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第6回 政策の作り方(2)―事実に基づき現実的な提案をする

投稿日:2007/11/10更新日:2019/04/09

フジテレビ報道記者を経て、弱冠31歳で逗子市長の役に就き、数々の実績を上げてきた長島一由氏が、官民比較の視点で、行政・政治の実態を赤裸々に語る「フジテレビ vs 逗子市役所」。前回に引き続き、選挙に打ち勝つ具体的な政策の作り方・考え方を検討する。

問題提起は情報収集から

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"あなたが新人で選挙に出馬しようと考えた場合。

政党に所属して国政選挙に臨む候補者ならば、少なくともマニフェストに関しては政党の本部がリードして政策をパッケージとして作ってくれるだろう。しかし、首長選挙や地方議会議員選挙では、各候補者が自ら政策を作って有権者に訴える必要がある。

政策を作る際には、以下の流れで物事を考え、明示するといい。(1)問題点は何か(仮説を立て、数字やデータで立証していく)、(2)問題点を解決する具体的な対案や解決策は何か(処方せんを書く)、(3)いつまでにどれくらいの成果を達成しようとするのか。

問題点として例えば、「公共事業費が談合などにより割高になっていて税金の無駄づかいが行なわれているのではないか」、「夕張市のように財政破綻をしたりはしないか」といったことを考えたとする。このような話は全国いたるところで指摘されているが、その話が自分が出馬を考えている自治体にも当てはまるかは、当て推量にとどめずに具体的に検証する必要がある。

「談合による税金の無駄づかい」を懸念するのであれば、例えばまず、過去5年間程度の公共事業費の入札の落札比率を調べてみる。この数字は役所に電話して、公共事業の入札を所管する担当に聞けば、普通は教えてくれる。万が一教えてくれなければ、情報公開課などに出向き、情報公開請求をすればよい。手続きは、いたって簡単なものだし、最近は、インターネット上で情報公開請求できる自治体も増えている。自治体に対して情報公開請求するのは、記者や一部の住民ぐらいのもので、あまり多くはない。是非、活用すべきだし、活用するだけで、あなたも“プロ”の仲間入りだ。

さて、実際に調べてみて、(入札の予定価格を100%とし、実際の入札価格がどうであったかを図る)平均落札比率が95%以上だったら、談合が繰り返されている可能性は極めて高い。90%以上でも、まだまだ競争原理が働いているとは言い難い。逆に80%から85%であれば、正常な競争が行われているとみていいだろう。

入札に競争原理が働いていないという確証を得たら、次は自分が議員になったら・・・という解決策を検討する。例えば透明性、公平性を確保するために入札の予定価格を事前に公表する。一般競争入札にする。事業者が一同に会さないようにインターネット入札に切り替える。市内事業者枠など特定事業者だけが取り合う工事の対象を縮小する。といった具合だ。

解決策に対する反論にも備えよう。例えば、ただインターネット入札を導入するだけではなく、どこの事業者でも入札に参加できる仕組みを表裏一体で採用しない限り、本当の競争原理は働かない。ちなみに実情を言えば、ここまで徹底している自治体はまだ非常に少ない。

いつまでにどれくらいの成果を達成しようとするのか、という数値目標や期限については、現職の首長が多少、有利ではある。過去5年間の平均落札比率がどれくらいで、それを5%下げたら、どれだけの税金が節約できるかといった見通しを立てることが比較的、容易だからだ。ただ、新人候補者でも情報公開請求の仕組みを活用すれば、現状把握は可能なので臆さないでほしい。"

政策提案は財源も明示して行う

" もう一つ挙げた「財政破綻の懸念」についても同じように仮説検証できる。

自治体の借金の多寡を測るには、例えば「公債費負担比率」を確認してみる。これは、本来であれば自治体が自由に使えるはずの一般財源が、現実にはどの程度、借金の返済に充当されているかを測るバロメーターだ。一般には15%を超すと健全財政のイエローカード、20%を超えるとレッドカードと言われる。ちなみに財政破綻した夕張市の公債費負担比率は28.6%だった。これも、役所の財政担当者に電話すれば、すぐに教えてくれるはずだ。

財政をマネジメントすることは、家計のやりくりと原理・原則は同じだ。「入るを計って出を制す」というが、税収は経済変動に左右されるため、まずは何といっても支出を抑えること。

特に、どこの行政でも支出の2割から3割という大きな比率を占めるのは「人件費」だ。逗子市では、同じ人口規模の自治体の中で「人件費比率」が、全国ワースト2という状況だったため、職員を半減する構想を打ち出した。20年間で正規職員を2分の1、非常勤職員を4倍にして、これに対処するという方策だ。

職員の減らし方については、毎年生じる一定の退職者数に対して、隔年で若干の職員を補充するという方法をとった。これはどこの自治体でも可能な方法で、埼玉県の志木市では正規職員を10分の1にするプランを打ち出してさえいる。

「公共事業費」の節約と、「起債」、「人件費」の削減は、普遍的な問題である。

ただ、支出の削減が求められる半面、新しい候補者は、福祉、教育、環境などのテーマで従来にはない政策を打ち出し、独自性をアピールしようとする。しかし、これらのほとんどはお金がかかる事業だ。従って、財源をどうやって捻出するか、数字やデータを交えながらプレゼンテーションをするほうが、説得力は高まる。

福祉、教育、環境に関する新しい政策を実現させようとしたときに、どれくらいの金額がかかるかを積算することは、ケースバイケースだが、一般的に大変な時間や労力を要する。他方、職員数の削減は現在の人件費を基に検討すればいいので算出はたやすい。前述の公共事業の入札改革にしても、何%落札比率を下げると年間の公共事業費を節約できるかは、容易に概算できる。敢えて新しい政策を打ち出さなくても、こうしたことをしっかりやるだけで、少なくとも地方における政治家の初級・中級編のレベルはクリアできるはずだ。

現職の首長が選挙に強いのは「知名度」はもちろん、政策を作成する際に必要な情報が簡単に手に入る、経験を基に全体像を俯瞰して現実的な問題を捉えられる、などのアドバンテージがあるからと言われる。しかし、繰り返しとなるが、新人の首長候補も、議員候補も、情報公開請求を駆使すれば、現職と遜色ない情報は入手できる。そして、着眼点と発想によっては、現職を上回る政策パッケージを作成することは決して不可能ではない。

現職の候補者でも、具体的な政策を持ち合わせていない場合は多いし、有権者への政策の訴え方も上手くない人も多い。利益誘導型政治が跋扈(ばっこ)していた時代は、政治家には政策よりも、調整能力が求められた。「どれだけ言うことを聞いてくれそうか」、「見返りを求められるか」などという視点で評価されていたのだと思う。こういう時代は、政治家は政策を軽視しても、ラクに当選できたかもしれない。しかし、現在のように全部浮動票で選挙に勝てる時代では、「あなたは何をしてくれる人ですか?」という不特定多数の有権者の評価に答え、実行する政治家が求められている。

次回は、政策を有権者に、どのような方法でいかにわかりやすく伝えるのか、「政策の伝え方、考え方」について説明しよう。

*10月21日に長島一由氏の著書が2冊同時に発売されました。講談社の+α新書の『浮動票の時代』と、WAVE出版の『フィルムコミッションガイド』です。『浮動票の時代』では、本連載でも触れられている、全部浮動票で選挙に勝つことができる現象から時代や政治のダイナミズムを解き明かすとともに、全部浮動票で選挙に勝ち上がった場合の、役所のマネジメントについても記述されています。また、『フィルムコミッションガイド』には逗子市長在任中に重点的に取り組まれた、フィルムコミッションなど映画・映像によるまちづくりについて書かれています。首長の仕事、選挙、政治・行政、まちづくり、市民参加などにご関心の方は是非、手にとってみてください。"

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