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Gゼロ世界の中での日本の国際貢献

投稿日:2015/03/07更新日:2019/04/09

初稿執筆日:2015年3月6日
第二稿執筆日:2016年9月23日

1990年代まで、世界のGDPの8割は日米欧などの先進国が占めていた。当時の世界秩序は、アメリカを中心とするG7で決めることができた。しかし、いまや中国、BRICSなどの新興国のGDPは世界の約4割を占めるまでに成長し、この世界の比重は様変わりしている(双方とも出典:IMF「World Economic Outlook」)。

ご承知の通り、G7はアメリカ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダという民主主義と自由主義経済の価値観を共有する主要7カ国が、経済問題や紛争など国際的な課題に関する政策協調のために開催するサミットだ。1970年代に誕生し、冷戦終結後にはロシアを加えてG8となり、昨年のウクライナへの軍事介入でロシアが参加停止となってG7に戻ったが、今世紀初頭まではアメリカを中心とした経済力と軍事力を背景に、国際秩序の安定に力を発揮した。新興国の台頭とともにG7だけでは世界秩序を担えなくなり、2008年のリーマンショックによる金融危機を転機に、成長する新興国を加えたG20が始まったが、G20は政治的、経済的価値観も共有されておらず、世界秩序の運営役は担えていない。

第二次世界大戦後、一貫して世界の運営の中心にいたアメリカのリーダーシップが限界に達した今の世界は、新たな秩序の構築に向けた過渡期だろう。米中によるG2論も一時期もてはやされたが、どうもそうなりそうもない。世界はますます多極化し、各国でナショナリズムが台頭している。しかし、環境問題や地域紛争などの課題を考えると世界規模での連携が不可欠である。だからこそGゼロ世界において日本がリーダーシップを取り得る余地があると言える。

「日本が世界に貢献するためにはいったい何が必要か?」。その貢献方法を提案するのが今回の「行動」だ。

1. <世界秩序への貢献>自由・民主主義・法の支配・基本的人権といった普遍的価値を世界に広げる役割を日本が担え!

アメリカの政治学者イアン・ブレマー氏がGゼロ世界の警鐘を鳴らしたのは2011年だ。今、ロシアが武力を背景にウクライナのクリミア半島を自国に編入し、中国がベトナムやフィリピンと領有権を争う南シナ海で強引な態度を取り、イスラム世界でも無秩序な体制が放置されるといった現状がある。まさに大国アメリカも欧州先進諸国も世界秩序をコントロールできないGゼロ世界が、現実のものとして私たちの前に突きつけられているのは確かと言えるだろう。

Gゼロ世界は、さまざまな問題を起こしている。イスラム世界における現在のISの台頭がその一例だ。欧米諸国は、政治がどう意思決定をしても悪い(Uglyな)結果となるがために「どこの国もできたら関与したくない。できれば見て見ぬふりをしていたい」という構造に陥っている。つまり、自国の国民は、「問題が飛び火するから、できたら関わらないで欲しい」と思っているがために、「テロと戦う」と言っても世論は賛成をしない。 

しかし、それでは問題解決にはならず、状況は悪化する。 ISを撲滅させなければ人質問題やテロなどにより秩序の破綻は進行する。つまり、ISと戦って最終的には撲滅させなければならない。そのためには、アメリカを中心とした先進諸国とアラブ諸国が連携しなければならない。だが、その選択もUglyだから、各国とも気乗りしない。だからこそ、ISは、好き勝手に暴れられるのだ。アメリカはやっと重い腰を上げて地上戦への関与を表明したが、国内世論は分かれており、簡単にはいかないだろう。

アメリカが国際社会への関与の度合いを低下させるのと対照的に、中国やロシアなどの普遍的価値を完全には共有しない国々が台頭し、世界政治に影響力を行使している。さらに北朝鮮という、国際法の普遍的価値をまったく無視するかのような、やっかいな隣国を抱えている。

「Gゼロ」がなぜ混沌とするのか、その原因は、米国が指導力を失い、新興国が必ずしも自由、民主化、法の支配の確立を経ずに台頭し、普遍的価値を共有せずに世界政治に影響力を行使しているからだ。

混乱が拡大するGゼロ世界において、日本は、「自由、民主主義、法の支配、基本的人権」といった普遍的価値を構築する役割を積極的に担うべきであろう。具体的には普遍的価値を共有する国と連携し、価値転換を促すソフトなアプローチをすることが重要だ。

また、日本が世界で積極的な役割を担えるよう、国内の世論を導いていくことも必要だろう。世論はどうしてもリスクを回避する方向に向かう。オバマ大統領はイラク撤退を訴えて当選したが、その撤退がISを生んだのだ。世論が問題から逃げると、新たな脅威に対応できない。 

世論を動かすのは、政治やマスメディアに限らない。意識を持ったリーダー達がそれぞれの立場で訴え、世論を形成していくことが重要だ。ぜひ日本では、普遍的価値を広める外交を皆で一体となって志したい。

2. <紛争解決における貢献>自衛隊の海外派遣を通して積極的に世界に貢献せよ!

日本は 2016年1月から国連安全保障理事会の非常任理事国に復帰した。これで安保理入りは11回目(一度の任期2年)。非常任理事国で最多だ。Gゼロ世界において国連、特に安保理の役割は重要性を増す。日本はこれまで、これだけの実績を重ねてきたのだから、念願の常任理事国入りを是非とも実現すべきだと思う。

これまで日本は、他国とも協力して、常任理事国を11カ国、非常任理事国を14カ国に増やすなどの安保理改革案を提案してきた。安保理改革は国連改革の柱であり、Gゼロ世界での国連機能の強化のためにも必要だ。来年は国連創設70周年であり、国連改革のチャンスだ。安保理改革を実現すると同時に、日本が常任理事国に入るよう外交力を発揮してもらいたい(国連改革に関しては、100の行動19外務5<レジティメート・パワー(国際機関を通しての発言力アップを!>を参照)。 

しかし、過去安保理入り最多の非常任理事国であり、安保理入りを目指す日本の自衛隊が、国際平和協力活動等において後方支援すら満足にできないままで本当に良いのか。いや、良いはずなかろう。今後、テロの脅威が増大する中、国連安保理で役割を果たすため、もっと積極的に世界の平和構築に貢献する、新たな日本外交が必要になってくる。少なくとも後方支援を常時実施できる体制は早急につくるべきであろう。

2015年通常国会で、政府は、自衛隊の海外活動に関する恒久法で、国連安全保障理事会の決議なしで武力行使する他国軍の後方支援を認める方針を固めた。これは評価すべきだ。これまで、自衛隊が多国籍軍などを支援する際は、その都度、国会で特別措置法を制定してきた。だが、恒久法ができればスピーディーに自衛隊を派遣でき、派遣期間の限定もなくなる。

1990年代、初めて自衛隊をPKO(国連平和維持活動)として海外に派遣した際、「自衛隊が海外に行けば軍事大国化が懸念される」と世論は騒いだが、そんなことはまったく起こらなかった。軍事費もGDP比1%以内のままだ。むしろいまや世界に出て行かないと自国の平和すら守れないのだ。自衛隊の海外派遣が軍事大国化につながるといった誇大妄想から脱却して、積極的に世界に貢献する国を作ることが必要だ。 

3. <情報面での貢献>テロとの戦いに備える「情報」と「力」を持ち、世界に貢献を!

今年は戦後70年の節目の年だ。経済や人の交流のグローバル化が進み、70年前に終結した「世界大戦」というような「国家対国家」の脅威というものは一部例外を除いて薄れてきている。いまや我々が直面する脅威は変化し、ISのようなテロなどの脅威が増大している。

これまで、日本はこうした脅威に対して無防備であり続けてきた。ISによる事件に対しても、日本国政府の現状は、情報収集も日本人救出も他国に全面的に頼らざるを得ず、ほとんど無力だったと言わざるを得ない。

今後、日本と日本の国民を守るためには何をすべきだろうか。これまでと同じように情報収集も日本人救出も外国政府頼みで良いはずはない。

ではどうするか。第1に、世界各地の情報を自力で収集し、分析する能力を持つことだ。他国との情報協力においても、他国へ提供できる情報がなければ、他国から有益な情報を与えられるはずはない。

安倍政権は国家安全保障会議(NSC)を設置し、そこに各省から情報が集まり、その情報に基づいてNSCが安全保障政策を決定する仕組みを作ったが、肝心の情報を収集する組織が日本には存在していない。内閣情報調査室や公安調査庁等の情報部門は一応あるが、そのスタッフは各省からの出向者の寄せ集めであり、規模も不足している。それでは十分な機能は望めないだろう。

古来より、情報こそ国家の命運を握ると言われてきた。実働部隊としての情報機関の創設が必要だ。(100の行動26防衛4<安全保障政策の司令塔を!>参照)。

第2に、海外で邦人が拘束などの危機に巻き込まれた際に、独自の部隊で救出することが可能な法整備と、自衛隊における邦人救出のための特殊部隊の創設が必要だ。他国政府頼みでは、いまや日本国民を守れないことは明白だろう。中東に限らず、例えば北朝鮮の拉致被害者を含む有事の際には、邦人救出の必要性も出てくるはずだ。当然、国内でもテロの脅威はゼロではない。自衛隊の特殊部隊を送り出すことができる法整備と精鋭部隊の新設・養成を急ぐべきだ。

4. <知的貢献>海外シンクタンクとのネットワークの強化を!

米ペンシルバニア大学による2014年の「世界有力シンクタンク評価報告書」が1月に発表された。それによると、世界の5大シンクタンクは、(1)ブルッキングス研究所(ワシントン)、(2)王立国際問題研究所(チャタムハウス、ロンドン)、(3)カーネギー国際平和基金(ワシントン)、(4)戦略国際問題研究所(CSIS、ワシントン)、(5)ブリューゲル(Bruegel、ベルギー・ブリュッセル)など、当然ながら欧米のシンクタンクがトップに名を連ねている。

これらの欧米のシンクタンクは、国内政治、世論形成に大きな影響力を持つと同時に、国際会議などを開催し国際世論形成にも影響力を持つ。

ブルッキングス研究所は、全米1830のシンクタンクのトップに君臨する機関で民主党系。外交政策に強いCSISは共和党系だ。一方、全米で最も期待されるシンクタンクとされるウィルソンセンターは超党派だ。これらアメリカの政策系シンクタンクは、政権交代時の人材プールとしての役割も有しており、アメリカの政策形成に強い影響力を及ぼすのも当然と言えよう。筆者も2015年からウィルソンセンターのグローバル・アドバイザリー・カウンシルに選出された。微力ながら、世界に対して積極的に知的貢献をしていきたい。

また、欧州のシンクタンクでは、IISSがシンガポールで「アジア安全保障会議」(シャングリラ会議)を毎年開催し、アジア太平洋地域から欧州に至る各国の国防大臣や政府高官、有識者等による国際合意形成に成功している。世界経済フォーラムが開催するダボス会議の国際政治経済への影響力も極めて大きい。

すなわち、Gゼロの世界では、こういったシンクタンクという場・チャネルを通じて、国益実現や国際合意形成、有利な世論や世界標準の形成の主導権争いといった国際的な競争が行われるのだ。

このため、各国の有力なシンクタンクとの連携を強化し、知的ネットワークを張り廻らせて日本の存在感を高め、国際社会をリードすることが重要だ。

(参考)
同ランキングにおいて、日本国際問題研究所(JIIA)が13位(アジアで最高位)、アジア開発銀行研究所(ADBI)が28位で、ベスト100にランクされた日本のシンクタンクは2つ。

トップ10
Brookings Institution (United States)
Chatham House (United Kingdom)
Carnegie Endowment for International Peace (United States)
Center for Strategic and International Studies (CSIS) (United States)
Bruegel (Belgium)
Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI) (Sweden)
Rand Corporation (United States)
Council on Foreign Relations (CFR) (United States)
International Institute for Strategic Studies (IISS) (United Kingdom)
ウィルソンセンターWoodrow Wilson International Center for Scholars (United States)

5. <マルチステークホルダーでの貢献>G1サミットを使い世界の会議との連携を! 

Gゼロ世界においては、国家による問題解決には限界が露呈している。このため、国際問題解決のため、国家間交渉以外のフェーズによる合意形成秩序の構築が主流になってきている。

ダボス会議には、世界を動かしているリーダーのほぼすべてが結集する。国際機関のトップ、国連事務総長、世界銀行、IMFなど、ほぼすべてだ。さらには、国家元首や政治のリーダーたち。2015年のダボス会議には、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、フランスのフランソワ・オランド大統領、イタリアのマッテオ・レンツィ首相、中国の李克強首相、アメリカのジョン・ケリー国務大臣、エジプトのアブドルファッターフ・アッ=シーシー大統領、南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領、ヨルダンのアブドラ国王など主要国のリーダーが結集していた。加えて、中央銀行トップ、民間企業のトップはほぼ全員ダボスに集まる。2014年のダボス会議では、安倍晋三総理が、基調講演を果たした会議でもある。「なぜ世界のリーダーがダボスに来るのか」。それは、ここで世界のアジェンダが設定され、諸問題の意思決定がされ、世界中に発信される。ここにいないと不利な状況を作られるからだ。

今年のダボス会議で議論となったのは、ISをはじめ、気候変動、ユーロ、テロ、ハッカー、エボラ熱といった「得体の知れない脅威」だった。当然、ロシアの問題は依然、脅威として残るが、ある程度は織り込み済みだった。これらの諸問題の特徴は、国家が連携してもなかなか問題を解決できない、国家の限界を露呈していることだ。

ISに関しては既に述べたが、気候変動問題、ユーロの問題、エボラも同様に、国家を超越した連携と意思決定が重要になる。国際社会が連携し、実行するためには、世論の支持が重要だ。民主主義においては、世論が鍵を握る。

今後ますます国家を超越した「得体の知れない脅威」は拡大していくであろう。国際社会は、連携して取り組む必要があるが、実は政府だけでは太刀打ちできないものばかりだ。ユーロ問題は、欧州国民の世論、メディアそして経済界の協力も必要となる。エボラ問題にはNGOの協力が必要となり、ハッカー対策にはIT企業の協力が不可欠だ。

従って、政府ばかりでなく、経済人、メディア、学者、国民、NGOを含めたマルチステークホルダーが連携して活動する必要がある。しかもグローバルにだ。すなわち、ダボス会議などをはじめ、政府間外交以外のチャネルに日本のマルチステークホルダーは代表として参加し、リーダーシップを発揮して世界の問題解決をはかることが、日本の国際貢献へと繋がるのだ。

まさに、その日本のマルチステークホルダーの集まりが「G1サミット」である。G1サミット参加者が世界のマルチステークホルダーの会合であるダボス会議の参加者等と連携して、世界のマルチステークホルダーと自由闊達な交流をし、世界の問題解決に貢献することが重要だ。

2015年3月に開催されるG1サミットは、「100の行動」を叩き台にして議論をする予定だ。開催後に、議論の模様を動画やテキストで広く公開する。そして、G1参加者や読者諸兄が、その議論をもとに行動することになる。その結果、日本人が政府の外交のみでは解決し得ない国際問題等に対しても、世界レベルで議論をリードしていくことができるようになる。まさに「100の行動から始まる静かな革命」が世界次元へと広がることが可能となるのだ。

このように、日本は、自由・民主主義・法の支配・基本的人権といった普遍的価値による世界秩序への貢献、自衛隊の海外派遣を通して紛争解決への貢献、テロとの戦いに備える情報面での貢献、海外シンクタンクとのネットワーク強化による知的貢献、そしてG1サミットを使い世界の会議との連携によるマルチステークホルダー的な貢献に努めていきたい。

だが、結論はやはり、「Gゼロの世界では、G1が有効だ」ということでしょう。(笑)

 

 

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