議論をさばく(2)さばきの基本動作 (1)発言を引き出す 

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前回は、議論の現場でファシリテーターが果たすべき、「さばき」について概観し、その基本動作のプロセスとして以下の4段階を紹介しました。(1)発言を引き出す(2)発言を理解し、共有する(3)議論を方向づける(4)結論づける。今回は、その第1段階「発言を引き出す」につき、考えましょう。

議論において、放っておいても参加者が活発に発言するのであればよいですが、誰も口火を切らず、なかなか発言が出ない、出ても続かないこともあります。また活発に意見が述べられている裏で、一部の人がほとんど発言しないままでいることもあります。こうした状況でファシリテーターは何を考え、どう行動すれば良いのでしょうか。

発言する意欲を高め、躊躇する原因を取り除く

まず、参加者が発言しないのにはどういった理由があるのでしょうか?ひとつは「発言する意欲が低い」場合です。「そこで議論する内容に興味が無い、自分には関係無いと思っている」こともありますし、「言いたいことがあっても、その場で自分が発言することに躊躇する何らかの理由がある」こともあります。

前者の場合、本当に関係が無い人を議論の場に呼んでしまったり、定例の会議の場で多くの人にとって関心の薄い議題を取り上げてしまっているといったこともありますが、本当は参加者にとって関係、関心がある議題なのに、それが参加者に理解できていないということがよくあります。一例として、ある外食チェーンで店内での接客の問題について議論しているとしましょう。店長や店員の教育担当などにとっては興味関心がある話題ですが、たとえば店舗の設備の担当者にとっては、自分はあまり関係ないと考えるかもしれません。しかし仮に店舗での接客の善し悪しが、店舗のレイアウトや設備の使いやすさに大きな影響を受けているとすれば、そこには強い関係があります。こうした場合、話の冒頭に設備の担当者がなぜこの場に呼ばれていて、どのような関係があるのかを議論の最初に触れておく、関係が理解しやすい論点から議論を始めるなどの工夫が必要です。

一方、本当は言いたいことがあるのに、発言しない場合、参加者が自分の立場を気にしていたり、他の特定の参加者との関係性に配慮した結果として発言を躊躇することがあります。もしくは、自分自身の発言に自信が無い、自分の言うことなど重要ではないと思っている場合もあります。いずれも、まずは発言を躊躇する原因を取り除く努力をすること、また一人ひとりの発言には十分な意義があり、議論に貢献できるものだということを理解してもらうことが重要です。たとえば、「(自分の立場で反対意見を言うと自分勝手だと思われるのではないかと感じている人に対して)○○さんの立場からすると、この案には当然懸念を感じると思いますが、あえて挙げるとするとどうでしょうか?」「(上位者の前で意見が言いにくいと感じているジュニアなメンバーに対して)常に最前線でお客様に接している皆さんの意見を聴きたい」「(異動したてで状況がわからないので発言を躊躇する人に対して)まだ当部の状況を知らないフレッシュな目で見て気付いた点をあげて欲しい」などです。もしくは単純に、「○○さん」と名前を呼ぶだけでも「あなたに発言して欲しいのだ」という気持ちを伝えることができるでしょう。

発言しやすくするための刺激を与える

もう一つ、発言する意欲はあっても、「何を発言してよいか判らない」ために意見が出ないこともあります。多くの場合は「問いが大きすぎる」「どこから議論を始めればよいかわからない」もしくは「ここでどんな意見が期待されているのかわからない」といったことが原因です。

たとえば部門の会議でいきなり「わが社の現状についてどう思いますか?」と聴いても、聴かれた側は、とっさに何をどう答えたらよいかわからないでしょう。こうした場合は、「何のために、何について、どのレベルまで、どのように」議論するのか?を具体化し、発言のヒントやきっかけを与えることが効果的です。たとえば、「今日は結論を出すことが目的ではなく、まずは皆さんの認識を揃えるために」「部の売上が低下していることに対して皆さんが率直に感じている原因について」「それがどのくらい一般的かには拘らず」「まずは可能性のあるもの、関係しそうなことをざっと挙げてみる感じで」といった感じです。

また、考え、答える範囲が広すぎると、「まとまった意見を言わなければならない」と感じて発言しづらくなるものです。「まずは賛成か反対かの結論だけ」「意見は別として、検討すべき点に絞って」などと、そこで考えるべきこと、答えるべきことを絞って意見を聴くようにするとよいでしょう。

特に大きく複雑な話であったり、参加者がその件に関して十分な知見や経験が無い場合などは、意見を出す上での「論点や切り口を示す」ことも効果的です。たとえば、「この新しい開発プロセス案について、【効果と効率の面から】意見をいただきたいのですが」「ここでは【新製品開発の意思決定プロセスに沿って】それぞれ課題を洗い出してみましょう」などです。

ある意見に対して、別の意見・反対意見を求める場合には、それをはっきり示すと効果的です。たとえば「Aが重要な検討課題だ、という意見でしたが、他に検討すべき点は無いですか?」「ここまでは賛成という意見が多かったですが、逆に反対だという意見はありますか?」「効果的だという点から賛成だという意見が多いようですが、実行できるかという点から懸念はありませんか?」「賛成という意見が多いようですが、決める前に懸念を洗い出し確認したいので、あえて反対という意見をぜひ出してみてください」といった感じです。特にその場の空気が「賛成」に傾いている場合は反対意見が言いづらくなっているので、言いやすくする一言を加えると効果的です。

「話す内容や説明の仕方、意見を出すレベルを具体的に提示」するやり方もあります。たとえば、「A、Bどちらの案がよいかの結論と、その案を推す理由を述べてください」「実際に何が起きているのか、状況をできるだけ具体的に教えてください」「まずは考えられる原因をできるだけたくさん洗い出してみよう」などです。

さらに「より具体的な状況を示し、イメージを刺激することで発言を促す」ことも効果的です。たとえば「あなたがこの件をお客様に説明するとしたら、質問されそうなことは何でしょうか?」「仕事を依頼する場面をイメージしてみて、もっとこうして欲しいと感じることは無いですか?」などです。

一歩進んで、「仮定によって制約を外して意見を言いやすくする」という手法もあります。たとえば「仮に予算の制約が無いとして、効果的だと思う案は無いでしょうか?」「今進んでいる検討項目は一旦忘れて、そもそも何を検討することが必要か?と考えて見るとどうでしょう?」といった感じです。

「本当に聴きたい」という想いと姿勢が重要

発言を引き出すためには、上記のような様々な工夫や手法がありますが、最も大事なことは、ファシリテーター自身が心から参加者の発言を聴きたいと想い、それをしっかり態度で示すことです。ファシリテーターという立場でよくやりがちなのは、意見を求めているのに話し手の方を見ていない、発言に対してしっかり聴く姿勢を見せない、参加者が話し始めたとたんに口を挟んでしまう、といったことです。ファシリテーターは議論に参加しながらも、「この論点は今議論すべきことだろうか?」「他の参加はどう感じているだろうか?」「この先議論をどこに向けていこうか?」など様々なことを考えています。また、事前に話の論点や意見をよく考えていると、出てくる意見が自分にとっては既知のもののように感じられることも多いのです。こうしたことがあるために、ファシリテーターが参加者の発言にしっかり向き合い、聴くことは意外と難しいのです。

次回はこの「参加者の発言を理解し共有する」について考えてみたいと思います。

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