議論をさばく(9)さばきの基本動作(8)議論を方向づける(1) 

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前回は、議論を方向づける際、ファシリテーターが最初に行う判断である「発言への対応を決める」考え方と具体的な方法を考えました。今回は、具体的な議論の方向づけについて詳しく見ていきましょう。

議論の方向づけとは何か?

ある議題(テーマ)について議論する場合、理想的には、結論を出すために議論すべきいくつかの論点があり、それぞれについて話し合い、合意し、必要十分な論点について合意が形成された段階ではじめて、その議題についての結論を出すことになります。

こうしたプロセスを進める中で、議論は様々な方向に向かいます。議論の進んでいく方向と議論の中身が効果的、効率的なものになっているかを判断し、適切に方向づけるためには、発言に対して、以下の4つの基本的な方向を理解しておくことが有効です。
(1)広げる
(2)深める
(3)止める
(4)纏(まと)める

ここでまず重要なのは、議論をどの方向に向かわせるべきか、ファシリテーターが方向を明確に意識することです。そのうえで、目指す方向に議論が自然に向かうように、適切な方法で働きかけを行う(前回述べた、「STAY」も含む)ことが必要です。「働きかけ」は主に言葉、特に質問によって行います。方向づけを含んだ適切な質問の表現を用いることで、参加者に違和感や唐突感を感じさせずに参加者の思考を導くことができます。また言葉だけでなく、資料やホワイトボードなど視覚的ツールを使いこなすことも有効な手段です。では、まずそれぞれの方向付けに関して、詳しく見ていきたいと思います。

方向(1)広げる

「広げる」とは、ある発言に対し、別な論点や意見など、他に考え得るもの・考えるべきものを洗い出し、可能性を広げていく方向性です。もう少し詳しく言うと、広げる対象には、「論点」「意見」「根拠」「情報」の4つがあります。

「論点」を広げるとは、今話されている論点とは別の論点について議論するように参加者に働きかけることです。たとえば、ある部品を購入すべきかを議論しているとしましょう。議論が「品質」にのみ集中し、他にも考えなければならない点、たとえば「価格」や「納期」といった論点が議論されていない場合、そこに参加者の注意を向け、論点を広げます。これは、「広げる」の中では最も大きな方向付けと言えます。

次に、ある論点についての「意見」も広げる対象です。「A社から部品を購入すべき」という意見に対して「A社から購入すべきではない」という反対の意見を引き出す。もしくは「B社から購入すべき」「外部からの購入ではなく、自社で生産すべき」といった別の意見を引き出すことをイメージするとわかりやすいでしょう。

3番目の広げる対象は「根拠」の幅です。同じ意見であっても、異なる理由づけが考えられ、最終的な判断においては、いくつかの理由を合わせて判断すべき場合も多いものです。そうした理由、根拠を十分に洗い出すことで、議論を豊かにすることができます。たとえば、「A社から購入すべきだ。なぜなら価格が最も安いから」という意見・根拠に対して、「同じくA社から購入すべきだ。なぜなら自社の要望に対し最も柔軟に対応してくれるから」という同じ意見・異なる根拠を引き出すなどです。

広げる対象の最後は、「情報」の幅です。先の「根拠」と若干近い場合もありますが、様々な立場の参加者が持つ情報を広く議論の場に出してもらい、検討の材料を豊かにしたいときに有効です。たとえば、「X製品を製造するうえで、A社の部品がどれくらい適合するかに関する情報」に対して、「Y製品を製造するうえで、A社の部品がどれくらい適合するかに関する情報」などを加えていくことをイメージすると良いでしょう。ここでは、人の違い(ある施策に対するマネージャ層の反応と一般社員層の反応)、場所の違い(東日本の売上と西日本の売上)、時間軸の違い(昨年の顧客数の増加と一昨年の増加数)、モノの違い(A製品に対する顧客の評価とB製品に対する評価)などの軸を意識すると、情報の幅を広げやすくなります。

方向付けを明確に示すワーディングが重要

ここで重要なのは、まず、ファシリテーターが示す方向が「広げる」であることが参加者にしっかり伝わるようにし、「深める、止める、纏める」といった他の方向に間違って誘導しないことです。

同時に、「論点」「意見」「根拠」「情報」の、どの部分を広げるのかを明確に意識し、違う部分を広げないようにすることです。よく起きがちなのは、論点を広げるべきところで、同じ論点に対する意見を広げてしまい、話がなかなか進まなくなるといった状態です。たとえば、「価格が高すぎる」といった意見に対して、価格以外の「納期」や「品質」という別の論点に広げたいのに、質問を「価格が高いという意見についてはどうですか?」などとしてしまうと、「私は価格が高いとは思わない」など「価格という同じ論点」に対する「別の意見」が出てきてしまいます。意見ではなく論点を広げたいのであれば、「価格以外に考慮すべき点は無いでしょうか?」「価格が高いのはその通りですが、品質の面を考えるとどうでしょう?」といった質問にする必要があります。

このように、「方向付け」はファシリテーターのちょっとした言葉の使い方の違いによって大きく変わります。私がファシリテーターの訓練をする中でよく目にするのは、質問の言葉遣い(ワーディング)が適切でないために、ファシリテーター自身が進めたい方向とは別の方向に参加者の思考を誘導してしまうケースです(ときにはファシリテーター自身が方向付けを意識していないといった誤りもありますが)。ここは議論の方向付けをする上での難所の一つであり、議論の場でいきなり適切な方向付けを示す質問をしようとしても適切な言葉が咄嗟に出てこないことが多いものです。このため慣れないうちは、方向付けを明確に、かつ自然に誘導する独特の言葉の使い方(ワーディング)を理解し、それに習熟しておくことが必要です。

「広げる」ワーディングのバリエーション

言葉遣いに関し具体的に理解していただくために、「論点」「意見」「根拠」「情報」それぞれについて「広げる」際に使うワーディングをご紹介しましょう。よく見ていただくとわかりますが、それぞれ広げる方向を示唆する言葉を質問のセンテンスの中に織り込んでいます。

(1)論点  論点を明示したうえで、他の論点があるか?尋ねる、論点を提示する
・今の話は□□という論点だと思いますが、他に考えなければいけないことは無いですか?
・他に△△という論点もあると思いますが、それについては?
・全く違う論点の方はいませんか?
・逆に○○といった点を重視すると反対の意見もあると思いますが・・・

(2)意見  論点を示したうえで、反対の主張・別の主張を求める
・○○だから賛成という意見ですね。逆に反対という意見はありますか?
・もし○○という制約が無いとすればどうでしょうか?
・○○だから反対、という考え方も当然あり得ると思いますが・・・
・○○さんの立場からすると、違ったご意見になるかと思いますがいかがですか?
・発想を広げるために、あえて反対の立場に立ちますが・・・

(3)根拠  論点と結論を示したうえで、別の理由付けを求める
・○○だから賛成という意見ですね。賛成の理由は他に考えられませんか?
・○○だから□□だ、ということですが、たとえば△△だから□□だ、ということは言えませんか?
・○○の立場にたってみると別の理由も考えられませんか?

(4)情報  前の情報を位置づけたうえで、5W1H等の軸を使って具体的情報を引き出す
・A支店では○○だということでしたが、B支店ではどうでしょうか?
・前はそうだったということですが、最近ではどうですか?これからはどうですか?
・たとえば○○といった状況ことは無いですか?

いくつか典型例をお見せしましたが、これらを丸暗記する必要はありません。大事なことは「方向付けを意識し」「その方向を指し示す質問を自分で事前に考えてみる」ことです。

こうした例を参考に、是非、皆さんなりに質問のワーディングを工夫してみてください。きっと言葉が人の思考に与える影響の大きさと、その面白さを感じていただけると思います。

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