初稿執筆日:2013年10月11日
第二稿執筆日:2015年10月13日
2014年の日本の出生数は、過去最小の100万3539人だった。死亡数は126万9000人(推計値)。今年も人口が減少し、2005年をピークに人口減少が続いている。よく知られているように、人口を維持するのに必要な出生率は2.08とされている。日本の出生率は1.41と非常に低い。このままでは、2050年には9500万人に、2100年には4700万人まで日本の人口は減ってしまう。
2050年時点では、0歳から64歳の人口が3000万人減り、一方で65歳以上の人口は微増する計算となる。このままでは、人口減でありかつ過度な高齢化社会となる。「以前は、胴上げができたのが、騎馬戦になり、肩車になっていく」とたとえられるように、労働人口対高齢者の割合は、労働者の負担が増す方向に劇的に変化している。
このように少子高齢化問題は、日本が抱える最も大きな問題のひとつであり、日本社会の根底を揺るがす危機的状況だという認識をもつ必要があろう。
では、どうすればいいのだろうか?
やるべきことは実は単純で、少子化の食い止めに成功した国の事例から学べばいいのだ。フランスでは、出生率が1.6まで低下した後、政策的努力によって回復傾向となり、2011年には2.01まで回復している。日本がすべきは、フランスの政策をベンチマークして、取り入れられる政策を積極的に取り入れ進めることではないだろうか。
1. シングルファーザーやシングルマザーを認める社会に!
世界各国の婚外子割合
欧米の婚外子割合をみると、日本との大きな違いに驚く。日本では、婚外子は2.1%にすぎないが、スウェーデンでは54.7%、フランスでも52.6%と、半分以上が婚外子である。ちなみに、スウェーデンも、フランスと同様、1990年代に1.5台まで下がった出生率を2011年に1.9まで回復させることに成功した国だ。
日本は、結婚していない人々が、子どもを育てにくい社会になっているといえよう。フィギアスケートの安藤美姫選手が、シングルマザーになったことが大ニュースになったが、そもそもスウェーデンやフランスでは半分以上の女性がシングルマザーを選択しており、社会的にもそれが普通の状況なのだ。
実はフランスでも、婚外子の割合は1965年では5.9%に過ぎなかったが、次第に増え続け、2006年についに50.5%と正式な結婚による子供の数を上回ったという経緯がある。1999年、事実婚のカップルに対して、税控除や社会保障などは結婚に準じる権利を付与するパックス婚の制度が制定されていることが一因と考えられる。
この制度は、もともとは同姓カップルのためのものであり、当初は利用者の4割が同性愛者であったが、パックス婚件数は2011年で総計138万件を超え、そのうちの9割以上が異性カップルとなっている。フランスではこういった制度によって、結婚の形態も多様化が進み、子どもを産みやすい社会になってきたといえる。
日本でも、結婚や家庭への考え方を多様化させるとともに、結婚していないカップルや、シングルマザー・シングルファーザーが子育てをしながら仕事をしやすい環境を醸成して、結婚していなくても、もっと自由に子どもを産める社会をつくるべきであろう。
2. 養子縁組を増やせ!
経済的な事情や家庭環境によって「子どもを産みたくても産めない人」がいる。妊娠中絶の数は減っているとはいえ、年間20万件、年間の出生数の20%にも上る計算となる。
一方、近年では不妊治療や体外受精の件数も大幅に増加し、子どもが欲しくてもできない人も多くいる。このミスマッチを解決するのが、養子縁組のはずだが、日本ではその数は極めて少ないのが現状だ。
日本には、養子が実親との親子関係を存続したまま養親との親子関係をつくる普通養子縁組と、養子が戸籍上、実親との親子関係を切る特別養子縁組があるが、併せて1500件/年程度しか養子縁組は行われていない。米国では、2001年時点で12万人以上が養子として育てられていると推計されている。先年、他界したスティーブ・ジョブズ氏も養子であったことは、周知の事実である。
日本でも、不妊治療後に養子を検討するカップルが増えているという。現状では、特別養子縁組のほとんどが、児童相談所の斡旋で里親になったケースだが、子どものできない夫婦の不妊治療後の選択肢として、養子縁組制度をもっと活用させるべきではないだろうか。
そのためには、養子縁組制度の認知度を向上させるとともに、現在、斡旋現場で限定されている40歳以下等の年齢制限を撤廃し、より柔軟に養子縁組を斡旋できるようにすることが必要であろう。
産みたくても産めなくて中絶してしまうケースを最小限に抑えるとともに、養うことはできるが子どもができない夫婦にそのチャンスを与える養子縁組の一層の普及も、少子化を食い止めるために必要であろう。
3. 子育て支援の政策総動員を!
日本の社会保障政策は長らく年金、医療、介護の3本立てであったが、2012年に実施された税と社会保障の一体改革で、社会保障の中心課題として初めて子育て・少子化対策が立てられた。社会保障政策の4つめの柱として少子化・子育て支援が位置づけられ、消費増税に伴って恒久財源の確保が決められたことは、大きく評価すべきだ。
フランスの合計特殊出生率は1993年に1.6台まで落ち込んだ後、上昇に転じ、2.01%まで回復したことは既に述べた。フランスでは、以前は家族手当などの経済的支援が中心だったが、1990年代以降、保育の充実や出産・子育てと就労の両立を支援する環境整備にシフトしてきている。
日本では、第1子出産を機に、約6割の女性が就労継続を断念している。この出産・子育てと就労継続の二者択一という状況を解決することが必要だ。出産・子育てをする女性の働きやすい環境をつくるために、保育所、放課後児童クラブの支援拡充や、出産・子育ての機会費用低減のための支援、さらには、子育てを終えた女性が仕事に復帰できるようにするために、労働市場をより流動化・自由化することが必要だ。
自民党政権においても少子化対策・子育て支援は重要政策として位置づけられている。待機児童の解消に向けては、待機児童解消加速化プラン、保育士確保プランなどの施策が実施され、2015年度までを待機児童解消に向けた緊急集中取組期間として、保育士を約20万人純増する計画は既に達成された。これにより、一部の大都市で待機児童ゼロを達成するなどの成果はあがったが、待機児童数は引き続き2万人強で推移している。今後2015年度からの3年を取組加速期間として、潜在的な保育ニーズを含め、約40万人分の保育の受け皿を新たに確保し、2017年度末までに待機児童の解消を目指すとしている。引き続き積極的な支援策や環境整備を期待したい。
4. 子供を増やす税制優遇か表彰制度を!
フランスでは、子供の数に応じた税の優遇措置(「N分のN乗方式」)も、出生率の上昇に寄与したと言われる。1人の子どもを成人させるためにかかる費用は約2000万円と言われるが、子どもは欲しくても、経済的な理由で2人目、3人目を控えるというカップルは多い。
これが、子どもが増えるに従って、所得税の控除が大きくなるといった制度になれば、出産へのインセンティブになる。第3子以降には思い切った税制優遇をすれば、インパクトは大きいだろう。(税制優遇制度については、100の行動43厚生労働9 「雇用のダイバーシティーを拡げ、成長につなげよ!」において詳述する。)
経済的観点ばかりでなく、子供を一定数以上(例えば5人以上)育てた親を表彰するのも一案であろう。筆者に子供が5人いるから提案しているわけではないが、子育てには膨大な費用と手間がかかる。ところが、まったくの優遇措置が無いのが実情だ。高額所得者に対しては、むしろペナルティとさえ思える制度変更が現在行われている。扶養控除はなくなり、高校の無償化は廃止され、家族手当は半分だ。
子育てそのものから得られる精神的な幸せがあるのは事実だが、それ以外にも、数多くの子供たちを社会に送り出す貢献もしっかりと評価されて然るべきだと思う。
5. 発想を変え、出生率を「男性1人あたり」で計算せよ!
出生率は、1人の女性が一生の間に産む子供の数として計算される。「出生率が2.08を超えないと人口は減少する」ことは既に述べた。
少子化問題を考えるとき、「子どもを産み、育てることが、社会の責任を果たしていることとなる。子どもを増やさないのは、次の世代を支える人材を育てていないことである」という考え方も根強い。
一方で、「本来、産む、産まないは女性の自由であり、何らかの理由で子供を産まない選択をした女性の生き方に立ち入ることになってしまう」という考え方もある。両方とも正しいと思う。だが、今、日本は少子化問題を抱えており、これに真正面から対処することが必要である。
少子化の議論をすると、子供を産んでいない女性は下を向いてしまうケースが多い。そこで、発想を変え、「男性版出生率」という考え方を取り入れて、「1人の男性が一生の間に育てる子供の数」として計算する、と定義してはどうだろうか。出生率の計算根拠を、女性1人あたりではなくて、男性1人が育てる子供の数とするのだ。つまり計算根拠を変えることにより、女性の責任から男性の責任へと発想を変えるのだ。
そうすると、責任感を持つ男性の場合は、出生率向上のための自分の貢献を考え始める。増やす選択肢が、結婚している場合には妻と育てること以外にも、養子縁組があろう。結婚していない場合には積極的にシングルマザーをサポートするといった活動が広がって来よう。
また、女性の出生率の計算が15歳から49歳の女性を基に計算されているように、女性は出産の生理学的な限界が早いが、男性ならば70歳近くまで挽回の可能性はある。
少子化問題において日本の男性の当事者意識を喚起するための1つの考え方として、議論してみてもいいのではないだろうか。
さて、こうやって少子化問題を考えるとどうしても感情的な面が出てくる議論が多くなってしまう。「そうは言っても」という声が聞こえてきそうだ。だが、事実として日本の人口は減少し、少子高齢化が急ピッチで進んでいる。国と地方の借金は既にGDPの2倍を超えてしまった。歳出の半分も税収で賄い切れていない状態が続いている。
今後の日本を背負っていく子供たちを多く育てないと、高齢化が進むとともに、人口が減少していく。少数の人々に今ある負債を背負わせることになり、国の活力を失うことになる(当然移民を増やす選択肢も考えられよう。その点については法務政策の行動で詳述することにする)。
人類の歴史の中で、人口が減少していく国で発展した国は無いと言われている。日本の人口減少社会を食い止め、活力がある日本を創っていくためにも、思い切った意識改革が必要であろう。