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「農業を成長産業に」新規参入・大規模化・効率化を促せ!

投稿日:2013/11/15更新日:2019/04/09

初稿執筆日:2013年11月15日
第二稿執筆日:11月18日

「成長戦略」「規制改革」と叫んでも、岩盤規制の本丸に切り込まなければ、日本経済を成長軌道に戻すことは不可能だ。その本丸の岩盤が、社会保障と労働規制の分野だ。その点は、これまで「100の行動」で再三指摘し、大胆な改革を提言してきた。だが、残された岩盤中の岩盤が、この農業だ。

TPPへの参加は、日本がアジアの成長を取り込んでいくために不可欠だが、TPPの是非を論じる中で、しばしば「製造業の輸出促進の犠牲に、世界とは戦えない日本の農業を切り捨てる」といったような議論がなされる。

だが、この「製造業VS農業」という構図は実は間違いだ。TPPなどの自由貿易・競争自由化で利害対立するのは、「規制で守られた既得権を持つ零細農業従事者VS新規参入者および農業改革者」だ。つまり、現状でも経営を効率化して世界で戦える農業は、千葉県にある和郷園のように日本にもあるのだ。

規制で塩漬けにされ弱体化してしまっている日本の農業を力強い成長産業・輸出産業に変えることは、TPPへの参加を待つまでもなく、重要だ。そのためには、農地の集約化・大規模化を行って経営を効率化し、流通改革を行い、輸出戦略を策定・実行することだ。「100の行動」農林水産編で順を追って議論を進めていきたい。

1. 農地法改正を!所有者=経営者=耕作者の基本原則を撤廃せよ!

日本の農政は、小規模生産者保護の思想が基本となっている。これは、戦後GHQによる農地改革によって、小作人が解放されたことから始まる。これによって元小作人の零細自作農が大量発生し、日本の零細農業構造の発端となったわけだ。1952年にGHQの要求で制定した「農地法」は、多くの零細自作農の存在を「維持」しようとするものだった。これは、GHQが保守化した農村を共産主義への防波堤にしようと意図したものだと言われるが、この多数の小地主から成る農村は保守党を支える政治的基盤となった。

このため、55年体制下で自民党は、農業を大規模化して農業の競争力強化を図るよりも、小規模の零細自作農家を維持する政策を取ってきたと言われている。現在の政治家がそのような行動原理に基づいているとは思わないが、そういった経緯で作られた「農地法」は基本的な構造から変えるべきであろう。

そもそも農地の所有者と経営者、そして実際に耕作する人間が同じ人である必要はない。しかし、農地法では所有者=経営者=耕作人が基本思想だ。本来、これまで病院経営における議論等でも提唱してきたが、経営は経営のプロが行うべきで、農業においてもマーケティングやリスク管理などはその道のプロが行うべきものだ。

だが、農地法では、株式会社による農地の所有を基本的に認めないところからスタートしている。そのために、2009年の農地法改正を経ても、様々な条件付きのリースによる会社の農業参入と、限定された農業生産法人による所有等しか認められていないのだ。

農業を成長産業化するには、小規模生産者の既得権益保護という思想を取払い、新規参入を促し、農地を集約化して大規模経営と効率化による競争力の強化を目指すことが必要である。

繰り返しになるが、農地法の所有者=経営者=耕作者の基本原則を撤廃し、新規参入を促し、土地の流動化、集約化、経営の近代化を促すべきだ。

2. 株式会社の農地所有を完全に自由化せよ! 

2009年の農地改革では、株式会社等の一般企業の参入を全面自由化し、リース期間の延長 (20年→50年)も行われた。また、農地の権利を有する農業関係者が組織しなければならないという限定的な農業生産法人にだけ認められる「所有方式」に関しても、出資者が食品加工業者等であれば出資の上限を2分の1未満まで容認する要件緩和がなされた。

農林水産省によると、この結果、法人経営体数は、この10年で2倍になり、12,500 (売上1億円以上層が24%)、法人経営体の雇用者数も約14万人となっている。

しかし、重要なのは経営能力をもった企業による農業参入である。節税目的で農家が法人化する事例も多い農業生産法人が増えても日本の農業の競争力は向上しない。改正後であっても、結局は、農業生産法人の経営権は農業関係者が掌握している範囲のみでしか、出資やリースによる参入が認められていない。

実際、やる気のある経営者が農業経営の拡大を行おうとしても、リース方式では、ビニールハウスなどの設備投資に手を出しにくいという。いつ返還することになるか分からないという不確実性が付きまとうからだ。

現状でもイトーヨーカドーやローソン、JR各社等による参入実績があるが、より積極的な株式会社の農業参入を促すために、規制を完全自由化すべきだ。

具体的には、「農業生産法人」という、農業従事者以外からの出資制限や、役員の過半数が農業常時従事者(年間150日以上の農業従事要件)といった極めて特殊な法人形態を撤廃し、先述した農地法の所有原則の撤廃と併せて、株式会社による農業参入、農地の所有を自由化するべきだ。つまり、農業生産法人をすべて解散させ、株式会社に集約するなどの大胆な改革が必要となる。

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3. 耕作放棄地所有にペナルティを与え、農地の売却にインセンティブを。農地の流動化を促進せよ!

日本の農業の競争力を国際的に強化するには、経営の大規模化が不可欠だ。日本の農政が小規模零細農家の保護を目的としてきたことは既に述べた。その結果、平成に入ってから農地の流動化を政府が指向してきたにも関わらず、163万戸ある家族経営農家のうち、5ha以上を耕作する農家は9万戸に過ぎず、平均経営耕地面積は2.2haに留まっている。(ただし、一定の成果もあり、面積で見れば、20ha以上の経営体が土地利用型の農地の32%、5ha以上が45%をカバーするに至っている。)

また、耕作放棄地面積も、高齢者のリタイア等に伴って拡大しており、この20年間で、約40万ha(滋賀県全体とほぼ同じ規模)に倍増している。

これら耕作放棄地を含めた農地を、やる気のある若手や資本力のある経営者等の担い手に集約化することが重要だ。

農地集約が進まない問題の本質は、効率的な農地利用をしなくても農地を保有し続けられるためだ。耕作放棄地も、土地を放置していても税などの負担が極小であることに原因がある。従って、後述する零細農地への補助金の撤廃と、耕作放棄地への固定資産税の増額で、非効率農地及び耕作放棄地へのペナルティを政策的に課すべきではないか。

逆に、大規模経営体への農地の売却などによって、農地集約化に貢献した農地保有者には、売却益への非課税等のインセンティブを与える仕組みを作るべ

日本の農業の競争力を国際的に強化するには、経営の大規模化が不可欠だ。日本の農政が小規模零細農家の保護を目的としてきたことは既に述べた。その結果、平成に入ってから農地の流動化を政府が指向してきたにも関わらず、163万戸ある家族経営農家のうち、5ha以上を耕作する農家は9万戸に過ぎず、平均経営耕地面積は2.2haに留まっている。(ただし、一定の成果もあり、面積で見れば、20ha以上の経営体が土地利用型の農地の32%、5ha以上が45%をカバーするに至っている。)

また、耕作放棄地面積も、高齢者のリタイア等に伴って拡大しており、この20年間で、約40万ha(滋賀県全体とほぼ同じ規模)に倍増している。

これら耕作放棄地を含めた農地を、やる気のある若手や資本力のある経営者等の担い手に集約化することが重要だ。

農地集約が進まない問題の本質は、効率的な農地利用をしなくても農地を保有し続けられるためだ。耕作放棄地も、土地を放置していても税などの負担が極小であることに原因がある。従って、後述する零細農地への補助金の撤廃と、耕作放棄地への固定資産税の増額で、非効率農地および耕作放棄地へのペナルティを政策的に課すべきではないか。

逆に、大規模経営体への農地の売却などによって、農地集約化に貢献した農地保有者には、売却益への非課税等のインセンティブを与える仕組みを作るべきだ。

2015年現在、TPP大筋合意を受けて日本の農業の競争力強化に向けて、耕作放棄地への課税強化も議論されているところであり、是非とも実現したい政策である。

きだ。

なお、政府は、農地集約化のために、都道府県単位で農地中間管理機構(仮称)(農地の中間的受け皿)を作り、斡旋を行って農地集積を進めるとしている。

これまでも、農地管理、農地流動化のために多くの組織が作られてきた。昭和26年に設立された農業委員会(1,713委員会。市町村ごと)。昭和45年設立の農地保有合理化法人(47法人。都道府県農業公社)。平成22年の農地利用集積円滑化団体(1,740団体。農協など)等などだ。

政府が今検討している「農地中間管理機構」がこれらの組織に屋上屋を重ねるようなものになってはならない。新たに農地中間管理機構を創設するにあたっては、既存の組織との整理統合が必要ではないか。特に、農地流動化のボトルネックになっている農業委員会の役割を縮小させ、新たに作る農地中間管理機構に集約していくべきであろう。

4. 個別所得補償等の補助金の撤廃。投融資/税制優遇へ発想の転換を!

農林水産省予算は毎年約2.2兆円だ。そのうち6500億円が農業関係の公共事業で、その他の1.6兆円のうちの多くが補助金等となっている。国土強靭化計画で農林水産省の公共事業までもが盛り返しつつあるのも問題だが、それよりも、農業関係の補助金の巨大さだ。

もちろん、農業は国家の基本であり、国家が農業を保護するのに税金を使うのはある程度は納得性がある。しかし、農水省には470以上もの補助金が存在し、その多くが、「農業の強化」ではなく、「農家の保護」を目的として存在していることが問題だ。そのうち大きなものは、すべての販売農家に支給される「経営所得安定対策(以前の「戸別所得補償制度」)」で、畑作、米作併せて6000億円強が耕作面積に応じて支払われている。

農地集約が進まない原因は、効率的な農地利用をしなくても農地を保有し続けられることにある。経営所得安定対策を含めて補助金を総点検し、生産者保護を目的とする補助金を全廃し、コスト競争力の向上や経営効率化を促す補助金のみを残すべきだ。

そのうえで、農業の保護は、補助金ではなく、投融資や税制優遇によって積極的に行うべきだ。

これまで、農業法人等向けには「スーパーL資金(日本政策金融公庫の低利子資金)」や出資アグリビジネス投資育成(株)からの出資等があったが、より積極的に農業参入企業向けのファンドを拡充すべきだ。2013年2月に国と民間の共同出資によって、株式会社農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)が開業し、460億円規模の支援を決定した。2015年には出資総額は750億円まで拡大している。A-FIVEのようなファンドと政府が連携して大規模経営農業/競争力のある農業を支援すべきだ。

また、これまで、農業参入企業に対する税制上の優遇措置などは、ほとんどなかったと言って良い。農業生産法人では法人事業税が非課税になるといった程度だ。現在、農業生産法人は1万2052社、農業に参入している一般法人は1071社だが、2012年に納税された法人税は220億円だけだ。

そうであれば、農業への企業参入を加速化し、農業経営の大規模化・効率化を促進するため、いっそのこと、新たに農業に参入した企業の法人税を5年間非課税にするといった税制優遇措置を創設すべきではないか。日本の農業を一気に成長産業化するために大いに検討すべき政策ではないか。

5. 企業参入・若者の参入を促進せよ!

日本の農業人口は250万人である。このうち、50歳以上が約90%を占め、65歳以上が59%だ。農業従事者の平均年齢は65.8歳と日本の農業の高齢化は顕著だ。

一方で、やる気と能力のある若手経営者による農業参入も増えつつある。岩佐大輝氏は、大学在学中からIT関連サービスで起業していた経営者だったが、2011年3月11日の東日本大震災直後から故郷である宮城県山元町に入り、グロービス経営大学院の在校生・卒業生と復興活動を担う株式会社GRAを創設した。GRAでは、地元住民との協働によって被災から1年弱で山元町の特産品イチゴの栽培をIT活用農法で復活させている。

「ミガキイチゴ」というブランド化を行い、それまで熟練農業従事者の勘に頼っていた温度管理等の栽培工程をITによってマネージすることに成功したのだ。GRAは、さらにインドへの事業展開も果たし、「10年で100社、10,000人の雇用を創出すること」をビジョンに掲げ、農業の再創造に取り組んでいる。

これまでの農業は儲からないから若者が従事しなかった。今後は、農業への企業参入完全自由化、税制や投融資による支援によって、こういった成功事例を増やすべきだ。そうすることにより、若者の農業への参入も増えるはずだ。

「ニッポン未来会議」の第5回目の放映は、「ニッポンの農業」であった。林芳正農林水産大臣と和郷園代表理事木内博一氏がプレゼンターとなり、コメンテーターには前述のGRAの岩佐大輝氏が出演している。見逃した方は、是非とも視聴して欲しい。

http://www.globis.jp/2644

「ニッポンの農業の未来を決めるのはあなたたちだー!」

 

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