埋没原価(SunkCost)
どの選択肢を採用してもそれとは無関連に発生する原価(すでに支払ってしまったお金)のこと。過去の投資などがそれに当たる。
本来であれば、埋没コストが将来の意思決定に影響を与える余地はないはずである。しかし、単純にそう割り切れないところに現実の意思決定の難しさがある。
埋没原価をさらに一般化した心理バイアスに、不合理な固執がある。これは、自分が当初とった行動、あるいは過去の行動に引きずられて合理的判断ができなくなるというものだ。過去の意思決定や投資をなんとか正当化しようとして、本来選ぶべきではない選択肢を選ぶ、などが典型である。
埋没原価へのこだわりは、個人の立場の場合よりも、組織の一員として意思決定する際に、より一層起こりやすくなる。これは、「たとえ将来破局が訪れることが確実でも、いま責任を問われ、つらい思いをするよりはまし。もしかしたら問題を先送りしているうちに事態が好転するかもしれない」という心理によるところが大きいと思われる。
また、そうした意思決定を行う一因として、「一貫性の心理」もある。これは、いったんある立場をとると、「一貫性のない人間とは見られたくはない」という心理が働き、その立場を維持しようと頑なになる心理を指す。さらに、ある立場をとり続けているうちに、自分に都合のいい情報だけが見えるようになり、都合の悪い情報は排除してしまう、という心理メカニズム(確証バイアス)も働く。
埋没原価へのこだわりは、このように複雑な要因が絡み合って起こっているため、根が深い問題と言えよう。
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