USJ復活請負人・森岡毅さんが教えてくれた戦略の基本と当事者意識 

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USJのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)として、同社を破綻寸前から奇跡のV字回復をさせた森岡毅氏。著書『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』に関するインタビューのうち、戦略論を中心に深堀りして必要な認識や判断を解説する。(解説編の前編はこちら

マーケティングの川上にある環境分析、そして戦略が大事

森岡氏は、「マーケターなのか、リーダーなのか」という問いに対して、「強いリーダーになりたい~中略~マーケティングが使える組織にUSJを生まれ変わらせたのが、僕の最大の成果」と回答した。そこに森岡氏の思想の本質があると考えられる。

ここで注意して欲しいのは、「なるほど、やはりリーダーシップ大事なんだ!」と短絡的に考えないことだ。森岡氏は、自分自身のスキルセットは「傘となる強力なリーダーシップの下に、企業戦略の構築力、組織の構築力、そしてマーケティング力の3本柱」と言い切っている。

さらに、「マーケティングの流れである、環境分析~顧客分析(Segmentation/Targeting/Positioning = STP)~マーケティングミックス(4P)の中で最重要視しているのは何か」という筆者の質問に対し、「川上にあるものほど、大事だと思う。本の中では、川上の中でも戦略について多く語った」と言った。

筆者もこれに同意する。現代マーケティングの大家、フィリップ・コトラーは、著書『コトラーのマーケティングコンセプト』で「マーケティングで最も重要なのは“ポジショニングである”」と言っているが、以前よりこの点においては違和感を持っていた。

確かにポジショニングは「顧客に対する自社の魅力の打ち出し方・競合との差別化の示し方」として、マーケティングの最終段階であるマーケティングミックス(4P)を規定しており、重要であるのは間違いない。しかし、差別化しようとしている競合は真の競合なのだろうか。つまり、もっと重要なのは「魅力的な狙うべき市場が他にあるのでは」「業界の切り口を変えればもっと力のある競合が出現する」といった点だ。それに気付けるかどうかは、最初の環境分析にかかっている。

マーケティングでは、とかく「4P」から考えがちだが、実はその川上である環境分析、そして、そこから考えられた戦略如何で勝負が決まることも多いのだ。

「ランチェスター戦略」で考えると・・・

では、戦略とは何なのか。森岡氏は「目的を達成するために資源(リソース)を配分するための選択のこと」と定義し、その資源として「ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産」の6つを挙げている。つまり、選択と集中だ。資源には限りがあり、選択と集中なくしては企業の成長は不可能だ。しかし、実際には資源の足りなさに苦悶し、「あと少しあれば」と叶わぬ願いに悶絶する日々を過ごす経営者が多いのが現状だろう。

ではどうしたらよいのだろうか。戦争論の研究から後にビジネス、マーケティングに転用されるようになった「ランチェスター戦略」で考えてみよう。ランチェスターには第一法則と第二法則がある。第一法則は一騎打ち・狭域接近戦、第二法則は近代的な広範囲・遠距離・乱戦だ。第二法則では圧倒的に兵力数が効くので、弱者は第二法則が適応されるような開けた場所や兵力差が大きい時に戦ってはいけない。

著書では選択と集中の例として、具体的な小隊編成の人数と戦果を用いてマーケティングコミュニケーションに当てはめた時のメディアへの配分例が紹介されている。そして、「数的有利は必ずしも大局での勝利を保障するものではない」「やることを選ぶということは、同時にやらないことを選ぶこと」と述べている。

この考え方に、筆者は心の底から同意する。筆者も、クラスやコンサルティング先の会議の場で「選ぶということは他を捨てるということだ」と、究極の選択を迫る。なぜならば、それが自らの戦いの場=「業界定義を行う」ということだからだ。数々のセグメントを発見した中から1つのターゲットを選び他は捨てる。広がりすぎた4Pの製品ラインナップ、価格帯、販路、メディアとメッセージの中から絞り込んで捨てる。それが、勝つ、または生き残る唯一の術だからだ。

世に「選択と集中」を口にする経営者や幹部は多い。しかし、森岡氏の書籍と筆者が上記で記した本来の意味が分かっているヒトが少なすぎると感じる。「選択」はする。しかし、「集中」しない。ましてや捨てない。戦力は拡散し、劣勢になるのは当然である。

圧倒的な当事者意識で戦うべし

森岡氏はインタビューで、現場・戦火をくぐり抜けず、大本営で机上論に終始する評論家を例えて、「寿司評論家は調理に使う十数本の包丁全ての説明をしたがりますが、寿司職人ならば最もよく使うほんの数本の、しかも実践者にしかわからない使い方に重点を置いて書くだろうと。私はそういう実践者の意図でこの本を書きました」と言った。また、著書では「コンサルタントという仕事では、企画提案はできても、プレッシャーがかかる中で重大な意思決定をするという『当事者体験』がなかなか積めません」と述べている。

筆者は「結果の数字が全て」のダイレクトマーケティング企業のコンサルティングをしている。そこでは、常に「1件のレスポンス(顧客情報の取得)にかかった費用=Cost Per Response:CPR」や「1件販売するためにかかった総費用=Cost Per Order:CPO」を問われ、それがコンサルティング契約の継続に影響したりする。またメーカーから「売れなかった商品のテコ入れプラン策定」を依頼されることも多いが契約は、「支払いの50%は、販売1個あたり○%の成果報酬で!」と持ちかけられることもある。そんな時、机上の戦略論だけで済む話ではない。細かな戦術のプランニングと場合によっては制作のディレクションまで口を出す。書籍から感じた同じ戦場の匂い。森岡氏とスケールは違うが、同じ心持ちと守備範囲で戦ってきたのだと感じた。

インタビューの最後、森岡氏は「今までのキャリアで壊れた線路を直すのは何回もやったが、何もない所に線路を敷いたことがまだありません」と言った。森岡氏は、壮大で困難な「USJを破綻寸前からV字回復させる」という成果を残せた。次に選ぶのは、起業し「自分の国を作る」という道なのだろうか。森岡氏の作る王国がどのようなモノになるのか、今から楽しみで仕方ない。勇猛にして優秀な治政者が統治する「夢の王国」かもしれない。
 

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