初稿:2013年6月21日
第二稿:2015年6月3日
私たちがカーナビやスマホで使っているGPS。よく知られているように、この技術は、米国が宇宙空間に打ち上げた31機のGPS(Global Positioning System)衛星を利用した技術である。米国は世界中にこの技術を無償で供与しており、民間利用だけでなく、自衛隊を含めた各国軍の戦闘機や巡行ミサイル等の軍事技術もGPSを利用しているのだ。
一方で中国である。もう1つの大国である中国は、2007年1月、地上からミサイルを発射し、自国の気象衛星「風雲1号C」を破壊する実験を行い、衛星破壊能力を獲得した。明らかに米国の宇宙支配に対抗する意図である。米国に依存しない独自のGPSの開発も進めており、2012年12月には実際に中国版GPS「北斗衛星導航系統」のサービスが開始された。現時点では対象はアジア地域のみだが、2020年までに全世界をカバーする予定で、既に16基の測位衛星を軌道に乗せており、測位精度は誤差10メートル以内だという。
安全保障の舞台は宇宙空間に移っていると言えよう。
もう1つの舞台がある。サイバー空間だ。
2001年の同時多発テロの後、米国は国土安全保障省を設立し、サイバー攻撃に備える大規模な演習「サイバーストーム」を行うなどしてサイバーテロに備えている。また、軍にもサイバー軍(USCYBERCOM)を設置して、サイバー攻撃専門の軍隊を運用している。同省によると、実際、米国の企業や政府機関は中国からサイバー攻撃を受けているという。また、2012年8月に世界最大の石油会社サウジアラコムで3万台のコンピューターがサイバー攻撃を受けたことは記憶に新しい。
企業の知的財産などを盗む産業スパイだけでも被害は大きいが、現実の人的・物的被害を伴う大規模なサイバー攻撃になれば、より被害が深刻だ。攻撃対象が発電所の制御や電力網の管理、航空管制などに使われるコンピューターとなれば、まさにテロリストやテロ国家によるサイバー戦争と言えるだろう。
私たちは、時代の変化に応じて的確にリスクに対処できなければ、自分たちを守ることはできないのだ。
1. 「宇宙の平和利用」原則を、「非軍事」から「非侵略」へ緩和を!
「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」いわゆる「宇宙条約」により、宇宙の平和利用が定められている。この平和利用原則は、核兵器など大量破壊兵器を運ぶ物体を宇宙空間に配備しないこと、月その他の天体の軍事利用の禁止などが規定されている。日本を除く世界各国では、宇宙空間の軍事利用は、「非侵略」という目的であれば禁止されていないと解されている。
しかしながら、日本では、「平和の目的に限り」という語の解釈に関する政府答弁において「非侵略」ではなく「非軍事」と解され、その後、1985 年の政府統一見解で自衛隊が衛星などを利用する場合、民間で一般的に利用されている技術レベルに限定するという「一般化原則」が示された。このため、日本が現在運用している情報収集衛星もこの「一般化原則」により衛星の解析能力が民間並みに抑えられたのだ。
安全保障の舞台が宇宙に移っている現在、日本固有の宇宙の平和利用原則の解釈を維持することは非合理的である。政府は一刻も早く宇宙の平和利用原則の解釈を国際スタンダードの解釈に変更し、自衛隊による防衛目的の衛星の運用を可能にすべきである。
2. JAXA(宇宙航空研究開発機構)とTRDI(防衛省技術研究本部)の共同研究を!【一歩前進】
宇宙の平和利用原則の弊害のもう1つは、JAXAの研究開発成果を防衛目的で活用できないことである。平和利用原則により、莫大な国費を投入し続けているJAXAによる宇宙研究開発は民間利用に限られ、自衛隊に技術を供与することができていないのだ。もとより厳しい日本の財政事情がある。JAXA予算は1720億円(平成24年度)。防衛省の技術研究を担当する技術研究本部の予算は1068億円(平成24年度)だ。限られた予算の中で宇宙開発を効率的に行い、防衛目的にも利用するため、平和利用原則の国際標準化とともに、JAXAと技術研究本部の共同研究開発を開始し、両組織の統合を検討することが必要だ。
3. 宇宙軍の創設を!【一歩前進】
米国は衛星の運用や弾道ミサイル対処における早期警戒を専門に担当する宇宙軍(USSPACECOM)を1985年に設立している。2002年に同軍は戦略軍(USSTRATCOM)に統合されたが、陸海空の宇宙関連部隊である空軍宇宙軍(AFSPC)、海軍宇宙司令部(NAVSPACECOM)、陸軍宇宙司令部(USARSPACE)は戦略軍において統合的に運用されている。
中国やロシアも同様であり、その他の各国も宇宙空間の軍事利用を重視している。日本はこれまで宇宙の平和利用の「一般化原則」によって自衛隊による人工衛星の運用を禁じてきたが、北朝鮮を隣国に抱える私たちの国を防衛するためには、他国以上に宇宙に重点を置かなければならないのは明白である。
このため、高分解能力を有する偵察衛星システム、弾道ミサイル防衛における警戒衛星の自衛隊による運用を開始し、自衛隊に宇宙専門の運用を行う部署を独立して設置することが合理的だ。現在、政府が整備を進めている、米国のGPSシステムを補完する準天頂衛星システムの自衛隊による利用を進めることも当然である。
宇宙軍の創設によって宇宙空間からの情報収集能力を抜本的に強化し、米国に依存しない自前の情報力を構築することが必要である。
4.サイバー軍の創設を
サイバー攻撃による被害は、実際に世界各国で起こっている。特に日本のように国土が狭く、人口が都市に密集し、IT化が進んでいる国は、サイバー攻撃の標的となりやすいと言える。私たちは、発電所等の重要施設や、電力網、航空管制などの国家を支える基幹システムをテロリストやテロ国家によるサイバー攻撃から守らなければならない。
サイバー対処の場合、その実施主体は自衛隊に限られず、官邸が中心となって警察や海上保安庁等の関係機関との連携を向上させ、政府全体として対処することが重要なのは言うまでもない。自衛隊としても、サイバー対処専門の部隊をサイバー軍として独立させ、平素から最新の情報を収集・分析するとともに、サイバー攻撃に関する高度な知識・技能を持つ専門家を養成し、サイバー攻撃に対する事前の対応策を講じ、訓練を行っていくことが必要だろう。
先日の米中首脳会談の主要トピックの一つが、「サイバー」であった。近年、ダボス会議でもサイバー・セキュリティが主要議題に毎年挙がってくる。かつては、陸軍の強さが勝利を左右した時代があった。その後、戦争の主眼が、海軍による制海権へと移り、空軍による制空権へと広がり、核搭載ミサイルの競争へと拡張した。
これからの戦争は、サイバースペース上、更には宇宙空間へと広がっていくであろう。「その時」が来てからでは、遅いのだ。今から、サイバー軍、宇宙軍を創設し、他国からの脅威に対抗し、真の平和を実現するための、準備を行う必要がある。
以上