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子どもたちに、春を届ける スプリックス 平石明さん

投稿日:2008/10/28更新日:2019/04/09

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スプリックスは、生徒数日本一の読書教育プログラム「グリムスクール」を開発したことでも知られる総合教育企業だ。シニア教育事業やデータベース開発、デジタルコンテンツ事業にも参戦し、売上高は20億円以上に達した。

その中核事業である個別指導塾「森塾」は、首都圏19教室を中心に27教室を構え、現在小中高生8000人が通っている。

勉強はできない。スポーツもどちらと言えば苦手だったりする。好きな子がいても、「自分なんか」と告白できないでいる。『ドラえもん』の、のび太君のような存在。創業11年目の森塾は、進学塾の網の目からこぼれていた、そんな子どもたちを支援する。

「自信を無くしている子も、成績という目に見える成果を上げ、『やればできる』という手応えをつかむと、色々なことに積極的になれる。単純なようですが、成績を通じて得た自信が、その子の将来の選択肢を広げてくれるんです」。創業者で社長の平石明さんはそう語る。

いわゆる進学塾とは違い、「○○高校○人入学」などの看板は掲げない。その代わり、森塾が守り続けている約束が、ある。「学校の成績が上がらなければ授業料を無料にします」。

中学生を対象に、入塾後2学期間で、各教科のテストが60点以下ならプラス20点、60点以上なら80点以上の点を保証する。成績が上がらなければ、3学期目の授業料は無料にする。無料になる生徒は毎学期、非常に少ないという。

個別指導塾は、講師の多くが学生アルバイトで、指導力に限界があるといわれる。森塾が成績保証制度を可能にしているのは、教務の徹底したマニュアル化による。教科書ごとにテキストを作成し、解説、類題、宿題の流れを固定。解説部分はそのまま読めば生徒が理解できるようまとめられている。さらに優秀な講師の教え方やほめ方などまで分析、コミュニケーション方法まで学ぶことで、誰が教えても一定のレベルの指導ができる仕組みを作り上げた。

「森は人間が美しいと思う花や蝶も見守るけど、ゲジゲジや苔も大切にしますよね。すべてに恵みを与えてくれる。そんな塾にしたかったんです」。森塾の名前に込めた想いの源流は、学生時代のアルバイトにある。

研究者の卵からの転身

工学部で材料開発の研究に明け暮れる毎日だった。午前8時から夜中の2時まで研究室にこもる。クラスメートの8割は大学院に進学、残りの学生は大きなメーカーなどに就職する。自分は周りより秀でているわけではない。研究者としては向いていないのではないか。そんな想いを抱えていた。

人生を左右したのは、家庭教師のアルバイト。中学2年生の男の子だった。あまり勉強が出来ず、引っ込み思案。すべてに自信を無くしている様子だった。ところが、成績が少しずつ上がるようになると、見違えるほど前向きな性格に変わっていく。「教育を通して、人生にこんなにもインパクトを与えることができるんだ」。驚いた。

卒業して塾講師になった。教えるのが楽しくて仕方がない。子供も敏感に感じ取るのだろう。「分かりやすい」「面白い」という評判にもつながった。疲れていても、嫌な事があっても、仕事にいくとなぜか元気になる。「こんなに楽しいことでお金をもらえることにビックリしました。しかも、子供たちから感謝までされるんですよ」。

首都圏の大手進学塾も含め、3校を渡り歩いた。どこでも人気講師となり、トップクラスの生徒を教えるようになると、「どこか違う」と感じ始めた。「優秀な生徒は誰が教えても出来る。私じゃなくてもいいんじゃないか」。家庭教師をしていた時に味わった、子供の人生が目の前で変わっていくリアルな体験が、忘れられなかった。

起業を通して自分の生き方問う

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起業を思い立ったのは、30歳の時だった。父の死をきっかけに、考えた。自分もいつか、必ず死ぬ。生きている意味とは何か。違和感を抱えたまま塾講師を続けていくことか。それが自分の生き方でいいのか――と。

父は根っからの商売人。ビジネスが立ち行かず引っ越したこともある。「デフレに気をつけろ」。まだ小学生のころだったろうか。一緒にTVのニュース番組を見ていて、そんな風に父がつぶやいたのを覚えている。

「世の中厳しいぞ」。父は口癖のようにそう言っていた。だが、自分の中で挑戦への意欲がわき上がるのを、抑え切れなかった。「自分の生き方を起業を通して問うてみたい。何かにつまずいている子や自信のない子に光を当てる塾を開く」。

起業やビジネスに関する本を買い集めた。仕事と食事、睡眠の時間以外、ふとんの中で、机に向かって、時には歩きながら、ビジネスについて考える続ける毎日。妻の里美さんが、邪魔をしてはいけないと思い、話すことをメモにまとめてから話しかけていたほどだ。

1冊の本が目にとまった。『ケースで学ぶ起業戦略』。打って出る市場を決め、徹底的に経営資源も集中すること。本のメッセージが腹に落ちた。ふと裏をめくってみると、ハーバード・ビジネススクールのメソッドを使ったマネジメント・スクールの紹介が載っている。場所は東京。「ここに行けば起業のヒントが見つかる」。何か直感のようなものを感じた。

経営の理論やフレームワークは本でも学べるが、講師の実務家たちに、自身の事業モデルや疑問をぶつけられることが何より役立った。新幹線で東京に行き、午後9時ごろ授業が終わると、午後11時までクラスの懇親会。夜行列車「北国」に飛び乗り、新潟に明朝到着、そのまま寝ないで出社する。そんなハードスケジュールも気にならなかった。

テキストに出てくる、一つひとつの言葉が血肉となっていく。ソフトバンクの孫正義社長の「7割いけると思ったら勝負しないといけない」という一言は、今でも覚えている。

「当時8割方うまくいくと考えていましたが、あと1年遅らせれば10割行けると思っていたんです。ところが孫さんは7割で勝負しろという。ひょっとしたら遅すぎるかもしれないと焦りましたよ」

勝負の舞台に選んだのは実家があり土地勘のある新潟市ではなく、当時人口18万人の長岡市。「この規模なら一発で勝負をつけられる」。貯蓄などで工面した資本金1000万円のうち900万円を新聞の折込み広告に使った。「普通だったら広告にここまで突っ込むなんて有り得ないでしょうね。駄目だったらそれまでだと覚悟は決めていました」。

10坪ほどの小さな事務所を借り、チラシ作りから始めた。「先生1人に生徒2人まで。私に合わせて教えてくれる」とだけ記した。「○○高校を目指す」といった表現はやめ、名前も経歴も載せなかった。

チラシが家庭に配布される当日。ここ数日緊張が高まり、ほとんど眠れない日々が続いていた。充血した目で、電話をにらみつけた。鼓動が速い。「考え抜いたビジネスプラン。絶対に成功するはずだ」。

どれくらい待ったろうか。電話が、鳴った。

その日、30件以上の申し込み。最初の関門を、突破した。

誰でも“ベテラン講師”になれる仕組み

「ECPチェーン」。スプリックスの強さを物語る際のキーワードだ。従業員(Employee)の満足が、生徒(Customer)の満足を生み、会社の利益(Profit)につながる。その好循環を回すシステムは、組織が成長していく中で、現場から生まれた。

申し込みは次から次へとあった。とても対応しきれなくなり、「定員です」と断ることも。生徒数は200人に達し、雇ったバイトの学生は20人を超えた。

生徒の数が増えていくと、課題が浮かび上がる。講師1人に生徒2人までの指導形態のため、生徒が増えれば増えるほどアルバイトの講師が大量に必要になるが、優秀な学生が集まらない。地元に大学が少なく、学力のレベルもあまり高くなかった。生き抜くために、誰が教えても成績が上がる仕組みを、作らざるを得なかった。

優秀な講師、そうでない講師の後ろにじっと張り付き、何が決め手になっているのか次々とメモをしていく。教え方だけでない。言葉のかけ方などコミュニケーションの仕方まで、生徒が伸びる条件を洗い出していった。今まで一部の講師の属人的なノウハウだったものを、誰もが身につけられる知恵へと、昇華させていった。

「いわゆるマクドナルドのようだと言う人もいますがちょっと違います。マニュアル化されているのは6-7割。例えば話す順番は決まっているけれど、『ここであなたの思いを語ってください』という風に、自分の個性を出せる仕組みになっているんです」。

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情熱のマネジメント

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最低限の指導を担保すると同時に、教える側のやる気と満足も引き出す両輪のシステムを創ったのは、教育の世界では講師の情熱が不可欠との信念が、あったからだ。

個人のやる気の問題と思われがちな「情熱」さえ、システムで生み出すようになった。

徹底した講師の満足度調査を行った。やりがい、お金、楽しさ、人から認められる、仲間がいる……。各校舎で、講師のやる気の源泉になる要素の満足度とその重要度を調べた。校舎ごとに何が重要視されているのか把握し、生徒の成績との伸び率との関係をみる。すると、「やりがい」が重要視されている校舎ほど成績の伸び率も良いことなど、どの要素を高めていったらいいのか、見えてきた。

「成績を上げる事で生徒の選択肢を広げよう」。何のために自分が子供の前に立つのか思い起こすために、講師は毎朝、そう唱和する。飲み会などのコミュニケーションも盛んで、注いだり注がれたりの「気配り」を大切にしようと、最初は瓶ビールと決まっている。泥臭いかもしれない。けれど、情熱を生み出すには、こうした仕組みも必要だ。

「個人の能力や性格に頼らず、統計的に全ての要素を把握してモチベーションをコントロールする。一方では、情熱を喚起する仕組みをマニュアルや日々の仕事、コミュニケーションの中に埋め込む。この両輪が大切なんです」

正社員の離職率は他の学習塾に比べても低く、「生徒の人生に貢献し続けたい」と、バイトから正社員になる学生も多い。

春を届けるバトンリレー

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長岡で足場を固めると、4年後には新潟市に2校目を開校。04年には首都圏に進出を果たした。塾の運営が安定してくると、パイオニアなどと連携しインターネットを使ったe-learingを始めたり、お笑いの吉本興業とタッグを組み楽しく学ぶDVDを作ったりと、教育をドメインに新しい事業を次々と展開してきた。

ゲーム方式で楽しみながら読書する「グリムスクール」は、活字離れが進む子どもたちに、大好きな児童文学の楽しさを伝えたい、という想いから生まれた。今では教育大手のベネッセと組み、全国に1000教室以上を開校している。

相性が問題となる講師と生徒の組み合わせや授業のコマ割り、生徒や講師の満足度などを管理するデータベースも開発。06年から教務テキストとデータベースの販売を始め、全国約700の塾で利用されている。

多くの人に新しい春(spring)をもらたす、というスプリックスの理念は、その仕組みとともに、全国へと広がっていった。

ビジネススクールで出会い、都銀の本店営業から転身した副社長の常石博之さん(37)も理念と仕組みのセットにひかれた一人だ。「『日本中の出来ない子どもたちに自信をつけてあげたい』とか平石は熱く語っていました。共感はしたけど、中小企業のおっさんの夢ぐらいにしか思いませんでした。でも実際に塾を訪ねて見ると、その想いを実現する仕組みが精密に出来ている。本物だと。一緒にやってみたいと思ったのはそのときです」

常石さんをはじめ、ビジネススクールで出会った仲間とは、今でも交流がある。長年付き合う中で、気が付いたことがある。

「自分より頭がいい人がホントにたくさんいます。与えられた課題を解決し、あらゆる情報から適切な意思決定をするプロの経営者になれる人たちです。自分は違う。好きなことを仕事にしたから、能力を120%発揮できた。今でもいっぱいっぱいです(笑)」

だから、2人の子どもには、三つのことを伝えている。好きなことで食べて欲しい。出来れば十分に食べられるといい。そしてその仕事が人から感謝される仕事であってほしい。

「自分の世界」を切り拓くことは簡単ではない。好きな事自体が見つからずに、惑う人も多い。「それでも」と、平石さんは言う。「嫌いじゃない事を一生懸命やるんだっていいじゃないですか。お客様やチームのメンバーと楽しみながら一緒に汗を流すことで『想い』が深まることだっていっぱいありますよ」。

「長岡に留まっていた方が、経済的、時間的にも豊かな人生が送れたと思います。でも日本中、そして世界中の子どもたちに、やれば出来るという自信を提供したいという想いが勝ちました。楽しくて仕方がないんですよ。今は、教育格差の大きい中国への進出も本格的に検討しています」

新潟県の片隅で生まれた春を届けるバトンは、全国を巡り、近い将来、海を越える。

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