し、航空企業間の競争を促進することが必要だ。そのため、従来の枠を超えて徹底したオープンスカイを推進すべきだ。
4. LCCの参入促進を強化し、競争を促進せよ!
近年、ピーチ・アビエーション、ジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパンといったLCCの新規参入が相次いだ。LCCの参入によって、訪日旅行客の増大や国内観光の拡大など新たな需要が創出されるだろう。世界の航空市場では、LCCのシェアが3割弱を占めており、日本でもLCC参入による競争促進を進めるべきだ。
政府は、関空、成田、那覇空港等でLCC専用ターミナルの提供を行い、既存ターミナルより低コストで利用可能にするなどの環境整備を行っている。
日本では、1990年代後半にも、スカイマークやエアドゥなどのLCCが新規参入したが、スカイマーク以外は大手ネットワークキャリアに押しつぶされる形で撤退や破綻に追い込まれた。今行っているようなLCCへの一定の優遇措置も有効だが、大手企業との間で独占禁止法上の適正な競争環境を維持し、航空企業間の競争が適正に行われるよう厳しく監視すべきだ。
5. 横田空域の返還と横田空港の軍民共用化を実現せよ!
新潟県から東京西部、伊豆半島、長野県までの1都8県(東京都、栃木県、群馬県、埼玉県、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県)におよぶ広大な空域は、横田空域と呼ばれている。この空域は、米軍横田基地の管制下にあるため、日本の民間航空機は自由に航行できない。
このため、羽田や成田を離陸した航空機は、高度約7000mまでの広大な空域を迂回して西部方面に飛行する。羽田や成田に西から向かってくる飛行機も同様に迂回する必要がある。この空域の存在による経済的損失は、燃料費等だけでも年間数百億円にのぼり、首都圏へのアクセスを悪化させているという意味でも甚大だ。
横田空域は2008年までに数度に渡って段階的に返還されているが、いまだ広大な空域が米軍によって独占されている。ここでは安全保障上の問題には深くは踏み込まないが、日米防衛協力を深化させ、在日米軍再編をしっかりと進めて、横田空域の返還を早期に実現すべきだ。
加えて、同様の日米交渉の中で、横田空港の軍民共用化も強力に求めていくべきだ。横田基地は、都心から西へ約40kmに位置し、都心からのアクセスは抜群だ。滑走路も羽田より長い3350mを有している。さらに、首都圏の航空機能は羽田、成田、第3の茨城空港も東部であり、東部に偏っている。このため、西部の横田空港の有効性は大きい。推計では、1600億円の経済効果があるという。
横田空域の一部ないし全部の返還や横田空港の軍民共用化が実現すれば、新規のインフラ投資無くして首都圏空港のキャパシティを一気に拡大させることが可能だ。
本来は、横田基地そのものの返還が最も合理的だ。横田基地は首都圏にある基地であり、米軍にとっての東アジアにおける防衛上の重要性は他の地域に比べて低いはずだ。政府には、日米防衛協力を深化させつつ、在日米軍再編を進めて横田基地の返還を実現して欲しい。その前段階として、横田空域の返還と横田空港の軍民共用化はできる限り早期に実現して欲しい。
また、先日福岡市で開催されたG1九州・沖縄の地域会議では、福岡空港の滑走路拡張の必要性が議論されていた。首都圏に限らずアジアのゲートウェイ都市である福岡の空港の拡張整備も急務である。
このように、「空」の分野においては、LCCやオープンスカイの面ではかなり進捗がある。一方、空港の一体経営と民営化、さらには首都圏空港と空港間のアクセスの利便性の点では、まだ課題が残る。茨城空港、横田基地などの活用、さらには羽田、成田等の首都圏空港が機能強化して、インバウンド、アウトバウンドの旅客を数多く扱い、オリンピックに向けて、さらに「空」の利便性が高くなる様に「行動」することが必要だ。