【森岡毅氏インタビュー】売れるマーケターより強いリーダーになりたい(2) 

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グロービス経営大学院、Forbes、flier、HONZが共同開催した「読者が選ぶビジネス書グランプリ2017」。そのマネジメント部門で1位となった本が、『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』だ。USJのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)として、同社を破綻寸前から奇跡のV字回復をさせた森岡毅から、キャリアやスキル不足に悩む読者へのアドバイスとは?(前編はこちら

CMO(マーケティング最高責任者)とは?

金森: CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー/マーケティング最高責任者)の仕事について教えてください。

森岡: マーケティングのトップ・CMOの仕事とは、「どこで戦えば勝つか」を見極める会社の軍師としての役割を担うことに尽きます。中にはビジネスの結果に責任を負わないトレーニング担当のような楽しげなCMO職も大会社には多いようですが、私がやっていたCMOとは、1)会社の進むべき大戦略を明確にし、2)社内を消費者目線で横断的に統合し、3)それを可能にする強力なマーケティング組織を育成構築する。ビジネスの全責任を負う覚悟は当然。でなければ指揮を執る資格がないというか、人がついてきません。私は2つの視点を重視してCMOをやっていました。

1つは、消費者の近くにいる人間にオーナーシップを持たせること。「森岡さんがいつもアイデアを出しているよね」ではダメ。確かに最初の1~2年は私がほとんどアイデアを作っていました。しかし、3~4年目からどんどん変わって基本的にはボトムアップでアイデアが出るようになってきました。自分が考える主体であって、良いアイデアは消費者を理解しないと出せない。この、自分のアイデアが世の中を変える可能性があるということが大事で、「自分の知恵で消費者の生活を変えてみせるぞ」という想いは、強力なマーケターを生み出すモチベーションとして欠かせません。

もう1つ、世の中は絶対に変わるということ。人口動態も変われば世の中のトレンドも全部変わります。もちろんエンターテイメントも変わる。例えばONE PIECEやモンスターハンター、妖怪ウォッチで稼いでいる集客を、いつかは別の何かのアイデアで稼がなくちゃいけない日が来るでしょう。だから新しいことを試すことに常にこだわらなくてはいけない。今のやり方を変えることを恐れてはいけない。常に「もっと良い結果を出すにはどうすればよいか?」を誰よりも執念を持って考えているCMOの熱がマーケ組織を熱くします。

だけど私は「会社と結婚しない」って最初から言っています。だから私がUSJ再建の使命を果たして居なくなる時、残った部下たちが自ら考える練習を最初からさせていました。そして、実際できるようになったのです。そう、CMOとして私の究極の仕事は、私がいなくなっても機能するマーケティング組織を構築すること。そして私は“卒業”できました(※)。新経営陣がそのマーケ組織を壊さない限り、USJは今後も輝き続けると私は信じています。

一番大事なもののために次に大事なものを捨てる勇気を持て

金森: 若い世代と話すと、会社を支えていきたいのに、トップやマネジメント層が変わろうとせずに居座っていると悩んでいる人が多いようです。

森岡: 人がなぜ仕事をするのかと言うと、「自分が社会にいる価値を自分で実感したい」欲求があるからだと思います。ある程度成功してきた人は、そこから逃れられません。だから、優秀な経営者が引き際を間違える。その経営者が消費者理解から遠のいてしまって、会社が世の中の変化に対応するための自己変革ができなくなった時、会社はおかしくなります。『確率思考の戦略論』で書きましたが、その妨げになるのは、その優秀な経営者の「成功体験」と、理解できないものを否定する「エゴ」です。企業の平均寿命が30年といわれるように、創業のカリスマが作り上げたビジネスモデルが変わり続ける環境との不適合を起こし、自己変革できない会社から沈んでいくのは残念ながら自然の摂理です。かつてのUSJのように、本当に追い詰められないと自己変革はなかなか起こりません。

そういう会社に居続けて「会社にいる安心感」と「成長できない自分」の間で悩んでいる方にアドバイスするとしたら、「2つは取れない」ということでしょう。一番大事なもののために、次に大事なものを切り捨てる決断力がない人間は何も変えられない。会社の中に居続けるなら、部長や会長の文句を陰で言わずひたすら誇りをもって頑張ればいいい。そういう偉い人達や環境が自分にとってどうしても問題だと思うのだったら、会社が変わるのを期待する前にまず自分から変わること。もっと具体的に言うと、自分の居る環境を変えるのです。本当に成長したいならば、それが実現できる会社に早く移った方がいいです。しかし本当に己の成長がどこまで重要なのかはよく考えた方がいい。私の狭い経験ですが、9割以上の人は安定第一で自己保存が最優先、自己成長はそのための手段でしかない。私のように成長自体が目的化する「成長マゾ」はごく少数です。人それぞれの答えに沿って選べば良いのだと思います。

金森: 自分に足りないビジネススキルを、どう克服していけばよいですか?

森岡: 私は英語アレルギーでしたが、必要に迫られていつの間にか話せるようになりました。

P&Gに入る時に受けたTOEICの試験で、私のスコアは355点くらいだったと記憶しています。TOEICで355点って、努力しても取れない(笑)。山勘でも400点ぐらい取れるから。この点数はP&Gの歴史上、下から2番目のようです。それでよく採用してくれたな、と。

それでも、大学生で世界中を貧乏旅行をしながら、英語を勉強しなくちゃいけないと気付いていました。英語は必要な道具だからです。自分が達成したいと思うスキルセットの中に英語があることは、私の活躍の範囲を大きく変えることがわかっていました。P&Gに入った1つの理由は、英語を身に付けざるを得ない環境に自分を置きたかったから。嫌いでも、目的のために必要ならば「やる」って決めなきゃしようがないわけです。「こういう人間になりたい」と思いながら「痛みは背負いたくない」って、そんな楽な話はありませんね。結局、人間は1つしか選べないのです。というわけで、死に物狂いで苦手な英語を勉強しました。

動物園ではなくジャングルの中で死にたい

金森: 森岡さんはマーケターなのでしょうか、リーダーなのでしょうか。

森岡: 強いリーダーになりたいと思っています。「マーケター」という旗が立ってしまったが、組織を作るのが私の本当の仕事だと思っています。USJでマーケティングを成功させたことではなく、マーケティングが使える組織にUSJを生まれ変わらせたのが、私の最大の成果だと自負しています。私のスキルセットは、傘となる強力なリーダーシップの下に、企業戦略の構築力、組織の構築力、そしてマーケティング力の3本柱です。

金森: 森岡さんに怖いものはあるのですか。

森岡: 何も達成せずに自分の人生を終えるのが怖い。私は今までのキャリアで壊れた線路を直すのは何回もやったが、何もない所に線路を敷いたことがまだありません。多くの偉大な先輩たちが何もない所に線路を敷いていますが、これが一番難しいと思います。その意味で、私はまだ人生で何も達成していません。44年間も生きてきたのに。このまま死んだら、私が生まれてきた意味を自分で感じられなくなりそうなのが怖い。

私はジャングルで生きたいのです。動物園だと毎日餌をもらえるし、天敵も襲ってこない。だけど、動物園で生きるぐらいだったらジャングルで死にたい。その方が生きてきた意味を感じるから。「今日、何食おうか」という瞬間に、「食われるかも」っていう緊張感に、ヒリヒリとした生きている実感があります。自分が、この世界に対して直に繋がっていると感じられる。「大成功させたUSJを辞めるのななぜ?」と10人会えば9人以上から不思議がられるのですが、そもそも私の志向が世間と違うからなんです。かつては厳しいジャングルだったUSJも今や安定して多くの人にとって居心地がよくなったから、私が次のジャングルの刺激を求めて旅立つのは必然なんです。

P&Gを飛び出した先のUSJも、今考えたらそれなりに大きな組織でした。さらにそこからもうちょっと自由な身になって、自分の命の価値を発揮できるフィールドを自分で切り取れば、有り難いなと思っています。

※森岡氏は2017年1月末にUSJの運営会社を退職している

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