最終回となる今回は、丸井グループ代表取締役社長の青井氏、セブン&アイ・ホールディングス 取締役常務執行役員の伊藤氏、ヤフー株式会社 執行役員の小澤氏の3氏が、会場内に陣取る同業の論客たちからの鋭い質問に全力で答えます。(最終回/全3回)※第1回はこちら/第2回はこちら
コマース革命で日本が世界の模範となるために、企業はどう動くべきなのか[3]
岡島悦子氏(以下、敬称略): 10年後の姿みたいなものがだいぶ見えてきたように感じる。では、ここで一旦会場とのやりとりに移って、そのあと最後に「日本が世界の模範となるために」といったお話にも少しつなげたい。
会場(石川康晴氏:株式会社ストライプインターナショナル代表取締役社長): 2つお聞きしたい。今当社はファッションレンタルというものにチャレンジしている。10年後のライフスタイルとして「これは買ったもの。これは借りたもの」という風に混ざっているような社会をつくろうと思っているところだ。そこで、まずはレンタルという概念が10年後に浸透しているかどうかについて。それともう1つは月額6000円という我々のサブスクリプションについて。この金額はすごく高いハードルだと思う。990円ぐらいならなんとかオーガニックに成長してソーシャルフィットしそうだけれども。なので、金額に関することと、そして新品か中古を買うという市場しかないところに日常着レンタルでマーケットをつくっていけるかどうか。僕たちはそれをつくろうと思って果敢に投資しているけれども、この2点について伺いたいと思う。
ファッションレンタル月額6000円は、高いか安いか?
岡島: ちなみにストライプさんのレンタルはそのまま買い取ることもできますよね。
石川: 当社のレンタルはすごく珍しくて、中古を回していない。もともとSPAとして服をつくっているので、新品をお貸しして、それで気に入れば買っていただくし、気に入らなければ返却していただく。で、そのあとは新古服としてスピーディーに割引販売していく。新古服で返ってくるから30~40%オフでも換金できる。それで少しずつ価格を下げて、最後はZOZOですべて売ってしまう、と。なので、すでにマネタイズの見通しは立っているけれども、そもそも10年後にレンタルを着るような社会になっているのかな、と。僕たちはなると思っているけれども、御三方のお話を伺ってみたい。
青井浩氏(以下、敬称略): もう完全にレンタルが普通になっていると思う。大規模なアンケートを行ったわけじゃないけれども、身近でいろいろな人に聞く限り、思った以上に多くの人が現時点でレンタルを使っている。訊かないと教えてくれなかったりはする。「レンタル使ってます」と、自分から言いづらいみたいで。ただ、聞くと「使ってますよ?」と。マルチレンタルしている方も結構いる。「洋服とバッグがレンタルで、サブスクリプションはアレとコレで」みたいな。気がつけば、今でもそういう方が相当いらっしゃる状態だから、将来は相当普及していると思う。
あと、サブスクリプションについては、先日、面白いやりとりがあった。ブランドバッグのレンタルサービスが月額7000円と聞いて、僕は当初、ちょっと高いのかなと思って「年間8万4000円だと結構高くないですか?」と聞いたら、「え? 月7000円っていう数字しか見てませんでした」と(笑)。なんというか、ビジネス側のロジックと消費者の方の印象というのは少し違うのかなと思った。
実際、アメリカでは高級ブランドを対象にしたレンタルサービスの「Rent the Runway」が有名だけれども、最近出てきた「LeTote」は完全に普段着を対象にしている。で、「Rent the Runway」も今は普段着をどんどん扱いはじめている。本当に大きく普及していくんじゃないかなと思う。
伊藤順朗氏(以下、敬称略): 会社では、たとえば赤ちゃん本舗についても「ベビーカーやベビーベッドだけを売っている場合じゃないだろう」ということは言っている。で、ファッションのことは私も分からないけれども、月額6000円が高いかどうかは商品次第だと思う。それに見合うだけの魅力が商品にあるかどうか、と。あと、人というのは習慣化するまでに結構な時間がかかる。なので、レンタルが習慣となっていくような方がマスで考えたときにどれほどいるか。釈迦に説法だと思うけれども、その辺を見極めることが大事になるのかなと思う。
小澤隆生氏(以下、敬称略): 石川さんがやられる以上はすべて成功すると思うけれども(会場笑)、基本、日本だけじゃなく世界的に見ても、リースやレンタルは高価なものからはじまる。不動産しかり、車しかり。逆に安価なもののリースって、あまり成立してない。となると、このあたりは価格戦略と相まってくるとは思うものの、特にキャリアのサービスではバンドルになる。たとえば何かの不動産物件で「ファッションレンタルが付いてきます」と、家賃の中にめり込ませてしまうパターン。この場合はクローゼットにいつもお洋服が入っているけれども、こうなると自分が6000円払っているのか家賃を払っているのか分からない、と。だから、一般的に言うと安価なモノのレンタルは単体サービスとして成立しづらい一方、安価であればこそ、逆に月額6000円というのをよく分からないところにめり込ませるというパターンは1つあるかもしれない。
それとサブスクリプションが日本ではあまり成立しないのかというと、まったくそんなことはない。我々にとって最も身近なサブスクリプションは電気・ガス・水道。これらは従量課金まで含まれている。月額1500円を払って、さらに使った分だけお金を取られる、と。「サブスクリプションモデル+従量課金」がすでに成立している。つまり、インフラになれば皆さん払うわけだ。なので、お洋服もなんらかの形で普及させてインフラにしてしまう。下着や靴下といったインフラに近そうな雰囲気のものからスタートしていくと…。消耗品的なものから。そういうところから入ると多少いけるのかもしれない。その辺はマーケティング戦略と商品戦略という2つの話をかませていくと必ず成立すると思う。
「破壊的な」アマゾンに対して、どう対抗していくか
会場(後藤玄利氏:ジャクール株式会社代表取締役、ケンコーコム株式会社元代表取締役): 以前eコマースをやっていた(会場笑)。eコマースのグローバルNo.1であるアマゾンは、急成長しながらほとんど利益を出していない。しかも、たとえば物流等の周囲からいろいろと“搾り取った”うえで、その生態系を破壊しながら急成長するというストラテジーを採っている。まず、それがそもそも世界の模範になり得るモデルなのかどうかを伺いたいと思う。また、それに代替するものが日本にあるのかどうか。そして、それが中長期的に利益を出せるような構造になっていくのかどうかということも併せて伺いたい。
青井: 僕らが常に考えているのはアマゾンと喧嘩をしないこと。それは「どうやってアマゾンに出せない価値をつくるか」という話だと思っている。その意味で、今後は石川さんもおっしゃっていたレンタルや、その先にあるシェアリングというものが出てくるのだと思う。今は不動産や車からはじまっているけれども、いずれ衣料品のような軽いものというか、消耗品でもシェア等がされるようになると思っていて。逆に言えば、そういうものをつくりだすことが、我々が生み出せる価値やビジネスなのかなという気がしている。
伊藤: アマゾンにドミネートされる領域が、「わざわざ」行う消費なのか、それとも補充系なのかというお話だと思うけれども、いずれにせよオール・オア・ナッシングにはならないのではないか。EC化率が2割になるのか3割になるのか分からないにせよ、先ほどお話しした通り、人と人とのつながりはなくならないと思うので。それともう1つ、物販であれば最後に届けるという部分が必ず付いて回る。なので、その部分の無駄というものを、おそらくは消費者の方々も感じはじめるようになるのかなと思う。
小澤: いくつか視点があると思う。今アマゾンのビジネスが成立している条件の1つに、需要喚起とはあまり関係がないということがある。リアルなお店で見たものをアマゾンで買うというように、需要自体はアマゾンというよりテレビやリアルな店舗に喚起されている。リアルのスーパーマーケットで「あ、あのお野菜、いいかも」という感じには、インターネットではなかなかならない。所詮、数インチ~十数インチの画面内に表示しているので。どれだけAIでレコメンドと言ってみたところで、スマホでは9品目ぐらいの表示が限界だ。それがリアルだと一気に何千品目もの需要を喚起できる。結局、そういう需要喚起や商品選択のところに困難があるから、すべてがアマゾンになったりECになったりすることは絶対にない。ポイントはeコマースで需要喚起というものをどう捉えるか、だと思う。
そのうえで申し上げると、少なくとも小売におけるアマゾンの存在は、今は日本のみならずグローバルで最大の危機になっている。実際、アマゾンは駆逐という形でやっている。「総取りでいくんだ」と。で、それに対して市場も「実際、総取りになるかもしれないぞ?」ということで資金を付け続けているし、株価もそれで成立している。それでたとえば世の中の20%をアマゾンが取るようになったら、広告まで含めてやりたい放題だ。PB化するかもしれないし、そうなると製造業にとっても危機だと思う。
ただ、そこで「危機だからアマゾンをどうにかしよう」という流れがどうしてもできないのは、顧客というか、消費者にとって便利だから。結局、そのバランスが大切になる。アマゾンの対抗軸として顧客の利便性を損なわず、あるいはアマゾンを超えるビジネスをインターネットやリアルで成立させるというのは、ものすごくチャレンジングでして。
まあ、Yahoo!ショッピングはアマゾンとまったく違う方向でやっている。1社が勝つのではなくて…、今は50万店舗が入っているけれども、50万店舗が勝つというやり方になる。だから物流も50万店舗に、マーケターも50万人に分散させるというショッピングモール戦略。これはこれで1つの戦い方かもしれない。で、そこで参考にしているのが「花キューピット」のようモデルになる。1番近くから届くって、すごくステキだな、と。
地域活性化のような側面もある。「少し高くても今すぐ欲しい」というものに関しては、今のままだとアマゾンでも絶対に利益を出せない。ただ、近くのセブン-イレブンからは30分で届く。そう考えると「花キューピット」が1番上手にやっている。九州のおばあちゃんにお花を送ろうと思って東京のお花屋さんに発注すると、九州から送ってくれる。価格は一緒。そういったものが小売で成立しないのかなぁなんて思っている。それで物流拠点を分散させるというのは、アマゾンとは少し違っているのかな、と。そういう物流網をアマゾンは維持できないので。そう考えると、やっぱりセブン&アイさんがアマゾン対抗軸の最右翼かなと思う。なので、(伊藤氏を向いて)なにか(一緒に)できませんかね(会場笑)。
岡島: 距離の概念というのはすごく面白い。
小澤: 僕らはeコマースに地理や土地の概念が必ず入ってくると考えている。「どこから買うか」と「どこから届けてもらうか」がセットになる、と。だって、ヤマト運輸さんが今苦労していらっしゃる問題を見るにつけても、もう明らかにおかしなことになっているわけで。これ以上やろうと思ったら近くから運ぶしかないんですよ。そのうえで、やっぱり送料は粗利にインクルードできたほうがいい。その点、牛乳屋さんや新聞屋さんやピザ屋さんのビジネスが成り立つのは人件費を粗利のなかで処理できている。それなら成立し得ると思うけれども、それは近いから。だから近くから運ぶ。じゃあ、その物流をどう分散させるかというとき、「やっぱりコンビニはすごいじゃないか」と思うわけで。だから、本当にセブン&アイさんは可能性だらけだと思っていて、なんとか…、一緒にやりたい(会場笑)。
コマース革命で日本が世界の模範となるために、企業はどう動くべきなのか
会場(アレン・マイナー氏:サンブリッジグループCEO): 外から日本を見る立場としても、日本企業があまり気づいていない日本企業自身の強みについてコメントしたい。eコマースで世界の模範になろうとするなら、当然、世界に先行する領域がないといけない。この点で、昔から世界に先行していながらも日本企業が自分たちでなかなか気づいていない強みある。メーカーの直接販売だ。その最先端モデルがセブン-イレブンさんのフード。これ、アメリカのほうはマスプロダクションで安く効率良く同じものを延々とつくり続けている。マクドナルドのメニューも30年前とほとんど変わってない。でも、セブン-イレブンのフードは季節ごと、毎週のように変化する。ウォルマートはビッグデータを活用しているグローバル企業として素晴らしいと思うけれども、昔からセブン-イレブンのほうが進んでいる。バスケット分析はじめ、いつどんな品揃えにすれば売れるか、最も世界で知っているのはセブン-イレブン。
一方、アメリカから最近入ってくる、シリコンバレー企業のクリエイティブ広報担当者が思いついた「サブスクリプション」「マルチチャネル」「シェアリングエコノミー」といった言葉には中身がほとんどない。特定のベンチャー1社の成功をきっかけに、たまたまそれを表すキーワードが世界の将来像のように日本にも入ってきて、我々がそれを意識し過ぎる、と。でも世界の模範となるために大切なのは自分たちがリードしていることに気づくことだ。その意味では、メーカーが直接、消費者が欲しいと思うものを、とんでもないバラエティで、かつ効率良く多様な手法で提供している点で、日本は明らかに世界をリードしている。それを世界に知ってもらわなければ。そのためにはソートリーダーシップ(thought leadership)が必要だ。「セブン-イレブンのモデルはすごいな」と理解できるような英語のキャッチフレーズもつくっていく必要があると思う。「日本生まれのこのあり方こそ10年後のeコマースのあり方なんだ」という、キャッチフレーズづくりとコンセプトモーション、そして事例発展によって世界でリーダーシップを発揮する必要があると思う。
岡島: アレンさんのお話も踏まえ、御三方にはそれぞれ締めのコメントをいただきたい。
伊藤: アレンさんありがとうございます。海外の方にも「もっと(こちらに)来ないか」と言われことは多いし、日本へいらしたアメリカの方に「なぜアメリカと日本のセブン-イレブンは違うんだ?」と聞かれたりもする。だから今は我々も海外展開を意識しようとしているし、その点、今日最後に申しあげたいと思っていたこととも関係するように思う。うちのチェーンに限らず、やはり日本企業は垂直統合で精緻なものをつくることに長けている。それと、どうしても「おもてなし」という言葉になってしまうけれども、やっぱり心を込めて接客する点でも強みを発揮できると思う。で、後者をシステム化するのは難しいけれども、前者のほうは、少なくとも当社はできているつもりだ。なので、今後ともそこは海外展開のなかで発揮させていきたい。昨年は招聘を受けてUAEにも出店している。まだ大成功という訳ではないが、とにかくそうした形で海外の流通活性化にも今後は貢献してきたいと思う。
青井: ちょっと総括にならないけれども、私たちは2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、障害の有無やLGBT含む性別を超えて、すべての人に楽しんでいただける店づくりをしていきたい。成熟化した日本だからこそ、そういう商業施設をつくりたいという目標がある。この点は(会場を指して)杉山(文野氏:トランスジェンダー活動家)さんのお力をお借りしながら今進めているところだ。
小澤: これほど大きなマーケットがあって、これだけ業種業態が変化していてプレイヤーも次々変わっている業界はなかなかないと思う。だから我々もすごく楽しみにしている。で、これは世界の模範になるかどうか分からないけれども、ソフトバンクグループは世界で唯一、キャリアも検索もメディアもeコマースも、さらには会員ビジネスも決済もあるグループだ。こういうモデルはアマゾンにもグーグルにもない。そういうグループが、前段で申しあげたビジネスの多重化でフルレバレッジをかけたときに何が起きるか。それを日本で証明したいという思いが私にはある。
先ほど申しあげたように、アマゾンというのはあまりにも強い。なので、そこで勝負を挑んでアマゾンより安く売ろうとするなら、販売価格以外のところでお金をいただく必要がある。だから今は「販売価格は安いけれども、実はキャリアのほうでお金を頂戴しているんですよ」というようなモデルを試している。
とにかく、これほど変化が激しい業界なので、やれることはまだまだあるんじゃないかなと思う。そこで世界に先駆けて何かできることがあるとすれば、実はキャリアまで含めたグループでeコマースを世界で初めてやっているという点だ。それで、たとえば先般2月1日からはソフトバンクのスマホであればYahoo!ショッピングとLOHACOでの買い物でポイントが10倍になるというキャンペーンを打っている。これはかなり滑り出しがいい。なので、その点はご期待いただきたい。今はソフトバンクグループとして死ぬほどお金をばらまいている。なので、使い勝手が悪いのは重々承知のうえで「Yahoo!ショッピングは今お得です」と(会場笑)。何か購入する前にYahoo!ショッピングで価格チェックをおススメしたいと、宣伝も入りましたが最後のご挨拶に替えさせていただきたい。ありがとうございました。
岡島: ありがとうございます。現在のeコマースはアマゾンの一人勝ちかなと思っていたけれども、実は日本にも数多くのヒントがあるということが学べたように思う。バリューチェーンを崩す話、チャネルを崩す話、ビジネスモデル多重化の話、あるいは消費者との距離感や信頼感等々、いろいろなお話が出てきた。ビジネスモデルで勝つためのヒントが数多くあったのではないか。素晴らしいスピーカーの方々に大きな拍手をお送りください。本日はありがとうございました(会場拍手)。
※この記事は、2017年3月18日に北海道ルスツリゾートで開催されたG1サミット2017のセミナー「コマース革命で日本が世界の模範となるために、企業はどう動くべきなのか」を元に編集しました
※GLOBIS知見録「視る」で本セッションの動画版をご覧いただくことができます
小売業界で勝ち抜くための「オムニチャネル戦略」~丸井、セブン&アイ、ヤフーの事例から