参加者の状況を押さえる(2) 

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前回は参加者の状況を把握することの重要性と、その中でもファシリテーターがまず着目すべき「認識レベル」について考えてきました。今回はさらに「意見・態度」について見ていきましょう。

議論の現場では様々な意見が出ますが、一つひとつの意見をその場で理解し、適切に議論をさばくのは難しいものです。このため、事前にどういった意見が出るのか? 特に賛否が分かれるポイントはどこか? 逆に意見に相違がなく議論する必要がないポイントはどこか?を予測しておくことが重要です。詳細はこのあとに行う「議論の仕込み」で考えますが、まずは参加者をイメージし、議論の概略をイメージしておくと良いでしょう。

意見の違いを考える際に、「賛成・反対」といった意見そのものを予測することはもちろんですが、そこに止まらず、もう一歩、二歩、「なぜ賛成/反対なのか?」を考えることが重要です。

その際、漠然と考えるのではなく、
(1)どこに賛成・反対しているのか?という【賛否の対象】
(2)どういった理由で賛成・反対なのか?という【賛否の理由】
(3)参加者がそのように考えるに至った【賛否の背景】
という3つの視点を持って考えてみると良いでしょう。以下、それぞれ少し詳しく見ていきます。

賛否の対象を把握する

最初に、「どこに賛成・反対しているのか?」という「賛否の対象」を考えます。ちょっとわかりづらいかもしれませんが、一口に「ある提案に賛成・反対」といっても、どの部分には賛成でどの部分には反対なのか?は人によって様々です。

仮に、ある商品の売れ行きが芳しくないので、それに対する対応策を議論するとしましょう。ある人は「もっと機能を充実させるべきだ」と言い、またある人は「もっと機能を絞りこんで価格を下げるべきだ」と言っている。一見、「打ち手に関しての意見の相違」のようですが、このように意見の違いの距離が大きい場合、実は「打ち手そのもの」の意見の相違というよりは、もっと別のところに違いがあることが多いのです。

たとえば想定しているメインターゲットの顧客が異なっていて、ゆえにそれぞれ顧客が求めていると考えるものが異なり、結果として打ち手が異なっている、などです。この意見の違いを乗り越え、合意に至る実質的な議論をするためには、「打ち手」ではなく「ターゲット顧客は誰か?」という賛否の対象についてまず議論し、認識を揃えるところから始める必要があります。

より一般化して考えてみると、あるアクションの提案について違いが生じる「賛否の対象」は、
(1)そのアクションの提案が解決しようとしている問題自体がそもそも取り組むべきものなのかどうか?【問題意識】
(2)どこが最も解決すべき部分なのか?【問題箇所の特定】(上の例はこのあたりの違い)
(3)その問題がなぜ起きるのか?【原因の特定】
(4)原因を解決するためにどういったオプションがあり、そこから何を選ぶのか?【打ち手】
が考えられます。たとえばこれらをチェックリストとして、「どの部分に違いがあるのか?」を考えてみるとよいでしょう。実際の議論では(4)に違いがあるのは実は(3)が異なっている、さらに(2)や(1)が異なっていることがとても多いのです。そして同時に話し合いの中で参加者自身もそれに気づかないまま議論をしており、何が噛み合っていないのかわからない状態でムダが議論に時間を費やし、かえって対立・混乱が激化してしまう、というわけです。

賛否の理由を考える

ここまで見てきた「賛否の対象」は、人が結論を出すまでに意識的・無意識的に踏むプロセスに着目したものですが、最終的にあるアクションの提案に対して直接的な賛成・反対の理由を考えることもできます。

たとえば「売上拡大を目指すために、いくつかの営業チームから数人ずつを出して、新たに新規顧客開拓専門チームをつくる」という提案があった場合、どんな反対の理由が考えられるでしょうか?

まず「売上拡大のために、今、優先順位が高いのは新規顧客開拓ではなく既存顧客の深耕なので反対」という意見が考えられます。要するに【やるべきではない】から反対ということです。もしくは(直接口に出して言うかどうは別ですが)「自分はあまり新規顧客開拓業務に興味が湧かない」、「今のチームの人間関係がよく、新たなチームで一緒になる人とは相性が悪そう」といった理由も考えられます。これは要するに、【やりたくない】という理由づけです。さらに、「新しいチームをつくる方針自体には賛成だが、自分のチームはただでさえ人手不足で新チームに人を出す余裕がない」という反対理由も考えられます。つまり【できない】から反対ということです。

加えて、そもそもの提案されているアクションの狙い・目的や、それが必要とされている状況認識が具体的に理解できていない、もしくはそのアクションがもたらす具体的な影響度が正しく伝わっておらず、本当はたいした悪影響が無いのに、過度に時間や資源がかかるなどネガティブなインパクトがあると感じてしまっている場合もあります。これは「認識レベル」の問題でもあるのですが、要するに話自体がよく【わかっていない】ので反対、というケースです。

ビジネスにおける賛成・反対の理由にはいろいろなものが考えられますが、この「やるべきか?・やりたいか?・できるか?」+「わかっているか?」をチェックリストとして考えてみると、賛否の理由を幅広く洗い出すことができるでしょう。

賛否の背景を考える

あるアクションの提案に対して「やるべきだ」「やるべきではない」といった異なる意見が出てくる理由をさらに考えていくと、判断の際に何を重視するのか?という価値判断の軸や優先順位が異なっていることが多いものです。たとえば顧客に近いところで仕事をしている人は「売上が上がること・顧客に喜ばれること」などを第一に考えることが多いでしょうし、逆に生産に従事している人は、「品質を安定させること・効率を高めること」などを重視して判断しがちです。こうした価値観の違いは個人的な属性によるものもありますが、参加者それぞれが背負っているミッションや自分の仕事が何によって評価されるのか?といったことに強く影響を受けています。つまり「立場の違いが価値判断の違いを生む」わけです。

実際の議論においては、立場とそれに紐づく価値観の違いが対立の根本原因になることが多いものです。特に参加者はそれぞれ自分の立場の見方で判断をしているのですが、それを過度に一般化してしまい「こう考えるのが当然だ」と思い、自分の見方以外の判断基準が存在すること自体に気づいていないことが多いこと。また異なる立場をイメージし、その立場では何を重視すべきか?を考えることが難しいからです。結果、自分と異なる意見に対し、「なぜこんな当たり前のことが理解できないのだ」と苛立ち、しまいには、「やつらは何も解っていない」と組織的・感情的な対立にエスカレートさせがちなのです。

逆に言えば、ここにこそファシリテーターが存在価値を発揮できるポイントがあります。特に立場の違いから複数の価値判断があり得ることを理解すること。そしてその「複数の価値判断の軸が存在しうること」を認め、参加者それぞれの判断軸を相対化して示すこと。そのうえで、立場の違いを超えて合意できるポイントは何か?に向けて参加者の思考を導く働きかけを行うことが有効です(実は、実際には価値判断の軸の違いがそのままあったとしても、「自分の立場から生じる価値判断の存在自体に理解を示してもらえた」という安心感を与えるだけでも、参加者の多くは合意に向けて努力しようとしてくれることが多いものです)。

明確に口に出ない「態度」を感じ取る

前段で述べた「意見の背景」のようなものが、実際の議論の中で明確に「意見」として示されることは、稀なことです。これらはむしろ、議論の中で参加者が示す「態度」に表れることが多いものです。それは「明確に根拠を持って主張できる合理的な意見」というより、「積極的に賛成したい思う前向きな気持ち」、「どうも結論に違和感を覚え、納得しがたいという反感」などの感情として認識され、意思決定に直接・間接に強く影響を与えています。

加えて、「その件について強い関心があり、積極的に意見を述べたいと感じる」、「ほとんど関心がなくどうでもよいと思っている」といった議論への参加度合いに関する態度もあります。こうした態度は本人が口に出して言うことはあまりないため、明確に認識、理解することは難しいものです。またそうした態度を感じ取っても、そこに直接、言及されることを多くの人は嫌うため、扱いが非常に難しいものです。

こうした態度については、態度そのものを問題にするより、その態度の根底にある参加者の置かれた立場や状況をイメージし、感情移入して考え、感じるように努力するとよいでしょう。そうすると一見感情的、不合理に見えた態度の理由が理解でき、対応の突破口が見えることが多いものです。そして、その立場や状況であるからこそ感じる懸念や不安をまずは認め、共感すること。そしてその懸念を解消するためにどうすればよいか?を考え、そこに働きかけてみるとよいでしょう。

「参加者の状況を押さえる」視点として、ここまで「認識レベル」と「意見・態度」の両側面を見てきました。次回はこのパートの最後として、議論の内容からは少し離れ、参加者個人の特徴や参加者相互の関係について考えてみたいと思います。

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