前回は、第一線で活躍する教員達が、ビジネスパーソンに今後必要とされる力や、MBAの知識がなぜ必要なのかについて熱く語りました。今回は、MBAをグロービスで学ぶ意義について語ります。(全2回)
グロービスで何を学び、何を実現するのか[2]
荒木: グロービス経営大学院に関して言うと、どんな点がユニークだと思いますか?
伊藤: グロービスでは、「あなたは何者ですか?」とか、「あなたは何をなすのか?」といったように、「価値観」や「志」を、ものすごく時間やエネルギーをかけて追求するんですよね。自分が何者か知り、志が明確になれば、気合や情熱が無限大になる。僕はそうしたものがあまり明確ではなかったのですが、グロービスに在学中、様々なところで問われているうちに、1の志が100ぐらいになった印象があります。
あと、グロービスはとにかく熱いんですよ。皆さんとても情熱的です。講師は、大抵、クラス後の飲み会に出ますしね。あと、ビジネスサークルもたくさんあって、志が醸成される環境とネットワークが半端ない。
僕が担当している「リーダーシップ開発と倫理・価値観」というクラスは、リーダーになるために何が必要か、自分は何者で何がしたいんだっていうことを深く考えるクラスです。価値観や倫理観を問われる様々なケースを使いながら、自分が主人公だとしたらどうするか、グループの中で自分の思いをたくさん語り、受講生同士で対話する。僕は皆さんの対話を見守り、極端にいえば、時間を計るだけです。その中で、自分の思いが言語化できず言葉に詰まる人もいれば、他者の考え方との違いから、自分が何者か見えてくる人もいます。これは他のビジネススクールにはなかなかない科目ですよね。志系の科目はそんなわけで、みんなが語る、語りまくる時間ですね。
もう1つの「パワーと影響力」は、どうやって人を動かしていくのか、そのメカニズムを考えていくクラスです。志があっても人は動かない。人は合理と感情、そして生物的本能に従って動く。ではどうしたら人に動いてもらうことができるか、皆さんの仕事での経験を共有しながら、徹底的に議論します。
内山: グロービスを語る前に、1個認識しないといけないのが、僕らの社会人人生ってめちゃくちゃ短いってことです。何かの事業を真剣にやろうと思ったら、10年、20年かかるわけですよ。つまり、1個ぐらいしかできない。その貴重な1つを何にするか既に決まっているんだったら、別にMBAなんて来なくていいんです。今すぐ事業を始めた方がいい。
でも、実際は「何となくこっち」というザクっとした方向性が見えているだけの人が多いと思います。それが、2年、3年とグロービスに通っていくと決まっていくんですよね、だんだん。言語化されていくし、鍛えられていく。そして、僕これに決めましたって卒業していくんですよね、皆さん。MBAを学ぶ間に自分が何をしたいのかを決める、これって他のビジネススクールで見たことがない、グロービスの価値ではないかなと思います。
荒木: グロービスは今「テクノベート」というキーワードをベースに、既存のMBAとは違った新しい方針を打ち出しています。その中で、内山さんには「テクノベート・シンキング」の科目開発をやっていただいていますが、どんな科目かを簡単に教えて下さい。
内山: 「クリティカル・シンキング」のクラスでMECE(ミーシー)って習ったと思いますが、1つの課題に対して論点を漏れなく挙げるとすると何個くらい思いつきますか。せいぜい、4個とか5個とか、頑張って、そんな感じだと思うんですよ、でも、コンピューターに回したら1秒でたぶん10億個ぐらい思いつくんですよね。つまり、問題解決の大部分はコンピューターができちゃう時代に、僕たち人間は何をするのか、人間とコンピューターが共存してより高度な問題解決をするにはどうしたらよいかを考えるのが、「テクノベート・シンキング」です。
失敗を恐れず突っ込み、そして必ず振り返る
荒木: ここからは、会場の皆さんの質問にお答えしていきます。
参加者: 従来のMBAは通用しなくなるとおっしゃいましたが、具体的にどう変わるか教えてください。
内山: まず、テクノベートのMBAと従来のMBAは何が違うかと言うと、コンピューターがあることを前提としているかどうかという点が違います。『機械との闘争』という有名な本によると、将棋やチェスは人間よりコンピューターの方が強いそうです。でも、一番強いのは誰ですかというと、「人間withコンピューター」なんです。じゃあ、人間は何をするのかというと、コンピューターをチューニングする。これが一番強い。つまり、テクノベートMBAとは、「人間withコンピューター」の時代のMBAだということです。これが概念的な違いです。なので、自社の事業が今後も変わらず、従来のやり方で問題がないのであれば、これまでのMBAの知識で十分だと思います。むしろそれがベースですね。テクノベートMBAは、従来的なMBAの2段階上の視点にいると考えていただくとよいと思います。
参加者: ロジカルシンキングを使って得た答えを、他の人にわかるように説明するにはどうすればよいですか。
伊藤: 1点目は、ものすごく簡単な中学生でもわかる言葉を使うこと。ニュース番組って、大人が見る番組でも、中学生にわかる言葉を使っているんですと。みんな難しい言葉を使うと迷子になっちゃうんです。
2点目は、ロジカルシンキングの基本は「主張と根拠」なんですよね。理由があって結論があることの積み重ねなので、なんとなく考えるのではなくて「主張と根拠」を考える。
3点目は「・・・だから・・・である」という主張と根拠をつなぐロジックを実際に口に出して考えてみることです。声に出してみて、意味が通じていればロジカル、ということです。例えば、ある会社に入りたい根拠を考えたときに、「経営がいいからこの会社に入りたい」という主張と根拠があるとします。「経営がいい」と「この会社に入りたい」は何で意味がつながるんだっけ、とあらためて考えてみると、これだけでは、なんで入りたいかわからない。この会社の経営がいいと、自分にとってどんな意味があるのか。「経営がいいから、自分の給料が安定する、だからこの会社に入りたい」と言えば意味は通じる。これが大事なのです。説得力を増すには、誰が聞いてもわかるように考えることが大事なんです。この「・・・だから・・・である」というのは魔法の言葉なので、意識されると非常に説得力が増すと思います。
荒木: 結構、自分の業界に長らくいる人って、論理の飛躍に気づかないことって多いんですよね。社内では通るけど異業種の人とか、全然違う立場の人と話すと、素朴な疑問にも答えられないというか。そういう状況に慣れるって非常に大事で、短時間で意思決定してロジックをつなげて伝えるスキルっていうのは、本当に反復練習でしか身に付かない。
参加者: 20代の営業職なのですが、20代のうちにやっておくべきことがあれば教えて下さい。
伊藤: まず、仕事そのものに関していうと、大丈夫かな、失敗するかなと思っても突っ込む。失敗したとしても、果敢に突っ込んだ人って、周りが見ているんですよね。なので、いつか必ず助けてくれる。だから、とにかく突っ込んでみるというのが1点目。
あと、20代に限らずですが、好奇心を持つこと。もし自分にないとしたら意図的に持つ。どうやって持つかと言えば、1日1回自分の興味のないものを勉強してみる。例えば、 シン・ゴジラとか全然興味なくても行ってみる。ポケモンGO興味なくてもやってみる。やっていくうちに、だんだんそういうものに対して自然と反応するようになっていくのですね。好奇心があるかどうかというのは、ビジネスパーソンとして成功するために非常に重要なポイントだと思います。
荒木: 突っ込む経験と同じくらい大事なのが、振り返ることだと思います。これによって経験の価値が何倍にも膨らむんですよね。結構、突っ込んで、うわーとやって、そのまま振り返らずに流れて、なんかいい経験しましたってことで終わっちゃう人が多いんですが、グロービスでのクラスも同じで、一つ一つの行為を振り返る。この癖は20代のうちに付けておいた方がいいと思います。
参加者: グローバルな環境では話が通じるけれど、いざ自社に持ち帰るとなかなか噛み合わないことが多々あるのですが、どう対策していけばよいですか。
廣瀬: 現場の人は起きている事象に対して対処法的な視点で考えることがある一方で、経営としては、根本治療を抜本的にやらないといけないことがある。あるいは、短期視点で考える人もいれば、長期視点で解決しようとする人もいる。要は、自分が考えている優先順位の軸と、他の人の優先順位の軸がロジカルに違っている。そういう場合は、とにかくフラットな目線で見る。それぞれが合理的な方法を持っているわけで、そのことを自分がしっかり理解しないと同じ方向で会話ができないと思います。
荒木: オンライン上で参加の方からも質問が届いています。振り返りの重要性はわかったけれど、どうしたら本当の振り返りができるのか、もう1つは好奇心がありすぎてどれも中途半端になってしまうのはどうしたらいいか。
伊藤: まず、振り返りなのですけど、翌日になると人間って75%ぐらい忘れちゃうんですよね。だから、何かをやった際には、当日に振り返る。そして、自分にとっての意味ってなんなんだろうって考える。さらに、じゃあそれで自分は何をやったら、何を変えたらいいんだろうと考え言語化してみる。まず、何があったんだろうってファクトがあって、それが自分にとってどういう意味があるのだろう、ということを考えて、それで自分はどうするんだろうと言語化をする。ボーっと考えるのではなくて言葉にすることが大事です。
もう1つは、具体的な項目を毎日振り返るのではなく、1週間単位で何があったのだろうと思い出しながら振り返るのもいいと思います。1週間何があって、自分にどういう意味があって、それで自分はどうすればよいのだろう。ちょっと窮屈だけど、あえて型にはめて言語化する。ぼくは以前は、毎週水曜日の午前中に雲隠れをしてそういう振り返りをしていました。
それから、本能と直感の趣くままに、自分がやりたいことをやっていくと、本当に好きなことって付いてきます。好奇心が中途半端だったら、いろんなものを見ていけばいいのですよ。自分を信じてあらゆるものを見まくる。それがいつか1つの方向性になっていきます。
参加者: 皆さんはどういった志を持っているのか教えてください。
廣瀬: よき経営とは、会社、社員、社会、家族を幸せにして、それを広めていくこと。そのためにできることをやっていくと。いろんな経験をしてきたので、今度はこれをより多くの人たちに共有し、一人一人に寄り添いながら、皆さんがよりよい経営ができるようにお手伝いをしていくことが私の志です。
内山: 僕たちが今生きている時代って超ラッキーなんですよね。これだけ世の中が動こうとしているときに社会人の第一線でいられる。その幸せをどう感じるのかだと思うのですよね。僕は、誰もやっていない新しい体験、モバイルとか、データ分析とかが専門なので、形態とか人の行動とか、まだ取れていないデーターをとることで、世の中の「うねり」をつかまえて、社会全体の需要を喚起したり効率化を促したい。これが僕の志です。
最後にお伝えしたいのは、超ラッキーな時代に生きていることを、もうちょっと真剣にとらえてもいいんじゃないかということ。グロービスという場は、皆さんがそのスタートを切るきっかけになるんじゃないかなと思います。
伊藤: 僕と接する人が翼を授けられるようにする、レッドブルのキャッチコピーみたいですけど、これを自分のミッションとしています。前半にお伝えしたように、2020年、オリンピック以降の日本はきっとやばいですよね。特に子どもが元気なくなり、日本は素敵な国だ、と思えない状態になるのは見ていられません。だから、自分が翼を授けることで、日本に生活していて楽しいよねって皆が思える世の中を実現したいんです。僕がエネルギーを出すってこともあるし、僕がエネルギーを授けて皆さんが動いてくれることによって、結果的に日本が元気になったら嬉しいなと思っています。
皆さんへのメッセージは、もうやってみなはれと。迷ったらワイルドな方を選べ。迷ったら難しい方を選べ。その結果、皆さんとグロービスでお会いできたら嬉しいですし、グロービスに来なくても、結果的に同じ志を持つ仲間として、どこかで出会えて一緒に何かをできたらなと思っています。
荒木: 皆さん、ありがとうございました。