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ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家

投稿日:2008/03/27更新日:2019/04/09

2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏。貧困撲滅への強い意思、柔軟な思考と行動力、人を信じる力・・・・・・。社会企業家の代名詞ともなったユヌス氏の信念と半生は、あらゆるビジネスパーソンの心に響くはずだ。グロービス経営大学院講師の嶋田毅が創造と変革の志士たちに送る読書ガイド。

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最近、話題となることが多い社会起業家。ウィキペディアによると、「社会の課題を、事業により解決する人。社会問題を認識し、社会変革を起こすために、起業という手法を採る(抜粋の上、一部修正)」とある。その代名詞でもあるのが、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏だ。理性と情熱の両立、人(人の可能性)を信じる力、常識を疑い、他者が見えていない世界を見る先見性、問題解決の工夫と実行力――同氏の自伝から我々は何を感じ、学べるのか。それは、あらゆるビジネスパーソンの参考になるはずだ。

ご存知の通り、グロービス経営大学院は「創造と変革の志士」を生み出し、社会に良きインパクトを与えることを大きな命題としている。そして、グローバルレベルで見たとき、「創造と変革の志士」の1つのロールモデルとなるのがユヌス氏だろう。社会起業家としてだけではなく、あらゆるリーダーに必要な素質や行動をすべて具備・実践しているからだ。

社会起業家の代名詞ともなっているユヌス氏は、米国で経済学を学び博士号を取得し、故国バングラデシュに戻り、チッタゴン大学の経済学部長となる。しかし、その気になれば、学者として学究の道を究めることもできたにもかかわらず、バングラデシュの貧困や、特に農村部の女性が直面していた諸問題(社会的地位の低さ、機会の貧弱さ、夫からの暴力の脅威、など)に心を痛め、学者として提案した「マイクロクレジット」を実践すべく、グラミン銀行プロジェクトを興す。わずか27ドルの資金が得られないがゆえに、42世帯もの人々が極貧にあえぐ現実に触れたことが直接のきっかけであった。

「マイクロクレジット」とは、極めて貧しい人間(多くは文字すら読めない)に無担保でお金を貸し出すという金融活動である。それにより、たとえば、籐製品製作のための器具を仕入れ、製品を作り、販売し、文明的な生活に近づける。しかし、それまでバングラデシュでは、「貧しい人間には良識がない」「貧しい人々は生活を変えようとする意志がない」「貧しい人々には才覚がない」「貧しい人々に融資しても戻ってくるわけがない」などという「常識」があった。どれだけ隠れた才覚があっても、あるいは、どれだけ真面目な人間であっても、「貧しい」というだけであらゆる可能性から排除され、資金の供与を受ける機会はほぼなかったのである(機会はあるにはあったが、それは月利10%にも上る暴利であった)。

本書を読んで最も印象を受けたのは、ユヌス氏の実行力もさることながら、そのベースとなる信念の強さ、それまでの常識を徹底的に疑う姿勢とその裏側にある合理的思考である。たとえばユヌスは、貧しい人々への資金援助のあり方をめぐって、世界銀行と対立する。世界銀行から、好条件の融資をオファーされながら、ユヌスは、自分の信念に合致しないからと断る。あるいは、「貧しい人々は信頼できない」「貧しい人々はやる気に欠ける」という当時の常識を疑い、こう考える。「人間には可能性がある。機会と資金、適切な支援を与えられれば、彼らは強くモチベートされる。現在は、搾取によってその状況が提供されていないだけだ」。「人々は自信を失っている。しかし、成功することは自信につながり、その自信が新しい成功を促す」。

ユヌス氏の試みは、端的に言えば、こうした信念に基づき、彼らに機会と自信、そして規律を提供することだったとも言えよう。機会と自信は言わずもがなと思われるので、ここでは、「規律」についてもう少し述べたい。グラミン銀行は、ときどき勘違いされるような、低利で貸し出すような「慈善事業的」銀行ではない。初期の金利は20%であり、日本なら「グレーゾーン」に入るような金利だ。金利自体を禁止しているイスラム圏やかつての共産主義から見れば、一見したところはまさに「搾取」である。

しかし、金利は別の観点から見れば、ビジネスのスピード化や効率化を促し、無駄・暴走を排除する「規律」の源泉でもある。資本主義が栄え、イスラム圏や共産主義国家の経済が停滞した理由の一つが金利のある無しだ。「ほどこしは規律につながらない。適切なプレッシャーがモチベーションと規律につながる」というユヌス氏の信念は強い。ただし、リスク、信用に見合わない金利は繁栄ではなく崩壊をもたらす。その微妙なレベルの設定は容易ではない。

また、「個々は少ない金額でもいいから、より多くの人に融資を」という信念は、コストという強敵に打ち勝たなくては実現できない。こうした難所を乗り越え、ビジネスとして、Win-Winを実現する構想と工夫ができる人間はユヌス氏以外には存在しなかったのである。ユヌス氏がこれをどのように実現したかはぜひ本書を読んでいただきたいたい。以前読んだときにも強くインスパイアされる書籍であったが、改めて読み直し、その思いをさらに強くした。

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