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【日経コラム】モチベーションは上げなくても良い

投稿日:2017/05/24更新日:2019/04/09

「モチベーションを上げる方法はありますか」とよく質問される。ビジネススクールの経営やベンチャーキャピタルの投資、プロバスケットボールチームの支援など、多方面で活動しているから、その原動力がどこから来るのか不思議に思われるのかもしれない。

「モチベーションを上げなければならない段階で、すでに間違っているよ」と僕は答えている。自らを意識して鼓舞しなければならないというのは、その時点で無理がある。「自然とモチベーションが上がってしまう」状態にすることが重要なのだ。

かつてアサヒビールの故樋口広太郎会長は「風船理論」を唱えていた。「人は皆、風船のように上昇したいという気持ちを持っている。ところが、風船に重しがついているから、上がれないのだ。経営の役割は、その重しを取ってあげることだ」というのだ。これはわかりやすい例えだ。経営者の立場では、重しをとってあげて、個人が「自然とモチベーションが上がってしまう」状態をつくりだせばよいのだ。

グロービスでは次の2つのことを社員に言っている。1つは「納得できないことはやらなくていい」。もう1つが「やりたくないことはやらなくていい」。この2つはある意味で真理をついていると思う。納得できないことをやって失敗すると「やはり自分の考えは正しかった」と、失敗したことを正当化する。一方、やりたくないことには力が入らないし、ミスもしやすくなる。周囲の士気にも影響を及ぼす。

リーダーの立場では、社員に命令して嫌々動いてもらうよりも、社員が納得して「自然とモチベーションが上がる」仕事に専念してもらう方が賢明なのだ。風船を一生懸命に上げる努力をするよりも、自然に上がりたいという状態に持っていくことの方が楽なのだ。

一方、個人の立場では「自然とモチベーションが上がってしまう」ことを探す必要がある。これがなかなか難しい。僕自身も、モチベーションが上がらないときがあった。自分が方向感覚を失い、何をしたらいいか分からないときが一番つらいものなのだ。僕も大学時代、体育会水泳部を1年生のときにやめた後は方向感覚をなくして、自暴自棄となった。結局2年生のときに再入部した。米ハーバード大学経営大学院への社費留学を終えて商社に戻った直後も、明確な方向感が定まらない時期があった。立ち止まって悩んでいるだけの状態は苦しい。だがそんなときに自分から動き、モチベーションが自然と上がる対象を探す努力をした。それが今の自分につながっていると思う。

では、どうやって「モチベーションが上がること」を見つけるのか。ヒントは2つあると思う。1つ目は自分が楽しいと思うことをすることだ。自然と没頭してしまう活動、心から会いたいと思える人との面会の約束、好奇心を満たしてくれる場所への訪問など、楽しければ自然とモチベーションは上がる。

2つ目はもっと長期的に、自分が生きていくための使命を考えることだ。自分が何のために生まれ、何をこの世で実現したいのかを考え続け模索することだ。自分自身がやりたいことが見つかると、内面からものすごいエネルギーが生まれてきて、どんな困難をも楽しみながら乗り越えられるようになる。

一方、自分がやりたくないことをやらされると、自分の頭と心が納得していないからか、小さな障害に当たってもすぐに「やーめた」となってしまう。逆に自分が使命感を持って取り組んでいることでは、どんな困難にぶつかっても何の苦にもならないものだ。

モチベーションは上げなくてもよいのだ。自然と上がる状態にすべく、自らが探し求め、楽しみながら実践すればよい。すると風船は、まっすぐに天に向かって力強く上昇する。

※この記事は日経産業新聞で2017年5月19日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

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