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マルハレストランシステムズ社長・小島由夫氏(中編)―「コカレストラン」が日本で成功した理由

投稿日:2008/04/07更新日:2019/04/09

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東京ミッドタウンに「ニルヴァーナニューヨーク」を復活させた小島氏は、タイスキ・チェーン「コカレストラン」を日本で展開した人物でもある。タイ料理を日本にそのまま持ち込んでも成功しない。海外のレストランを日本に誘致するために必要なこととは何だろうか?――会社組織の中で夢に向かって邁進するビジネスパーソンを追うインタビュー企画、嶋田淑之の「この人に逢いたい!」は、前回に引き続き、マルハレストランシステムズ社長・小島由夫氏に聞く(この記事は、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年1月25日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。

カリスマ経営者への道

ビートルズやローリング・ストーンズが常連客。若き日のマドンナがウエートレスとして働いていたという伝説の高級インド料理レストラン「ニルヴァーナニューヨーク」。この人気店を、東京で復活させた立役者が、マルハレストランシステムズ社長の小島由夫氏である。

しかし小島氏はもともと、インド料理よりもタイ料理のレストラン誘致で実績を重ねてきた人物だ。なぜニルヴァーナが東京で復活することになったのか、その経緯を追った前編に続き、中編では、小島氏が若い頃から何を思い、何を目指して、どのように今日の立場を築いてきたのか。その道のりを辿っていこう。

小島氏は、これまで実にさまざまな海外の老舗レストランとアライアンスを構築し、日本に誘致して成功を収めてきた“業界のカリスマ経営者”である。

1952年生まれの小島氏は、小学校から大学まで成蹊に通うという恵まれた環境に育った。成蹊は裕福な家庭の子女が通う東京の私立学校として知られ、安倍晋三前首相の母校としても有名だ。「でもね、大学卒業にあたって、親が『もう面倒は見ないよ』って宣言しましてね。それからは全て自分でやらなくてはいけなくなってしまいましたよ(笑)」

1975年、マルハの親会社に当たる大東通商に入社する。社会に出て1年、2年と経つうちに、大企業のエリートとして人生を歩むことに違和感を持ち始めた。「自分が心から楽しいと思えることをやりたい、そのことに人生を賭けたいって感じたんですよ。自分が心から楽しいと思える仕事とは何か? それがレストランビジネスだったんです」

この夢の実現に向けての第1歩として、小島氏は、昼間は会社に通いながら、夜はレストランのウェイターを2年半務めた。こうした地道な努力を重ねる中、小島氏に大きなチャンスがめぐってくる。

1980年代前半、日本社会が「バブル経済期」に突入する直前の頃、社内ベンチャーに社長として出向、シーフードレストラン「マンボウズ」を表参道にオープンさせることになったのである。夢をぐっと手繰り寄せた瞬間だった。

「おかげさまで、店自体は大成功だったんです。でも、なにせイニシャルコストがかかり過ぎて、どうにも回収できなかったんです。もちろん、社内からも責められましたし。やはり、やる以上は儲からないとダメだ、楽しくないって痛感しました」

この時は、入社以来目をかけてもらっていた大先輩である中部慶次郎氏(大東通商からマルハに移り社長を歴任)のサポートを受けて、何とか乗り切った。

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30歳の時、小島氏が最初に手がけたレストランが「マンボウズ」。表参道の1号店のほか、青山の2号店(写真)もオープンした。「毎日ものすごく人が入るのに、コストが高すぎたんですね。イニシャルコストを回収できず、『これはビジネスじゃない』と苦しみました」

日本が「バブルの宴」に酔いしれている間に、いつしか社会経済の環境変化が進行していた。突然バブルがはじけ、日本は底なしの平成大不況へ――この劇的な時期に、小島氏に次なるチャンスがめぐってくる。ブラジルのシュラスコ料理レストラン「バッカーナ」の渋谷オープンである。

「マンボウズではイニシャルコストのかかり過ぎに苦しみましたが、今回は、店舗や設備はUCC上島珈琲さんが担当してくださいました。またご存知のようにシュラスコは、焼いた牛肉をお客様の前で切って出す料理ですから、コックの人件費も抑えられます。正直、これは儲かりましたね。私にとっての最初の成功です」

お客様に支持された要因は?「バブル崩壊後の暗い時期に、ブラジル人の陽気さが人の心を明るくしたんだと思います。レストランなんですが、しまいには店内でダンスを踊り出すんですから、彼らは(笑)。ちょうどJリーグが盛り上がりを見せた時期と重なって、ジーコ監督などサッカー関係者が頻繁に顔を出すようになったことも、人気に拍車をかけたのだと思います」

暗い時代に明るさを求める顧客ニーズへの適合、サッカーJリーグ人気との相乗効果、低コスト構造など、環境変化を読み切った見事な戦略構築による成功だった。

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ブラジルのシュラスコ料理を出すレストラン「バッカーナ」では、牛や豚のさまざまな部位、ハンバーグやソーセージ、パインなどの串焼きを、2400円で好きなだけ食べられた

「ただ、マルハなのだから、やはりシーフード(を出すレストラン)がよいということになりましてね」

中華以外のアジア料理にしよう。シーフードレストランを紹介してもらおう――そう考えた小島氏はタイに飛んだ。そしてここから、まったく新しいステージへと移行するのである。

マルハを退職してベンチャー企業経営者に転身

「タイの『シーフードマーケット』が良かったのですが、それを日本に持ってくると人件費がかかり過ぎる。人件費がかからない方向でやろうと考えて、鍋がいいとひらめいたんです。

タイスキとは、テーブルにセットした鍋にスープを張り、そこで具を煮込み甘辛い独特のタレに付けて食べる料理だ。「スキ」といっても、すき焼きよりは寄せ鍋に近い。「タイスキは(調理に)あまり油を使わない。ちょっと甘くて酸っぱい味がおいしい。辛ささえクリアできれば、これは日本でいけると思いました。当時、ちょうど日本で健康志向が高まっていたので、その流れにもフィットすると考えました」

こうして小島社長は、老舗レストラン「コカレストラン」へのアプローチを開始した。まずはアポなしでいきなりコカレストランを訪れたところ、「ほかの会社も来ているからダメ」と門前払い。それでも毎日懲りずに飛び込み営業を1週間続けたところ、ついにコカレストランの社長に会えたという。「意地でも社長に会ってやろうと思っていました」

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日本のコカレストランで提供しているタイスキ

もともとタイにはマルハの工場があったこともあり、国内的にはマルハに対する信頼感は厚かったようだ。しかし、海外老舗レストランとのアライアンスは、そうした企業対企業のビジネスライクな折衝の中では成立しにくい、と小島氏は指摘する。

「日本の大企業の社員は、たいてい代理店などを通して現地のレストランにアプローチするんですが、私は単身乗り込んでいった。その点は評価されたと思うんですが、先方が『こっちは命をかけてこの店をやっているんだ。信じてほしいなら本気を見せろ』と言われました。『どうやったら信じてくれるか』と聞いたら、なんと私に『会社を辞めろ』って言うんですよ。会社を辞めて個人対個人で付き合うのなら、信用して日本でレストランをやらせてやる、ということなんです」

小島氏は、1987年の時点ですでに、目をかけてもらっていた中部慶次郎氏(後にマルハ社長)の誘いで、大東通商からマルハに移っていた。そしてマルハに籍を置き、社内ベンチャーの社長という立場で、レストランビジネスの指揮を執っていたのである。

結局小島氏は、今後の海外でのビジネス展開をにらみ、マルハを退社することを選択する。そして、コカレストラン誘致のために作った新会社・コカレストランジャパンのオーナーの一角を占めることになった。

コカレストランジャパンの株主構成は、以下の通りだ。

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マルハ退社、そして新会社の設立と社長就任。小島氏のビジネス人生における新たな、そして大きな一歩であった。

「コカレストラン」成功の要因は?

こうして大企業マルハ社員からベンチャー企業社長へと転身した小島氏。どうやってコカレストランを日本で成功させたのだろうか?

「タイ側との付き合い方という点で言うと、家族ぐるみの付き合いをしました。顔をあわせる機会を、意図的にたくさん作っていくんです。先方のご家族の誕生日があるといえば誕生日パーティに行くとか、日本に招待してスキーに連れていくとかですね。とにかく海外のレストランオーナーは『会社と契約しているのではなく、小島本人と付きあっているんだ』という考え方なんですよ。要は、心と心のつながりを基本にしているわけですね。ですから私の方も、それに即した付き合い方をしてきました」

海外で、ビジネスの相手とこうした付き合いができる日本のビジネスマンというのは今なお非常に少ないのが現状だが、小島氏には、なぜそれができるのだろうか。

「それは、すべてをオープンにすることです。良いことばかり言うのではなく、問題点をさらけ出し、責任の範囲も明確にすることです。そして何より大切なのは、自分自身が楽しみながらやることです。ルーティンワークとしての姿勢や、やれと命じられて取り組む気持ちでは決してうまくは行きません。こうした私自身の幸福感というのは、実は国内のビジネスにも極めて重要で、それが顧客や従業員に伝わることが、結果的にビジネスに好影響を及ぼすんです」

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海外の老舗レストランを誘致するのに必要なのは、個人と個人の信頼

ところでインタビュー前編で、小島氏が「変えてはいけないこと」(=「不変」の対象)と、「変えるべきこと」(=「革新」の対象)の“識別”を重視していることについて述べた。小島氏は「コカレストラン」を日本で展開するに当たり、何を変えるべきで、何を変えてはいけないことと識別していたのだろうか。

「雨季と乾季があるとはいえ、タイは年間を通じて高温です。そのタイのメニューや食材を、気候温暖で四季のある日本にそのまま持ってきても、うまくは行きません。ですから、一例を挙げればタイスキに入れる野菜などは、日本の四季の季節感に合わせたものに変えるようにしています。これなどは、まさに『変えるべき部分』ですね。

さらに言えば、同じ東京の『コカレストラン』でも、有楽町店と上野店では、メニュー構成、味付け、ボリュームも変えています。出店する地域の土地柄・人情に根ざした『個性』を持つことが大切なんです。そういう風に変えることによって、コカレストラン本来の魅力=変えてはいけない部分が、より的確にお客様に伝わると思います」

その土地その土地のお客様に合わせて柔軟にサービス内容を設定する……これはまさしく「ホスピタリティ・マインド(もてなしの心)」の実践といえる。「不変」と「革新」についてのこうした考え方ゆえに、コカレストランでは店舗のオペレーションに関するマニュアルは存在しないという。

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コカレストラン有楽町店の店内

マンゴツリーの成功、そして「シンガポール・シーフード・リパブリック」へ

コカレストランの成功で、「日本のタイ料理市場は、小島社長が作っている」と評されるまでになっていた。それを受け、小島氏は次の一手を打つ。タイの老舗高級レストラン「マンゴツリー」の日本での展開である。

マンゴツリーの“客単価1万円”という設定は、エスニック料理としては当時の業界の常識を破るものだった。2002年、東京駅に近い丸ビルの35階に、バンコク、ロンドンに続く世界第3号店として「マンゴツリー東京」がオープンした。マンゴツリー東京は大成功を収め、その後5年間、予約で満席状態が続いたのである。

米国のレストランガイド「2008年版ザガット 東京のレストラン」には、次のような記述が見られる。「トムヤムクンやカレーなどは、伝統を重んじた本格的な味付けが特徴で、エントランスからテーブル席に至るまで洗練された内装とインテリアで統一され、おしゃれな雰囲気の中で食事ができる。東京タワーとレインボーブリッジを臨む夜景も魅力」

このコメントから明らかなのは、のちの「ニルヴァーナ」のコンセプトとの共通点だ。本物志向であると同時に、現代の東京の顧客ニーズにフィットした「洗練」「ファッション性」「ロマンチックでノスタルジックな非日常空間への誘い」といった個性が見て取れる。マンゴツリーはその後、よりカジュアルなレストラン「マンゴツリーカフェ」、さらにはテイクアウト店の「マンゴツリーデリ」という形で、多角的に展開している。

小島氏は今、2007年の「ニルヴァーナニューヨーク」の成功を経て、マルハレストランシステムズの社運を賭けた新規ビジネスに取り組んでいる。品川の「ホテル・パシフィック東京」の一角に、2008年4月「シンガポール・シーフード・リパブリック」というレストランをオープンするのだ。一軒家レストランで、シンガポールのノスタルジックな洋館をイメージしたデザインになるという。

シンガポール・シーフード・リパブリックは、独自性・異質性・新規性にあふれた新しいレストランになりそうだ。準備にあたってはシンガポール政府のバックアップを受けており、シンガポールの老舗シーフードレストラン「ジャンボ」「パーモビーチ」「インターナショナルシーフード」と、マルハレストランシステムズによる4社間アライアンスを構築し、それぞれの「強み」を生かす形で展開する。名物「スリランカ・クラブ」などのシンガポール料理をカジュアルに楽しく食べるレストランを目指す。

「長い寿命のビジネス展開を目指し、本物志向でやってゆきます。このプロジェクトは、マルハレストランシテテムズの今後の10年にとって極めて重要なものとなります」

次回は、小島氏がなぜレストランビジネスで成功を収めたのか?その戦略経営を読み解いていく。

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